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君が奏でる部屋  作者: 槇 慎一


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95講師時代〜結果


 僕は毎日さりげなく妻の額に手を当て、頬を包み、暖かさを測った。妻の平熱は低く、生理前に僅かに体温が上がり、ようやく人並みになる。今もまだ暖かい。それでも36度後半か……、37度にはならない。妻は意識しているのだろうか。



 夏に向かい、日差しが強く、眩しがる。気温が上がり、体温も上がり、暑がりになる。これから具合が悪くならないか、心配だ。家と職場が近くて本当によかった。連休明けは、どんな生活になるのだろうか。楽しみというか、怖いというか、こんな気持ちは初めてだ。演奏の本番前の緊張感とは全く違う。種類が別物だ。命がかかっている、その重みだろう。そして自分には、もうどうにも出来ない。






 連休最終日。


 未だに体温が高く、多分そのせいで少しぼんやりした妻の手を引いて、一緒に買い物に出かけた。僕はもう、この時には半ば確信があった。妊娠していなければ、少しひんやりした、いつもの手のあたたかさ、いつもの体温に戻るはずだ。妻は既に薄着で、風邪の心配もしたくなる程だった。今に始まったことではないが、この時期からそんなに薄着で、夏はどうするつもりなのかと考えながらドラッグストアに連れて行った。



 妊娠検査薬を探した。

 棚の前で妻に見せて、買ってみるかどうか聞いた。妻は箱を凝視し、書かれた文字を隅から隅まで読み、頷いた。



「飲む薬じゃないんだ?」

 妻が呟いた疑問に僕は軽く驚いたが、何でもないことのように答えた。

「飲む薬じゃないみたいだね。」


 帰宅してからは、鼓動が更に速くなる思いだった。


 検査するタイミングが早いと、正確な結果が出ないと書いてあった。一人で向こうに行った妻が、結果を持ってパタパタと走ってきた。



 あぁ、望んだ結果になったか。


 見せてもらうと、陽性のところに薄い線が、終了のところに濃い線があった。


 薄いけれど、確かにそれは線だとわかるものだった。


 妻が下を向いて、でも嬉しそうにしているのがわかった。


 僕は、本当に赤ちゃんができたという事実にびっくりした。本当にできるんだ?信じられない。簡単だったし、嬉しかったし、皆驚くだろうなと、いろいろな思いが交錯した。




 妻をふわりと優しく抱きしめた。

 妻のお腹の中にいる、赤ちゃんも一緒に抱きしめたつもりだ。もう、何も迷うことはない。僕が迷ったのは何だったんだ?そして、僕を迷いから救いだしたのは何だったんだ?……それはすぐに思い出した。僕を見る、妻の眼差しと真剣な気持ちだった。



 妻と結婚できて、今までも幸せだったのに、こんな気持ちになったのは、生まれて初めてだと思った。抱きしめた腕の中に、妻と僕の赤ちゃんがいるなんて。妻の背中に、涙が落ちた。



 僕がそんな神聖な気持ちでいたのに、妻は動きたいみたいでうずうずしていた。


「マヤちゃんにだけは報告してもいい?結婚する報告が遅れた時、すごく怒られたの。今までで一番怖かった」

 必死な感じが、何だか可笑しい。そういえば、そんなこともあったな。


「僕より?」

「同じくらい」


「わかった。どうぞ」

「ベッドでおとなしくしてきます」


「よろしい。これからは走ったり、重いものを持ったり、体を冷やしたりしてはいけません。わかるね?」

「はい!」



 妻はベッドの中でお友達のマヤちゃんにメールをしていた。ベッドの中にいる妻は、音も立てずにウキウキして、何だか可笑しかった。



 かわいい妻がママになる。

 僕がパパになる。


 うん、いいかも。














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