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第三十九回:JZX110

 トヨタがチェイサーとクレスタを廃止にし、それまでの兄弟関係を刷新してマークⅡへ一本化した時、筆者は目を丸くした。

 先のJZX100の記事でも挙げた通り、マーク3兄弟は、チェイサーはもとよりクレスタにもやっと明確な個性が与えられ、まさに現代自動車史として鑑みれば勢いに乗ろうとしていたからだ。言うならば油が乗り切ってここぞ食べ時!という時に大トロの寿司を目の前から下げられたような心境に陥ったと言おうか。


 そのような観点から一元的に見るならば、110系はがっかりさせられ色々と失われた車という評価しか筆者は下せない。良くも悪くもチェイサーとクレスタという兄弟体制が確立されて久しく、マークⅡは単体ではなく3台セットで1台のモデルとして完結していたからだ。どんなにX110マークⅡ単体が極めて完成度の高い優れた自動車でも、チェイサーとクレスタの居ない大きな喪失感は到底埋められない。


 しかしながらその車単体で評価するならば、110系は何気に高く点を与える事の出来るモデルである。

 まずATの変速機構の制御方式が、全グレード油圧ワイヤー制御から電装バイワイヤ方式へ変更された事である。これにより先代100系ツアラーV以外は縦前後一方向にしか動かせなかった旧世代のシフトレバーから、MT感覚でガチャガチャ動かせる現在の車と同じようなゲート式になった。

 次にフロントフォグランプのバンパー下への移行、先代までの横長にいっぱい使った四角い形からトランクリッドの上辺に接した異型台形の丸みを帯びた物に変更されたテールライト周り等、デザインの大幅な変化である。特にフロントのボンネットとオーバーハングは、下級グレードのエンジンが大きい旧世代の物よりコンパクトな当時での新型2L4気筒エンジンへ変更された所為か短くなり、全体的にきつい稜線によってAピラーの付け根から末端へ向かって落ち込むような、現行130マークXや先代120マークXと同じようにキャビンの居住性を重視した現在的なデザインになり、操縦のやり易さと走行中の安定性が向上した。


 まあ、自称事情通(笑)な人達によると、ハンドルの遊びが大きく急な制動を取ることがあったり柔らかいとも硬いとも言い切れない足回りのサスペンション等のセッティングがいまひとつだったりと、欧州車と比べたら全然駄目だそうだ。でも、完璧な車体感覚を持ちどんな変化も細かに拾う上手な人からそうでもない人まで万人に操作し易いよう配慮に配慮を突き詰めて回答された結果であろうそれらの設定に、下手な奴が運転するにはいいだろうが……、と突っ込みを入れるのは野暮以外の何物でもないと思うのだけれども、これは筆者の方が間違っているのだろうか?


 閑話休題。

 兎も角、110系になってマークⅡは良い意味でも悪い意味でも万人に受け入れ易いモデルになった。良い意味は上記に挙げた居住性と操作性、しかし悪い意味は兄弟車の喪失も含めて面白味が無くなった事である。

 特にここ最近の画一的なモデルばかりに辟易している御仁なら理解して頂けると信じるが、110系のデザインは確かにトヨタ的な視点から見ると十二分にスポーティーとはいえ、その前の角ばった鋭利なデザインの100系と比べると味わいがマイルドになった分刺々しい程の荒々しさが足りない。iR-VでもツアラーV程、否全く抑えきれず溢れるほど豊かな戦意と闘争本能を感じられないのである。高速でぶっ飛ばしている時は流石に大馬力から発せられる躍動的な迫力を感じざるを得ないけれども、先代までのようにただエンジンを切って止まっているだけでもワクワクドキドキ出来る、静かな迫力が110系以降のモデルからは完全に失われてしまった。


 牙を失った歴戦の猛獣は、目出度くおっさん車の仲間入りを果たしたのである。


 しかしながら、それでも筆者がJZX110に対して高い評価が下せる理由は、その高性能さとそれを存分に発揮できる機能的なボディーデザインもさることながら、男は黙って背中で語るを信条とする日本男児的なスタイルから、まるで失った牙を己の内に秘めた赤い熱情を撒き散らす事で取り返そうとするかの如く躍動感を全面に出した、軽妙に女性を誘うジェントルマンなラテン男のような派生モデルの存在があるからである。


 その名をヴェロッサという。

 そもそもの開発経緯がリストラされたチェイサーとクレスタの後釜ということ、商業的には失敗作で販売先のビスタ店がネッツに吸収された2004年には早くも生産終了に追い込まれた事はおいても、そのスタイルは今でも人目を引く存在感に溢れた車であると筆者は思う。伊達に異端車と呼ばれ、欧州……特に南欧の雰囲気を色濃く醸すデザインだけの事はある。

 筆者の記憶ではイメージカラーが赤、内装も本家マークⅡとやはり共通とはいえ漆黒でメーターの電光は赤で統一されていた。CMソングもフラメンゴがバックで流れる街中を颯爽と疾駆する等、フロントグリルの両側にあるボンネットフードとボディーの隙間と丸い目が織りなす愛らしい顔付きやオーバー過ぎる程膨らんだフェンダーで肉付きの良い妖艶なスタイルと共に、ラテン系ヨーロッパ風という異端全開なイメージをメーカー自らが全面に出した車だった。『AERA』のような一見車とは無縁な週刊誌も、態々1ページ割いて話題のトレンドとして記事でレビューを紹介していた位だった。


 今から考えると、ヴェロッサは今のトヨタのヨーロッパかぶれの言動の発端であった気がしてならない。スピンドルグリルのレクサスや現行クラウンは固より、もろに欧州トヨタからそのまま逆輸入してきたアベンシスといった後続モデルの状況から考察するに、既に90年代末か遅くとも前世紀末までには、トヨタ社内で独自の日本風を貫く姿勢からあからさまにヨーロピアンに走る社風へと変化させたきっかけとなる何かがあったらしい。


 しかしそうした後続車達は、あくまでアウディやメルセデスのようなドイツ車が主なお手本である。ヴェロッサはどちらかと言うとフランス車やイタリア車のような南欧的な雰囲気を纏っている。そういう意味ではやっぱりこの車は異端なのだろう。


 そう、筆者は考えている。

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