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第53話 差

 放つは漆黒の極光。

 それと共に自害用魔術を起動。心臓を破裂させる。

 リセットだ。流石にこいつら相手に片腕は厳しい。


 死んですぐに蘇生する。

 腕が生えたことを確認し、ボクはすぐに次の手を打った。覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)を左右に大きく展開させる。

 そして、熱線を纏わせた。


「……龍ノ息吹(ドラゴンブレス)


 三条の極光が白龍(アルセリオン)に襲い掛かる。

 しかし、その前に躍り出た影が一つ。


「させん」


 龍帝が左腕を無造作に払い除ける。すると、天から光が降り注いだ。

 闇と光が衝突する。そこへ響くは厳かな声。


「……接続、真龍王域(しんりゅうおういき)。起動、真龍武装。――顕現、至純剣ラウゼ=クラウゼータ」


 白龍(アルセリオン)の背後の空間に亀裂が走った。

 眩いばかりの光が溢れ出し、光芒を形作る。

 やがて光は収束し、一振りの剣が姿を現した。


 真龍武装。

 

 ボクの覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)と同じ武装。だけど纏う存在圧が桁違いだ。


 しかし白龍(アルセリオン)はまだ止まらない。


「――起動、龍核炉心」


 天から聖なる光が降り注ぎ、静謐なる気配が世界を満たす。

 この世全てが白龍(アルセリオン)に味方している。そんな錯覚すら引き起こす壮麗なる景色。


 ……これが、永き時を生きる真龍種。


 額から冷や汗が流れる。

 龍帝セリア、そして白龍アルセリオン。そのどちらもがボクより格上だ。


「……くっ」


 ボクは自分が気圧されているのを自覚した。

 文字通り、格が違う。

 だけどそれは、歩みを止める理由にはならない。


 ……気を引き締めろ。気圧されてる場合じゃない。


 冷静に、冷徹に。

 ただ殺す。それだけだ。


 闇が光を砕き、消失する。

 それと同時に、ボクは一歩踏み込んだ。龍帝に肉薄し、覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)を下段から振り上げる。

 

 迎え撃つは純白の剣。

 翼の意匠をあしらえた剣が凄まじい速度で振り下ろされる。


 直後、衝撃。


「くっ!」


 苦悶の声を漏らしたのは龍帝だった。

 純粋な膂力ならばボクの方が上。だけどさすがは歴戦の猛者。すぐに対応してきた。

 

 龍帝がやったことはシンプル。

 力負けしてると判断した瞬間、絶妙な力加減で剣を傾けた。均衡が崩れ、龍帝の剣身(ブレイド)の上をボクの覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)が滑る。


「くっ……!」


 意図を察した時には手遅れだった。

 覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)が刃先を過ぎ去る。

 結果として、隙を晒したのはボクの方。龍帝の剣がそのまま振り下ろされる。

 狙いは首だ。


 ……マズイ!


 喰らったらボクでも死ぬ。

 直感がうるさいほどに警鐘を鳴らしていた。


 一歩足を引き、後退する。

 首の先、数ミリの場所を刃が通り過ぎた。しかし体勢が崩れる。

 それと同時に龍帝の剣が翻り、返す剣で首を狙ってきた。


 ……無理だ!


 ボクは即座にそう判断。自害用魔術を起動した。


 目の前で、ボクの首が飛んでいく。

 その瞬間には距離が詰められ、再び剣が迫ってきていた。

 狙いは首。執拗に人体の弱点を狙ってくる。


 しかし今回は先ほどよりかは猶予があった。

 だからボクは覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)を差し込み、なんとか受ける。


「ぐっ……!」


 人外の膂力。

 力ではボクに分がある。だけどそれは真正面から打ち合ったらの話だ。

 体勢が崩れていたせいで吹っ飛ばされた。


 ……くそっ!


