第54話 不朽空域
――創世。
白龍アルセリオンは、新たに世界を創造した。
……無茶苦茶すぎるだろ……!
重力に従い、落下する。
ボクはすぐさま翼を広げ、気流を操作。滞空した。
龍帝の背にもいつの間にか純白の翼が顕現しており、難なく滞空している。
見渡す限りの蒼穹。
上下左右前後。全方向が果てのない空。龍眼を持ってしても地が見つからない。
出鱈目すぎる。
これが厄災を滅ぼした真龍種、そして【真核】の力。
「セリア。どうだ?」
「……おそらく、アタリだ。だけど本人に自覚はない」
龍帝の言葉に、白龍は目を伏せた。
「……そう……か。……残念だ。やはりこの因果は断ち切れぬのだな」
「……」
龍帝は答えない。代わりに剣を構えた。
「殺す、でいいんだな?」
「ああ。本来の力を取り戻されたら今度こそ星が滅びかねん」
「さっきから何を言ってる……?」
ボクには理解できない会話。だけどボクに関係していることは明らかだ。
「……黒龍の力を受け継ぎし人類種よ。貴殿には星のために死んでもらう」
「……星のため、ねぇ? ならお前たちはボクのために死んでくれ」
この世界にはボクと龍帝、そして白龍しかいない。
ボクにとってそれは好都合だ。
……ようやく全力が出せる。
ルシアがいないのであれば巻き込む心配はない。
だからボクは全身に刻んだ魔術式に魔力を流し込んでいく。
しかし条件は相手も同じだった。
龍帝と白龍が魔力を解放する。
大気が震え、世界が軋む。
「バケモノが……」
冷や汗が頬を伝う。
世界を滅ぼしかけた厄災を討伐した英雄。
つまりそれは、こいつらも世界を滅ぼしうる力を持っているということ。
「「行くぞ!!!」」
「……龍新星!!!」
だから、初手から決めにいく。
放つは無制限の龍新星。
闇が爆縮し、黒が溢れる。
全てを呑み込む闇が空間を侵蝕していく。
そこでボクは死んだ。
蘇生し、目を開ける。
見据えた先にいたのは龍帝と白龍。
……無傷かよ。
これで決めるつもりだったが、見たところ傷一つない。だけど……。
……効いてないわけじゃない。
魔力に僅かな乱れがある。
それがわかれば十分だ。ボクは再び――。
「――ッ!」
「死ね――」
耳元で、声がした。
ボクは反射的に自害用魔術を起動する。
目の前でボクの死体が斬り刻まれ、空へと落ちていく。次の瞬間、四肢に痛みが走った。
見れば光で出来た短剣が突き刺さっている。
……白龍!
とりあえず自害する。
そして蘇生した瞬間、魔力を龍眼に集めた。強化しないと動きすら追えない。
しかし、その時にはすでに龍帝の剣が首元に迫っていた。
――違和感。
まただ。ボクはこの光景に見覚えがある。
龍帝セリア=ルクシア、そして背後に控える白龍アルセリオン。
それが、かつて見た光景と重なる。
……いや、そんなはずはない。
なにせボクたちは初対面。だからそんなことはありえない。ありえないのに、妙な既視感がある。
自害。そして蘇生。
目の前で首を斬られる自分を見つつ、魔術式を記述。周囲を黒剣で埋める。
だけどこんなもので龍帝は止められない。
一瞬でも時間が稼げればそれで十分だ。
「……」
ボクは龍帝を見据える。
厄介なのは纏っている光だ。黒剣が触れただけで消滅していく。
突破するのは至難の業。
だけどボクは、その突破方法を知っている。
光に有効なのは、純粋なる闇。
闇ならば黒龍から受け継いでいる。だからボクは魂から闇を抽出し、自分の魔力に混ぜ合わせていく。
しかし龍帝の方が早かった。
黒剣をものともせずに距離を詰めてくる。狙いは変わらず、首。
ボクは即座に自害、蘇生。そして再び魔術式を記述。黒剣を生み出す。
しかしそこで飛来したのは光の短剣。黒剣の悉くが打ち砕かれた。
刹那の時間すら稼げない。
一歩で距離を詰め、剣を引き絞る龍帝。
純白が瞬く。
自害し、致命打を避け……切れなかった。
左の二の腕を貫かれ、激痛が走る。
「……くっ!」
眉を顰めながらも即座に自害し、蘇生する。
だけど左腕に力が入らない。左腕という概念が斬られていた。
……く……そッ!
