エピソード7:奈津美との関係
奈津美の薬管理を医師から任された俺は、一週間分入るピルケースを買って奈津美の家に戻った。
「これとこれが朝で…」
「これとこれが夕食後…」
「残りが寝る前…」俺は床に座り込みぶつぶつ呟きながら、プチプチとシートから薬を開けてセットしていく。
「ふう…よし、できた。これが一週間分…ちゃんと規則正しく薬飲んでくれよ。」
俺のその言葉に、奈津美は嬉しそうに「わかりました」と返事をする。
今日は水曜日。
俺はピルケースを指差し「ここ、水曜真ん中から飲むんだぞ。寝る前はその下。明日は次のピルケースの上のやつ。」そう言って続ける。
「残りの薬は俺が持って帰る。また来週水曜に薬セットしに来るから…」
俺がそう言ってふいに奈津美に目をやると、奈津美は嬉しそうな…でも悲しそうな顔をしていた。
俺は立ち上がり、奈津美の隣…ベッドに腰掛ける。
「おいおい、どうし…」俺の言葉が終わる前に、奈津美がこちらを向いたと思えば…キスをされた。
やや乾いた唇の感触…唇が離れると、奈津美は「ごめんなさい、嫌でしたか?」そう問うてきた。
「嫌じゃないよ」俺の口からは自然に、そう言葉がでてきていた。
ただ、思ったことを続けた。
「奈津美ちゃんはまだ若い女の子なんだから、自分を安売りしちゃ駄目だよ。」…と。
奈津美はか細い声で「でも…私にはなにもないから」そう呟いた。
『私にはなにもないから』…それは口癖なんだろうか。
どうしてそう思うのか、今度こそ聞きたいところだったが…
終電が迫っていた俺は「じゃあ今日はこれで、また来週来るから」そう言い残し帰路に着いた。
◇
次の日の昼休憩開始チャイムが鳴ると、また三浦が近付いてきた。
「佐倉課長ー…昨日、どうでした?」
その三浦の問いかけに、俺は簡潔に事情を説明する。
キスされたことは伏せた。
「お薬管理…ですかぁ。もしかして課長、母性…じゃなくって父性出てます?」
俺はそう問われてハッとした。
「そう…かもしれないな…」
俺はなぜ、奈津美にここまでしてやろうとなったんだろう。
自分でもそれがよくわからなかった。
その時丁度、奈津美からLINEがきた。
『明日の夜、華金なので…飲みに行きませんか?』
気付くと三浦が俺のスマホ画面を覗き込んでいた。
「おい、やめろよ…個人情報だぞ。」
俺がそう言うと、三浦は「すみませーん」とニヤついた顔で去ってった。
◇
金曜日。
『スーツのままで大丈夫ですよ、悠斗さんの会社の近くで飲みましょう。』
そう言われていた俺は、お言葉に甘えてスーツのまま待ち合わせの飲み屋街に赴いた。
待ち合わせ場所には、もう奈津美がいた。
「ごめん、待たせた?」俺がそう言うと奈津美は首を振る。
そして「大丈夫ですよ」と微笑んだ。
俺たちは居酒屋に入り、手始めに定番のビールと枝豆を注文した。
「薬、ちゃんと飲めてる?」俺のその問いに奈津美は「悠斗さんのおかげで…ばっちりです!」そう答えた。
「安心したよ」俺はそう言い枝豆をつまむ。
そしてビールを飲んで…ふと思ったことを言った。
「そういやさ、精神薬と酒って…相性悪くなかったか?」
俺の問いに奈津美は「気付いちゃいましたか…でも大丈夫ですよ。本当は良くないんだろうけど、精神薬服用しながらガールズバーでも働いていたので…。」と、苦笑しながら答えた。
「ガールズバー?奈津美ちゃん酒弱いのに?」そう俺が言うと、むっとした口調で「飲めますよ!…吐いちゃうけど」と奈津美が答えた。
「それは飲めるとは言わないよ」俺はつい吹き出しそうになった。
話も盛り上がり、終電が近付く頃には奈津美はベロベロだった。
「おいおい…大丈夫か?」俺が水を差し出すと、奈津美はそれをコクコクと飲んだ。
「……たい…です」奈津美が何かを言う。
「ん?」俺が聞き返すと、奈津美が「今日は悠斗さんの家に!泊まりたいです!!」と言った。
そして、うっ…と口を抑える。
奈津美は黙ってお手洗いに向かった。
◇
「ほら、家着いたぞ。」
俺がそう言うと、奈津美は「おじゃましまーす!」と言って俺のマンションの部屋へと上がり込む。
酒を吐いて多少すっきりしたようだ。…テンションの高さに変わりはないが。
「一人暮らしなのにいいとこ住んでますねー!」部屋をキョロキョロ見渡す奈津美に、「普通の1LDKだ」と答える。
「シャワーは?着替え…ジャージなら貸せるけど。」俺のその言葉に「お借りします~」と奈津美は答えて脱衣所に向かった。
シャワーの音が聞こえてきたので、俺はクローゼットから奈津美用のジャージを取り出す。
それをバスタオルと一緒に脱衣所に持っていくと、洗濯機の上に奈津美の服と…下着が無造作に脱ぎ捨てられていた。
俺は見なかったことにして、部屋に戻った。
◇
「シャワーありがとうございました」
奈津美はすっきりした顔で脱衣所から出てくる。
貸したジャージは少し大きかったようだ。
「俺もシャワー浴びてくるから、寝てていいよ。もう一時回ってるし…」
俺がそう言うと、奈津美は「じゃあ…ベッドで待ってます!」そう言って寝室に向かった。
◇
俺たちは、今度は俺のベッドで一緒に寝ることになった。
俺はソファで良い、と言ったものの奈津美がそれを断固拒否したのだ。
「悠斗さん…」奈津美がそう言って俺の背中に腕を回し、脚を絡めてくる。
「私のこと…抱いてくれませんか?」突拍子もないその発言に俺は戸惑う。
「駄目…ですか?」うるっとした瞳でそう、問いかけてくる奈津美。
「奈津美ちゃんは自分のこと、もっと大切にしないと駄目だよ…」俺は戸惑いながらもそう答えた。
「…私には何もないから……」奈津美は消え入りそうな声でそう呟く。
俺が口を開きかけると、奈津美はその口を塞ぐようにキスをしてきた。
この前とは違う、濃厚な口づけ…。
その口づけで理性が吹き飛び、俺は奈津美を抱いた。
突く度に「あ…ンっ…」と喘ぐ奈津美はいつもとは違い可愛く…そして愛おしく感じた。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
『エピソード8:交際』へ続きます。




