始めよーよ
いなくなっていた真実を、如月に語ってくれた明王
そんな二人の前に現れたのは、輝流だった・・・
「ねぇ王様、オレと勝負してくれない?」
突然やってきた輝流さんの突拍子のない言葉に、私はどうしようもなく驚く。
彼の目はとても冗談を言っているようには見えない。真剣そのものだった。
「勝負ってお前……いきなりなんだよ」
「中学ん時、一回だけやったの覚えてる? あん時の決着、引き分けだたからちゃんとケリつけたいなって」
「それは分かるが……なんで今になって……」
「オレ、にがっちゃんが好きなんだ」
輝流さんの告白に、神宮さんが驚いて私を見る。
私はただ、うつむいただけだった。
「にがっちゃんが幸せならそれでいい、そう思ってた。でも今回の件で変わった。王様はにがっちゃんを悲しませた。それが許せないんだよ」
「つまりきさ……水瀬をかけて勝負したい、そういうことだな?」
「さすが王様、わかってるじゃん」
ほえ? 私をかけて?
この状況、もしかして私すごいことになってる!?
「じゃ、始めよーよ、王様」
そういう輝流さんの目は、勝負に燃える普通の男の子のように見えた。
勝負はまさかのサッカーだった。
ドリブルで相手の陣地へ切り込み、ボールを取られることなくゴールできたら神宮さんの勝ち、という内容らしい。
逆にボールを取られたら、輝流さんが私を奪うという……なんとまあすごいことに。
勝負の景品的位置が私なんだと思うと、複雑でしょうがない。
しかも、輝流さんは
「もしオレが負けたらにがっちゃんとは関わらないし、ルナティックハウスのバイトもやめようと思う」
なんていうものだから、どっちを応援したらいいのかわからない。
そりゃ神宮さんが好きだし、勝ってほしいけど……
輝流さんと二度と会えなくなるのは辛いなあ。
「手加減しねぇぞ」
「望むとこだよ」
神宮さんがボールをけったその瞬間、勝負が始まった。
彼の巧みなボールさばきを、輝流さんが勢いよく奪おうと奮闘する。
さすがは元サッカー部だ、二人ともうますぎる。
なんて戦いだ、どちらも一歩も引かない。
でも、本当にこのままでいいのかな?
二人とも真剣そのもので、本気でぶつかり合っている。
その姿が、どうしようもなく心を揺さぶって……
「もう、やめてください!!!!」
たまらず発したその声に、二人がぱっと見る。
無意識にこぼれる涙が、頬を伝う。
「二人がただ勝負してるだけなら構わない……でも! 私みたいなのをかけてやるのはやめてください!」
「にがっちゃん……」
「私にとって神宮さんも、輝流さんもどっちも大切なんです! 戦ってほしくない! 私には二人とも大好きな人なんです!」
何回目かな、こうやって泣くの。
最近の涙腺がもろくてしょうがない。
私の涙がどう映ったのかはわからない。
ただ、神宮さんがそっと私を抱きしめてくれたのははっきりわかった。
「悪かったな、水瀬」
「神宮さん……」
「迷ってたが、やっぱりその方がよさそうだ。お前のおかげでやっと決心出来たよ」
ん?
「杉本輝流。お前を、ルナティックハウスのマスターに任命する」
な、なんだってー!?
驚いてるのは、私だけじゃない。
輝流さんは目をぱちぱちさせ、はっとしたように口を開いた。
「いやいやいや、いきなり何の話!? マスターは王様でしょ!」
「俺は病院で、母の手伝いをする。そのために、店を任せられるようなやつを探してたんだ」
「だからってなんでオレ!? バリスタならチューンの方が腕いいじゃん!」
「杉本」
神宮さんの声に、ぴしゃりと輝流さんが無言になった。
「お前だから、任せたいんだよ」
もしかして神宮さんはこの勝負をきっかけに、決意したのかもしれない。
好きな人がいるとわかっていた私を、ずっとずーっと想ってくれた。
自分に挑んできたその心を、神宮さんはきっと……
「ずるいよ、王様……そんなことしても、にがっちゃんとのことは許してあげないんだからね」
そういう輝流さんの目が、キラキラ光っている。
店を持つ、それが夢だって前言ってた。
やっぱり夢はあきらめなきゃ叶うんだな。
負けられないな、私も。
すると、輝流さんの電話が軽快になりだした。
彼は目をごしごしさせた後、何事もなかったかのような声で出る。
「もしもーし。え? うん……うん……い、今から!? り、了解!」
携帯を切ったのを確認すると、私はたまらず聞いた。
「輝流さん、今のは?」
「一大事だよにがっちゃん、王様! ルナティックハウスの取材したいって人が来るって!」
!?
(つづく!!」)
これぞ漫画みたいな展開、ですね。
ほんと、如月がうらやましい・・・
そういえば
前回、前々回とオレと勝負しない?
という台詞が続いてしまったので
少しくどかったですね。すみません。
次回、久々のほのぼの回!