動きについていけなければ始まらない。
ボクは咄嗟に龍眼を闇に浸した。
龍帝が空中を踏み込み、加速する。そして上段から剣を振り下ろした。
……見える。
ようやくだ。ようやく見えるようになった。
龍帝の剣を首を傾けることで回避。
「――ッ!?」
龍帝から驚愕の気配が伝わってきた。
だけどボクは無視する。相手が驚いていようがどうでもいい。――ここで仕留める。
ボクは覇黒剣を闇に浸した。
瞬間、龍帝の背後に白龍が現れる。その顎は大きく開かれ、白が収束していた。
「――龍ノ息吹」
「――龍ノ息吹」
一瞬の拮抗。
しかしすぐに白が黒を呑み込んだ。
そのままボクも呑み込まれ、身体が蒸発する。
「……くっ!」
蘇生し、歯噛みした。
当然だ。ボクに出来て、白龍に出来ないはずがない。
ヤツの龍ノ息吹も光そのものだ。
「急ぐぞセリア! 時間がない!」
白の中から無傷で現れる龍帝。
「わかって……いる!」
なぜか。
なぜか両者は焦っている。
まるでボクを早く殺さなきゃいけない理由があるみたいだ。
龍帝が距離を詰め、剣を振るう。白龍もそれに続いた。
背の光芒が輝き、無数の大剣を生み出す。
先ほどは見えなかった攻撃。だけど今はよく見える。
ボクは一歩踏み込み、龍帝の剣を弾く。だけどまた逸らされた。
体勢を崩され、窮地に追い込まれる。先ほどと同じだ。
……まだだ。まだ足りない。
闇を全身に広げ、浸していく。
身体が中から作り替えられていくのがわかる。だけどその感覚がひどく心地良い。
……いや、懐かしい?
身体の感覚が引き戻されていく。
自害し、蘇生。
また龍帝の剣を弾く。今度は逸らす隙は与えない。
しかし流石は龍帝というべきか。力に逆らわず、一回転。そのまま殺到した大剣を左手で掴んだ。
……何を狙っている?
ボクは冷静に見極め、白龍の大剣を順に処理していく。
その間を縫うように、龍帝の手から大剣が投擲された。
ボクは一歩だけ身体をずらす。
だが、失敗。何かにぶつかった。
「……」
視線を向ける。するといつの間にか、光の壁が現れていた。
「なっ!?」
まさか遠隔で操作できるとは。
ボクは咄嗟に身体を逸らす。
だが回避し損ねた。胸の突き立つ大剣。
その時には龍帝が眼前へと迫っていた。
振りかぶられる剣。
狙いは首。ボクは即座に――。
「――がっ!」
左胸に激痛が走る。
……くそっ!
自害用魔術が起動しない。おそらくは心臓が貫かれている。だからボクは敢えて一歩前に出た。
「貴様ッ! 正気かッ!?」
……正気だよ。
言葉にしたつもりだったが、血栓が喉に詰まって出てこない。
身体の中を何かが突き進む。
だけどこの間合いでは剣を振るえないはず。
注意すべきは概念を斬る斬撃のみ。剣を振るわれなければ問題ない。
そしてボクは絶命する。
目の前にはボロボロになった死体。龍帝が腕を振り払うと、空へと落ちていった。
ボクは大きく後退する。
「これでも届かない……か」
「残念……だったね」
正直危なかった。
一手でも間違えていたら、今頃ボクはあの死体だったはずだ。
やはり経験の差は如何ともし難い。
「……」
龍帝が大きく踏み込み、一瞬で距離を詰めてきた。
瞬く間に刻まれる何百もの剣閃。だけどすでに見えている。
ボクは一つ一つ的確に捌いていく。
しかし次の瞬間、身体が両断された。
「がはっ……!」
血を吐きながら前を見る。そこには龍爪を振り切った白龍。
……なんて間合いだよ!
