第四十二回:UC1
注訳。このコラムに取り掛かった時、まだ新型アコードはプレス発表されたばかりの頃だったので、やや時代遅れな感じになっている。まあ、書き直すのが面倒なのでそのままにしてしまっている事を読者諸氏には許容願いたい。
さて先日、次期アコードの全容が明らかになった。既に北米で先行していた北米版次期アコードのPHVを日本式にインスパイアと改名せずアコードとして出す事に他ならないこの発表は、インスパイアというネームの消失以上にホンダのローミドルクラスとして様々な発展形態モデルを派生してきた大衆車のシビックと共にホンダを代表した長い歴史を持つアコードという車の事実上の終焉である。
だいたいどうしてこうなった?新しく3タイプ造られた革新的なハイブリッドシステムは良い。プリウスの倍近くでかい図体で同等に近い燃費を維持する事を実現する等、さすが白金触媒無しでマスキー法を克服した初代シビックのVTCCやリッター辺り100馬力も発生させる高出力エンジンのVTECを生み出してきた本田技研だ。
が、幾ら高燃費だからってあの車体はなんだ?日本向けでもあるのに2Lそこそこの分際で185cmと、メルセデスの現行EクラスとかBMWの5シリーズと同じ全幅とか商売舐めているのか?ユーザー目線で確かに使える信頼のホンダ車は何処へ行った?日本で乗るにはデカ過ぎると叩かれているマツダ・アテンザより一回りも大きな車を持ち込んで何がしたいんだ?もっさりした不恰好なエクステリアデザイン以上に、ホンダスピリッツは措いといても自身のホーム・マーケットの売り筋さえ忘れたのか!と強く叱咤したいていたらくである。
閑話休題。愚痴もほどほどにして本題へ戻ろう。
そんなインスパイア(北米名アコード)も、筆者的には手頃な大きさで格好良く思えていた時代もあった。先に取り上げたJ31とライバル関係にあったUC1である。
このモデルの特徴として、今までマイチェン毎にまるで列車の増備車のように型式を微妙に変えていたホンダが、この車以降は後期型もそのままUC1という形式名で留めた事、前期型と後期型で別の車かと見間違える位リアコンビランプの形状と併せて後ろ周りのデザインを一変させた事が挙げられる。
先代のUA4より導入された逆五角形型のフロントグリルを継承して大きくし、それとは相性のあまり良くなさそうに見える前回も挙げた縦目ランプを見事と感嘆するほど雰囲気良く纏めあげた外観、紺色っぽい黒い内装材にアルミ材の帯を通してぐっとシックに締めた内装に、0位置を真下に置いた個性的で且つホンダ車に相応しくスポーティーな白字に赤い針の盤面が映えるスピードメーターとタコメーター。レジェンドクラスの高級車でさえも荒々しく、ひたすら粗削りな部分が目立つホンダ車において珍しい程端正に纏まった車だった。今思えば、今回の新型車にも通じるホンダの高級車への本格的な取り組みがUC1から開花し始めたと捉えても差し支えないかもしれない。UC1以降、ホンダの高級車とされるモデルは現在まで基本的にメーター周りだけスポーティーにすることに止め、内装はシックに纏め、レジェンドを除いて昔ながらのハンドタイプのサイドブレーキを採用するという流れがほぼ固まっている。
技術的な物を挙げれば、日本車で初めて気筒休止システム(VCM)付きi-VTECエンジンを採用。しかもほぼ完璧に円滑制御された初めてのV6エンジンだった。日本車で初と言うのは、そもそも1981年にアメリカのGM社のキャデラックでV8エンジンの物が実現されたのが気筒休止システム付きエンジンの始まりだからである。
インスパイアから搭載されたVCMの特筆すべき点は、ホンダというより日本のメーカーの特徴ともいうべき特筆される正確な電子制御の賜である精密で円滑な制御である。
従来のシステムでは休止していたシリンダーが加速等で再稼働する時、既に活性化している残りのシリンダーと上手く同調できず振動やノイズで乗員に不快感をもたらすという問題があったが、ホンダが開発したVCMによってその問題は大きく軽減されたのである。中低速走行中に半分の3気筒1.5L分だけで動くというその作戦は、当然ながら街乗りにおけるガソリンの節制に大きく寄与し、ハイブリッド車でないにも関わらず同排気量同クラスの他車と較べて燃費の記録を大きく更新した。
残念な事に、UC1とその次のCP3においてその発展と円熟を目指したVCMの華々しい足跡は、現在ではほぼ無意味な物になりつつある。世間は高級車といえども大排気量を誇るのではなく、高回転高馬力の低排気量ターボエンジンかモーター制御も併せたハイブリッドシステムへと完全に移行し、本田技研もその流れに従ってインスパイアの名を廃して北米のアコードに統一し、従来からのモーターはあくまでエンジンの補助をするという思想を元に発達させた新機軸のスポーツハイブリッドi-MMDシステムを導入した2L4気筒の新型i-VTECエンジンを搭載した新型インスパイアを発売するに至った。
それでも、VCMの技術全てが無駄に終わったわけではない。そのエンジンの制御技術やクラッチの電子制御といった円滑な操作をさせる為の基幹技術は新しく開発された先に挙げたのも含める3種類のスポーツハイブリッドにも応用されている。インスパイアの血は間違いなくアコードハイブリッドや他の現行車達にも然と受け継がれているのである。
筆者は現在のホンダ車のデザインや設計のあり方に一家言を投じたいと思う立場には居るが、技術と走りのホンダ車の向かう先をこれからも暖かく見守りたい。そう考えている。




