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第三十八回:F50

 先に断っておくが、この随筆はあくまで素人な車ヲタな筆者が、徒然とセダンについて独り語りする体裁の物である。従ってこれから話題に出すF50も、残念ながらフェラーリ50周年記念のプレミアモデルではない。4代目シーマに与えられた形式である。

 スーパーカーを期待した方には申し訳ないが、このエッセイは4ドア高級車を取り上げる事に主旨を置いている。まずは御理解頂きたい。それでは本題へ入る。


 従来、セドグロの派生車種から出発したという歴史から、特に内装においてシーマのデザインは大きくセドグロに偏向したものだった。ところがゴーン体制になった途端、一気にそれがインフィニティブランドの志向へ大きく振り返された。……という感想を筆者は抱いている。


 というのも、インフィニティブランド時代最初期のQ45と2代目プレジデントにおける形式番号のG50と、Y34時代にインフィニティ用の接頭文字としてのFを兼ね合わせたF50の形式番号を与えられている。

 事実上、F50はインフィニティ・Q45、日産・シーマ、日産・プレジデントが同じ車種で統一されるという、筆者にとって何とも面白く無い事態が出現した。しかも前期から中期への移行時、プレジデントとQ45との共通化の際に、それまでシーマにも存在したVQ30DETTエンジン搭載グレードが抹消され、4.5LのV型8気筒エンジンに一本化された。

 これを以って、F50シーマの中で唯一Y34セドグロと結びつけていて、かつQ45とプレジデントと決定的な差異であったアイデンティティが消失した事で、一旦シーマの時代は終焉を迎え、Y50フーガに切り替わると同時にセドグロのネームが無くなったのに前後して、その歴史を途切れさす事にもなったのである。


 自動車、もとい高級セダンとしてF50を語るとすれば、やはり日産が誇るフラッグシップカーだったという点に尽きるだろうと思う。特にF50系列は、中期型から大なり小なり違いはあれ、最高級車種3台が同じ車種で統一されて以降、当時で最新世代とされた電子デバイスの数々が惜しげもなく投入されていた。


 その一つが、中期型から導入されたオートコントロールコーナリングアシストライトだとかそんな感じのヘッドライトユニット中に埋め込まれた補助ライトである。

 夜間、街灯も無い割に交通量の多い真っ暗な道でハンドルを握った事がある人なら解るだろうが、対向車や前走車が途切れた時に出せる上向きの光と、そうではない下向きの光では見える範囲が異なる。それは単に光軸が上下を向いているという違い以上に、100m先まで照射範囲が規定されているハイビームと比べてロービームの規定は半分の50m、実際まともに見られる範疇は40mちょっとしかなくても問題無いという制度上と構造的な事情から来るものである。

 特に日本仕様の車の殆どはライトの眩惑による対向車への走行妨害を憂慮するあまり、ロービーム時のヘッドライト右側だけ極端に照射範囲が狭く暗めであるという特徴があり、歩行者の足元や障害物の最下部しか照射で浮き出してこないので特に交差点での右左折に於いて衝突事故が起き易くなるという問題があった。


 尤も右左折をする際に事前にハイビームにしておけば問題の大半は解決するのだが、閑静な住宅街ならいざ知らず普通は対向車の事を考えるとそうした行為を平然と行うのは憚られる。その為、せめてロー状態でも安全安心に視界が確保されるだけの次善策として、様々なコーナリングアシストライトを日本車メーカーは考えてきた。


 古くはトヨタのように、車幅灯を点けた瞬間から何故かヘッドライトユニット内のフォグランプも自動点灯するタイプが主だったが、車両法の改定でヘッドライトユニットとは独立してフォグランプを消灯できるように法律が改正されてからはあっという間に廃れてしまった。

 そこで多くのメーカーで採用されたのが、別にフロントバンパー下、車両側面のオーバーハング部に各1つずつ付けられた小さなランプだった。ウインカーを作動させるとその方向にあるアシストライトが点灯して、曲がる方向への照射有効視界を押し広げる。この機構はドイツ車がやり始めた80年代末から全ての日本車メーカーの間で爆発的に流行り、遅くとも03年頃まではよく見掛けた機能であった。少なくとも前回までにこの随筆で紹介したほぼ全ての車には、標準もしくは選択付属物として搭載されている機構である。


 一方、F50に搭載された類のアシストライトは、ステアリングを切ると舵角からタイヤの軌跡を予測するコンピューターを通じる事で、ハンドルを回した方向にある補助ライトユニットが計算で導かれた数値に呼応して回転し、コーナーに適当な照射範囲を広げるという面白い仕組みを備えていた。

 これは既に方式が違うとはいえ集積回路も用いた同様な物をトヨタが先行して実用化していたとはいえ、当時の日産車としては画期的なメカニズムだった。何故なら、ウインカーを点滅させなければ作動できない、たとえ車線変更程度の全く必要のない場面でもウインカーを焚けば勝手に作動するという、従来のアシストライトの欠点を見事に克服したからである。


 画期的なライトといってまず外せないのが、F50系のヘッドライトのロービームのHIDディスチャージライトユニットだろう。ちょっとしたお茶缶のような円筒形をしたユニットに、上下2つ真ん中に3つと計7個の球形をしているビー玉のような照射レンズが埋め込まれている、まるで昆虫の複眼を彷彿とさせるような目は、奇抜という言葉位でしか言い表せられない威圧感と違和感がある。まだLEDのヘッドライトユニットが普及した現在なら別かもしれないが、照射範囲と光量で国際規定に到達出来ない脆弱性をまだ克服出来ず商品化の目処もなかったHIDバルブ大全盛かつての状況を鑑みれば、何でこんな事をしたのだろうという驚嘆せざるを得ない。これを思いついて実行できた人なりグループは、相当に先見性の持ち主だったに違いない。F50シーマが誕生してから早10年弱、この従来のHIDバルブや旧い車のそれにも搭載することも出来るシーマのロービームバルブは、その手軽さと奇抜さから主にVIPカー関連の改造車のヘッドランプユニットとして今でも多くの人が採用している、ある種の人気パーツとなっている。


 惜しむべきは、シーマ以外で日産はこの個性的なライトを後世代車には採用せず、トヨタ他ライバルメーカーに追従して従来型のHIDバルブへ方針を一極化させている事だろう。

 日産というメーカーは、最近ではジュークのように、時に頭が固くなった車マニアには想像もし難い色物、もとい極めて個性的なモデルを市場に出して度々私達を驚かせてくれる。しかし残念かな。現行キューブ等数少ない例外を除けば、他のメーカーの車と同じように一発屋で終わって、次の後継車は何か凡庸な物に果ててしまう。

 明後日な方向の的外れではなく、ちゃんと市井に受け入れられているセンスの良い物が多いのだからもっと自信を持てばいいと思うのだが……。

 取り敢えず、メルセデスとの共同開発の成果であるという新型エンジンを搭載すると噂の、次期型のフーガとその派生車種に密かな期待を寄せる筆者なのである。

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