出来るといいね
姿を消した明王のかわりに入ってきた、斗眞という少年。
果たして、その真意とは?
『俺を一番に好きだって言わせてやる。覚悟しな。お前が好きだ、如月』
神宮さん……私も、あなたのことが……
「妄想世界は楽しかったですか? 如月先輩」
え? 妄想? あれ、私……
気が付くと、そこは喫茶店だった。
最近寝不足が多いせいか、ぼーっとすることが増えてしまった。
夢では必ず神宮さんが出てきて、私に愛をささやいて……って何言ってんだ、私!
「人のことを無視するなんて、礼儀がなってませんね」
隣にいるのは言わずと知れた斗眞君だ。
彼はカウンターに座りながら、皮肉たっぷりの言葉を放った。
「またマスターさんの妄想っすか」
「も、妄想じゃないし! 本当にあったことなんだよ!」
「へぇ。あの人ロリコンなんだ。確か先輩、高校生でしたよね?」
「大学二年生ですぅぅぅ!」
くぅぅぅ、後輩にまで背をいじられるとは!
まあSキャラだし、大目に見てあげるけど。
正直尾上さんがいなくてよかった、ふう。
「閉店近いですし、片付けないとだめじゃないですか。働かないとあなたの個人情報漏らしますよ」
「な、なんで私の個人情報知ってるの!?」
「マスターから色々聞いたんで」
うえぇぇぇぇん! 神宮さんの意地悪!
「今からやろうと思ってたの! 斗眞君もちゃんと働いて!」
「はあ? なんでオレが」
「今日二人しかいないんだから、協力してよ!」
私が言うとなぜか彼はピクリと反応し、重たい腰をやっとあげる。
今日ここには私と彼の二人しかいない。
他の面々は色々な予定があり、早めに帰った。
いつもは神宮さんと二人きりの時間帯が……嬉しいような悲しいような、よくわからん時間になってしまったなあ。
とりあえず閉店にするために看板をとろうとドアを開けようとすると、同時に客がドアを開けた。
びっくりしている私に、さらに驚いたことが一つ。
「すみません、閉店前なのに……あ、水瀬ちゃん」
「ゆ、友梨香さん!?」
覚えているだろうか。以前私が輝流さんと仮デートの時に、私の服をコーディネートしてくれた人のことを!
木枯友梨香さん。輝流さんの話によると、サッカー部のマネージャーで神宮さんとも面識があるらしい。
そんな友梨香さんが、なぜ今ここに……
「お邪魔だったかな?」
「え、いやっ、そんなことは……」
「なんで来たんだよ」
友梨香さんの言葉が、私にではなく斗眞君に向けられたものだとすぐに分かった。
彼は何とも不機嫌そうな顔をして、友梨香さんを睨むように見つめている。
「水瀬ちゃんに話があったついでに、斗眞君がうまくやれてるか見てみようかなーって」
「余計なおせっかいを……」
「あの、二人は知り合いなんですか?」
私の問いに相変わらず斗眞君は答えようとしない。
友梨香さんはくすりと笑うと、優しい口調で言った。
「そのことも含めて話がしたいの。斗眞君は、席をはずしてくれる?」
「……なるべく手短にな」
斗眞君は呆れるように休憩室の方へ退出した。
とりあえず私は閉店の看板を掛け、友梨香さんを座らせるとお茶を一つ差し出した。
「話っていうのは、明王君のことなの」
神宮さん、だと!?
私はつい身を乗り出した。
「神宮さんについて知ってるんですか!?」
「いなくなった理由はね」
「教えてください! どうして神宮さんは―」
「私の口から言うのは簡単よ。でも、それで水瀬ちゃんは満足できる?」
ごもっともな意見だ。
神宮さんがなぜいなくなってしまったのか、ちゃんと本人の口から聞きたい。
私にはそれを待つことしかできないのだから……
「私ね、明王君とは幼馴染なの」
「はひ?」
「明王君と家が近所でね。小学校からの腐れ縁なんだ」
は、初耳なんですが……
「訳あっていなくなっちゃったけど、水瀬ちゃん達を捨てたわけじゃないの。明王君のこと、嫌いになったりしないで」
そういう彼女の顔を見て、私は悟ってしまった。
友梨香さんが、神宮さんに恋していたことに。
今もそうなのか、私にはわからない。
けど……
「当たり前です。神宮さんを嫌いになんかなるわけないじゃないですか」
そういえたのは嘘じゃないって証拠かもしれない。
「それじゃあ私は先においとまするね。斗眞君、早めに帰ってくるんだよ~」
小さく手を振りながら、友梨香さんは優しい笑顔で去っていった。
そんな彼女に、私も手を振り返す。
やっぱり、神宮さんもてるなあ。
友梨香さんは大人の女性って感じで、きっとお似合いだったんだろう。
神宮さん、高校の話全然しないんだよなあ。
結局、玲音さんと悠翔さんとどうやって友達になったのかも知らないし。
あの三人のショットとか! 絶対かっこいいでしょ!
知りたいなあ、もっと。
彼女なんだから、それくらい聞いてもいいよね! うん!
「呆れた。かなりポジティブなんすね、あんた」
振り返ると、そこには裏口の鍵を閉め終わった斗眞君が顔をのぞかせていた。
彼は私の方によると、相変わらずの睨みつきで私を圧倒する。
「そういえば、友梨香さんに聞き忘れた。斗眞君と友梨香さんは、知り合いなの?」
「知り合いというか、いとこっす。今年から高校に通うために下宿させてもらってるんすよ」
え? 今この人、高校生って言わなかった?
若い割には大人っぽいから、てっきり大学生かと……
「ちなみにどこ高?」
「霧ヶ峰高校」
なんと!! 弟と同じ私立高校やないですか!
「私の弟と同じ高校なんだ! 偶然だね! そっか~霧ヶ峰か~」
「偶然……? これだけ言っても、まだ思い出さないんすか」
え?
キョトンとする私は彼は、づかづかと歩み寄る。
斗眞君は喫茶店のドアに私を押しかけ、ドンと手をついた。
こ、これは! 壁ドンってやつですか!?
「一つだけ言っていいっすか?」
「と、斗眞君……?」
「友梨はああ言ってたけど、待っても無駄だ。もう神宮明王は戻ってこない。あんたは騙されたんだよ」
斗眞君の瞳はすごく怖くて、みるものすべてを圧倒させるようだった。
彼の顔が息のかかるほど近くなる。
「あんな奴のことなんか忘れろよ、如月先輩」
なぜだろう。私、この人を知ってる気がする。
初めての経験なのにドキドキしないのは、私の心は彼でいっぱいだから。
どんな男性でも、どんなに私の好みでも……
「私は、神宮さんを信じる。大好きだから、ずっと待つよ」
そういって、彼を優しく離した。
「あなたにも出来るといいね。本当に信じられる、好きな相手」
足早に逃げるように去る私は、すっかり爽快感に浸っていた。
だから、思い出そうともしなかった。
「あの野郎……ふざけやがって……! 少しは気づけっつうの……!」
吉岡斗眞。
彼の本当の想いを。彼がなぜ私の前に現れたのかも……。
(つづく・・・)
三部になってから、懐かしの面子が
うじゃうじゃ出てきますね。
出してなかった恨みでしょうか・・・笑
ちなみに冒頭の明王さんのシーンは
第二部でのホテルでの1場面です
作者イチオシシーンですので、そこのところ
よろしくです笑
次回、斗眞の真相が明らかになる!?




