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君が奏でる部屋  作者: 槇 慎一


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28リサイタルの準備



 かおりのソロリサイタルは、3月の最初の日曜日となった。プログラムは決まっているし、レッスンもしっかり受けていたから、これからは睡眠不足の心配なく、ゆっくり落ち着いて準備できる。


 そして、結婚式は3月最後の日に決まった。その日はかおりの18才の誕生日だ。結婚式の打ち合わせやウェディングドレスも、来月からいろいろ決めていくことになった。


 それから僕は、グランプリを頂いたコンクールの主催者に、今後も僕たちの活動を応援してもらえるよう、打ち合わせに行った。


 コンクールでグランプリと一位の賞金、高級フレンチレストランでのBGM演奏やサプライズ生演奏などのアルバイトで、かおりに婚約指輪が買えた。僕の大学卒業試験でCDとDVDにライブ録音し、ジャケット写真を撮ってもらって仕上げた。もしかしたらこの材料で写真集も作るとカメラマンが張り切っているが、そちらは未定。


 ショパンのエチュード全曲集は、録音と映像にお金をかけた。これはライブ録音だったので、急逝した教授の言葉「ハラショー!!」が入っている。音大生やピアノを学ぶ人の基本であり、憧れでもあるショパンのエチュード全曲を、教授の教えを受けた集大成として鮮度の高い、貴重な録音だ。


 教授は日本に来てから数年間は演奏活動をメインにしていたため、門下生はあまりいなかったが、その中でも自分が来日すぐから教授の教えを受けていたことを話した。


 担当者は、その場ですぐにDVDを見てくださり、 教授の「ハラショー!!」という声を聞いて目頭を押さえた。そして演奏内容ももちろん素晴らしいので、昨年の一位、グランプリ勝者の演奏と称して販売を許可してくれた。かおりのソロリサイタルでも販売させてもらえることになった。


 リサイタルは予定外に急遽決定したので、ホールを押さえるのが大変難航したらしいが、ひょんな事から偶然、大きなホールを使わせてもらえることになった。東京から近い、1997席あるホールだ。つい先日発売が開始され、既に完売間近だという。またライブ録音ができたら、いい記念になる。


 私事だが、僕とかおりの婚約の報告と、かおりの両親と僕の両親の分の招待券を手配してもらった。


「おめでとうございます。もちろんSS席を御用意させていただきます」

と、快諾していただけた。


 それから、かおりのグランプリ史上最年少受賞と、グランプリ出場者の指導者に贈られる最優秀指導者賞の史上最年少受賞の副賞として、いくつか選択肢をいただいた。


 これについては、遠慮せずに希望を打ち明けた。できるだけ多くの子供たちにピアノを聴く機会をプレゼントしたいと。かおりのソロリサイタルとは趣旨を変えて、あまり大きすぎないホールで、子供たちがピアノを身近に感じられるようなコンサートをたくさん提供したい。僕とかおりでそれぞれのソロ演奏や連弾、会場が可能であれば2台ピアノの演奏を少しずつ取り入れるような、短い時間でも楽しめるプログラムの演奏会を、日本各地で開催してほしいとお願いした。その会場でショパンのエチュード全曲集のCDとDVDを販売したいことも。


 かおりのリサイタルを録音して、来年度のコンクール参加者の参加賞にすることなど、案を出しあった。サイン会を頼まれた。引き受けたが、かおりはゆっくり書くのだろうか。みんな帰れなくなっちゃうな。……想像したら顔がゆるんでしまった。


 かおりのピアノの、一番のファンは僕だと思っている。仕上げるまでは僕が指導しているけれど、かおりは必ずしも僕の伝えたことだけを表現する生徒ではなかった。自分なりの何かを加えたり、新たに習ったことや覚えたことは、他の場所や他の曲で試してみる工夫も楽しめる生徒だ。


 練習でも本番でも、自分で感じた何かを試してみることは悪くない。指導者が伝えたようにしか弾かないなんて、人形のようだし、何の感動もわかないのではないだろうか。


 かおりは僕のように、ピアニストの母親からピアニストになるべく育てられた子供とは違う。普通の家庭で、ピアノが好きで、勉強を優先させてきた。限られた時間の中であれ、努力を継続する才能があるし、自発的に工夫する才能がある。何より、僕と同じようにピアノが好きな気持ちがある。その価値観は、他の何にも代えられない大切なものだった。



 そして、その相手がお互いをも大切に思えることは幸せだった。















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