以後お見知りおきを
とある某日、急に店を開けるといって
姿を消してしまったマスター・明王。
戸惑う従業員たちの前に現れたのは、吉岡斗眞と名乗る少年だった・・・
「初めまして、ルナティックハウスのみなさん。吉岡斗眞といいます、以後お見知りおきを」
斗眞と名乗った少年はくつくつと笑い、私達に会釈して見せた。
この人が、吉岡斗眞って人?
きれいな茶髪に二つのピンを付け、赤縁のメガネをしている。
何だろう、想像してたのより結構若そうな人だな。
神宮さんが紹介する人だから、てっきり年配の方かと……
「あんた……本当に吉岡斗眞なんやな?」
「そういいましたが?」
「マスターはどこ行ったん? なんでこの時期にいなくなったりするん!?」
「美宇ちゃん」
天衣さんが優しく止めると、美宇さんは小さく舌打ちした。
「その問いについて、簡単にお答えしましょうか」
「簡単に、やと?」
「あなた方がマスターと呼ぶ神宮明王は、この店を捨てたからです」
捨て、た……?
そんなこと、あるはずがない。だってここは、神宮さんのおじいちゃんへの思いがつまった店……。
それに真咲君の夢だって、ルナティックハウスという名前に込められている。
そんな大事にしていた店を捨てたなんて……
「オレはあの人のかわりのピンチヒッターみたいな感じです。だからあの人の仕事を、オレがやります」
ってことは、コーヒーを作るってことか。
確かに尾上さんしかいなかったし、仕方ないか。
「あなた方の名前などはすでに聞いてます。そろそろ開店です。つべこべ言う暇があるなら、仕事したらどうですか?」
にやりと笑う彼を見て、戸惑うことしかできなかった。
神宮さんがいないことは、予想以上に痛かった。
一人いないだけで仕事がうまくいかないことはよくあったけど、こんなにあわただしいのは久しぶりだ。
ただ、驚いたのは斗眞君の華麗なコーヒーさばきのこと。
劉生大学在学の尾上さんより、うまいようにも見えた。
来てくれた常連のお客さん達が、第二のマスターと呼んだほど。
まあここまで聞けばただのすごい人なんだろうが、現実はそううまくいかない。
それは天衣さんがコップを割ってしまった時に起こった。
「す、すみません! 今片付けます!」
「そんなコップ一つも運べないんですか? 客がいなくてよかったですね。不快を与えさせるところでした」
嫌味を含めた彼の罵声はそれだけじゃすまなかった。
「あなたみたいな人がよく、ここで働けましたね。ほめてあげますよ、桜庭せーんぱい」
斗眞君は天衣さんにささやくように言う。
さすがに黙ってみていられなくなった尾上さんが、彼女と斗眞君を引き離す。
「やめろ。それ以上言ったら殺すぞ」
「お~こわ。王子様気取りですか、尾上先輩」
「桜庭に手を出すのは俺が許さない」
おお、尾上さんやるなあ!
感心しながらも、視線は自然と斗眞君の方へ向く。
彼は私が見ていることに気付いたのか、ふっと微笑を浮かべた。
その様子がかっこいいのなんの!
間違いない、あの人は私の第二のツボであるSキャラ!
まさしく私が小説キャラに求めるそのもの!
これはもう、運命としか思えん!
「にがっちゃ~ん。目がキラキラしてるよ~」
はっ! 私としたことがつい我を忘れて……
神宮さんがいなくなったというのに、なんて無神経なんだ……
「すみません、今見たのは忘れてください」
「無理♪ オレの脳内メモリに保存した♪」
「うぐっ……じ、じゃあ神宮さんには言わないでください!」
「言うって何を? かっこいい人見たら、女の子は誰だってみとれちゃうって」
そうなん、だろうか。
斗眞君が休憩に入ったのを機に美宇さんは文句ぶちまけてるし、天衣さんは尾上さんと話しながら苦笑いを浮かべている。
「まっ、ミュウミュウとあまちゃんは例外だけどね」
「あ、あはは……」
「王様がいない間に浮気とかしないでよ?」
う、浮気だと!?
「き、輝流さん! 冗談きついですよ! 浮気なんて……」
「オレはマジで心配してんの」
そういう輝流さんの顔はいつにもまして真剣で、嘘を言っているようには見えなかった。
「にがっちゃんはかわいいから。いつか本気で君を奪おうとする人が現れると、オレは思う」
「私を……?」
「でも心配ないよ。王様がいない間、オレがにがっちゃんを守るからね」
にこりと笑うその笑顔に私は、どうしようもなくほっとしてしまう。
そんな私達を見つめる尾上さんと、ドア越しから観察するように見ていた彼がいたことも知らずに―。
(つづく・・・)
色々思うところはあると思いますが、
これを書いていた当時、
私の流行りは、Sキャラでした。
小説に出しすぎて、友達に私といえばSキャラとまで
言われた始末です。
実はなでしこに出てる紫苑・・・
彼もその一人なんですよ?
次回、意外な来訪客登場!