その隙を突いて、龍帝が迫る。
ボクはすぐさま自害。蘇生する。
目を開けた瞬間に飛来したのは大剣の雨。それと同時に上空に巨大な魔術式が記述された。
見たことのない魔術式だ。高度に暗号化されている。
ボクでも介入できないし、そんな余裕はない。
龍帝は大剣の雨をものともせずに、剣を振い続ける。まるでボクを釘付けにするかのように。
……狙いは上か?
わからない。避けた方がいいのか、喰らって死んだ方がいいのか。
白龍に目を向けると、ただひたすらに魔術式を記述し続けていた。
魔術式同士が重なり立体へ、そして複雑に絡み合っていく。
……なんて魔力量だよ。
空間が歪むほどの魔力量が上空に渦巻いている。喰らえば確実に死ぬ。
そんな確信があった。だけど概念を斬る斬撃のような脅威は感じない。
死にはするが、おそらく蘇生はできる。
だからボクは無視した。集中すべきは目の前の龍帝だ。
そして放たれるは無数の剣撃。
ボクもお返しに同数の剣撃を放つ。
身体が理想へと近付いていく。
しかし人型であるのがなんとももどかしい。
……は? ボクは今、なにを?
思考に一瞬の空隙が生じる。その瞬間、龍帝が左腕を振るった。
……なんだ? なに、が!?
天恵【守護聖天】は防御特化の天恵だ。
攻撃ではない。だけど嫌な予感がして、ボクは避けた。
しかし何も起こらない。
――ブラフ。
その瞬間、魔術式が完成した。
突き立つは十の雷槍。
雷が弾け、槍と槍を繋いでいく。
……マズッ!
ボクは白龍の意図を悟った。
足止めだ。脅威を感じなくて当然。これはボクを殺すためのモノではない。
あくまでも本命は龍帝の剣。白龍はただそれだけを狙っていた。
「くっ……!」
ボクは自害用魔術を起動する。だけど遅かった。
バチッと雷が爆ぜる。
「がぁ……!」
瞬間、四方から電撃が襲いかかってきた。
激痛が走り、視界が明滅する。
だけど死なない。死ねない。
これは決して殺さず、釘付けにすることに特化した魔術だ。
「くっ!」
ボクは歯を食いしばり、魔力を操る。
だけどうまくいかない。脳の電気信号が完全に麻痺している。身体も全く動かせない。
焦燥感が募る。
目の前に迫るは龍帝。剣を引き絞り、神速の突きを放とうとしていた。
魔術も使えず、行動もできない。
完全に詰みだ。
だからボクは、身体を闇に浸す。
やるべきことは身体を作り変えること。
人間の姿ではなく、本来の姿へ――と。
身体が膨張し、漆黒の龍鱗が全身を包む。
指からは鋭い爪が、口からは強靭なる牙が生えていく。
その過程で魔術は打ち砕いだ。しかし激痛は止まない。これは身体が作り変わる痛みだ。
視界が明滅する。何度も意識を失いそうになる。
だけどボクは堪えた。
歯を食いしばって、ひたすらに。
やがて変貌は完了した。
「遅かったか……」
ボクの姿を見て、セリアとアルセリオンが動きを止めた。
その表情に驚きはない。ただ決然とボクを見ていた。
そして、白龍が呟く。
「……アルトワール」
心臓が跳ねた。
知らない言葉、知らない……名前。
そのはずなのに、ボクは知っている。
「アルト……ワール……」
かつて感じたことのないほどの頭痛が襲いくる。
「…………ぁ。そう……か」
思い出した。
全てが、繋がった。
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