 内心で悪態を吐きながら翼をはためかせ、空中で体勢を立て直す。だけどその時にはすでに、龍帝の剣が首元に迫っていた。


 圧倒的な実力差。

 純粋な力ではボクが優っている。だけどその他全てが劣っていた。

 積み重ねてきた戦闘経験、研ぎ澄まされた剣技。

 所詮付け焼き刃のボクとは、なにもかもが違う。龍帝は自分の力を磨き上げてきたホンモノだ。


 ボクが勝てる道理なんてない。


 ……はっ! だからどうした!


 ボクは自分の考えを嘲笑う。

 道理なんてモノは関係ない。足りないというのならば、かき集めろ。

 そこに必ず活路はある。

 

 自害用魔術を起動。

 迫る剣を死ぬことによって回避する。そして生命活動が停止するまでの刹那で、ボクは周囲に魔術式をバラ撒いた。

 顕現するは無数の黒剣。

 加えて、蘇生した瞬間に龍ノ息吹(ドラゴンブレス)を放った。


 しかし龍帝は前に出る。気付けば全身が光に覆われていた。


 天恵【守護聖天】。


 龍帝の天恵は十年前にルシアから聞かされている。おそらくこの光がソレだ。

 龍帝セリア=ルクシアの天恵は防御特化。

 全ての攻撃を遮断する光を操るらしい。


 よほど自信があるのか、龍ノ息吹(ドラゴンブレス)へと真正面から突っ込んだ。

 そしてボクの眼前へと躍り出る。


 だけどそれは想定内。ボクは極光から飛び出してきた龍帝の額に銃口を突き付けた。


「――死ね」


 引き金を引く。

 放つはライフリングが刻まれた漆黒の銃弾。

 特殊な能力は何もない。ただ貫通力のみを追い求めた弾丸だ。

 使用した素材は龍鱗。ボクの爪を変化させてから加工した物だ。


 銃弾は灼熱しながら回転し、龍帝の眉間へと吸い込まれていく。

 だが龍帝は避けなかった。

 そして銃弾が光に触れた瞬間、弾けて消えた。


「チッ!」


 全く効いていない。これが効かないのならばもはや銃では傷一つ付けられないだろう。

 だからボクは銃を投げ捨てた。かわりにもう一振りの覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)を握る。

 手数が足りないのならば二刀流だ。


「……」


 龍帝が剣を引き絞る。今まで見たことのない構えだ。


 ――違和感。


 まただ。また違和感がする。

 

 なぜか。

 

 ボクはこの構えを知っている。


 刹那の間に放たれた神速の突き。狙いは心臓。

 それをボクは覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)剣身(ブレイド)で受け止めた。


「……!」


 龍帝から驚愕の気配が伝わってくる。

 その一瞬でボクは龍ノ息吹(ドラゴンブレス)を放った。

 極光に呑み込まれる龍帝。だがどうせ効かない。あの光をどうにかしなければボクの攻撃は一切通じない。


 ……アレを真似する必要があるな。


 概念を斬る斬撃。

 あれならば()()()。ボクはそう確信していた。


 半身になり、二振りの剣を構える。

 しかし龍帝は攻めてこなかった。


「アルセリオン。まだか?」

「……今、できた」


 戦場に厳かな声が響き渡った。

 その宣言は白龍(アルセリオン)が動くことを意味する。


「……接続、()()

「ッ……!」


 その言葉を聞いて、ボクは飛翔した。

 翼を使い、全速力で。


 ……マズイ!


 これから何が起こるのかはわからない。

 だけど白龍(アルセリオン)は今、無色の龍が管理する守護地【真核】へと接続している。

 よくないことが起きるのは確定だ。


 ……今まで動かなかった理由はこれか!


 だがそこへ立ち塞がるは、龍帝セリア=ルクシア。


「ここは通さん」

「退け……!」


 覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)と純白の剣が激突する。

 一瞬の内に繰り返される剣撃の応酬。三振り目の覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)も使って喰らいつく。

 だが、突破できない。

 やがて声が響き渡った。

 

「……創世、不朽空域(ふきゅうくういき)


 景色が一瞬にして切り替わった。

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