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第62話 繋がり

「レン様……!」


 光から闇へ。降り立つは一人の騎士。

 黒龍(アルトワール)とルシアが邂逅する。


「貴様は……」

「貴方は……」


 交差する視線。

 その一瞬で、黒龍の中にレンがいるとルシアは看破した。


「よかった……」


 抑えきれず、口から溢れたのは安堵の言葉。

 対する黒龍(アルトワール)は眉を顰めた。

 

「何をしにきた。矮小なる存在よ。もはや貴様にできることは――」

「――レン様! 目を覚ましてください!」


 黒龍(アルトワール)の言葉を遮り、声の限り呼びかける。

 その視線が向けられている先は黒龍(アルトワール)の胸の中心。ルシアとレンの繋がりがそこを示していた。


「ハッ……。オレの言葉を遮るとは、いい度胸だな。死にたいのならば先に殺してやる」


 

 殺意を向けられ、ルシアは初めて黒龍(アルトワール)の顔を見た。

 ルシアにとって大切なのはレンだけ。だから黒龍(アルトワール)は敵。その視線は冷ややかなものだった。

 

「できませんよ。私は知っています。レン様に私は殺せない。絶対です」


 自信を持って断言するルシア。

 黒龍(アルトワール)の眉間に刻まれた皺が一層深くなる。

 

「不快だな小娘……。オレの名はアルトワールだ」

「それはどうでしょう?」


 レンはそこにいる。だから武器は必要ない。

 ルシアは持っていた剣を捨て、両腕を広げた。

 言葉だけで十分。そう体現するかのように。


「試してみては?」

「――死ね」


 目にも留まらぬ速さで漆黒の大剣(ミゼル=ヴェルクーガ)が振るわれる。

 英雄でなければ反応すら許されぬ速度。

 しかしルシアは一瞬たりとてその目を閉じることはなかった。心の底からレンを信じているから。


「……な……に……?」


 しかして。

 振るわれた大剣はルシアの眼前で止まった。

 黒龍(アルトワール)がいくら力を込めてもその剣先がルシアを傷付けることはない。


「……答え合わせをしましょう。お祖母様の預言に介入したのは貴方ですね? 黒闢の厄災アルトワール」

「……愚問だな」

「肯定と受け取ります」


 ルシアは再び繋がりの先へと視線を向ける。


「聞いていますかレン様。貴方のことです。きっと自分を責めているのでしょう。だけど違います。全ての元凶はこの厄災です。貴方のせいではありません」

「戯言を。貴様がレンと呼ぶ存在はオレだ。だからすべての元凶はオレであり、レンでもある」

「違います。貴方はレン様に宿った思念に過ぎません。異物です」

「……」


 交差する視線。

 その温度は冷ややかを超えて極寒に。


「もはや言葉は不要だな。剣で殺せないのならば世界もろとも吹き飛ばすのみ」


 世界を滅ぼすべく、黒龍(アルトワール)が告げる。

 終焉の言葉を。


「――暴走。……龍」

 

 だが、先が紡がられることはない。

 黒龍(アルトワール)の意思に反して。


「それが証拠です。貴方がレン様でないのなら、私を殺せるはずです」

「……オレはオレだ」


 苛立ちを含んだ声。しかし現実は変わらない。

 だから黒龍(アルトワール)は方針を変更する。


「いいだろう。貴様は後回しだ。まずは外を滅ぼす」


 最大の敵である白龍(アルセリオン)龍帝(セリア)は既に此処、閉じた世界の中。

 もはや外に敵は皆無。同じ真龍種だろうが、白龍(アルセリオン)でなければ、脅威ですらない。

 ここから先は戦いですらなく、ただの虐殺だ。


「さらばだ」

 

 黒龍(アルトワール)は外へと出るべく、大きく翼をはためかせた。


「貴様はそこで世界が滅びるのを指を咥えて待っていろ」

「……」


 ルシアは答えない。

 結末は既にわかっている。だから問題はなにもない。

 

 黒龍の動きが、止まる。


「戻りましょうレン様。貴方には、ヴェルナード様から託された想いがあるはずです……!」

「……ふざけるなよ。貴様に理解できるのか。オレの憎悪が。邪魔をするな」

「――理解できるよ。アルトワール」


 静かに声が響く。

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