第49話 解析
「ボクの言葉を信じるのか? 神王アルストン」
「……」
アルストンは答えない。しかし代わりに事実を口にする。
「封印しても無制限の龍新星が来る。だからレン殿の言っていることは正しい」
「……また預言か」
ボクは盛大に顔を顰めた。
おそらくは仮定の預言者が預言を行ったのだろう。条件は、さしずめ「封印に成功したら」と言ったところか。
「ルシア。鍵はお前だ。レン殿と通じ合っているお前だからこそ、切り拓ける道がある」
「無駄だよ。たとえルシアでもボクの考えは変わらない。なにがあろうと、ね」
「……時間は俺たちが稼ぐ。だから、任せたぞ……!」
アルストンが剣を構える。
それを見てボクは気を引き締めた。
隙のない構え。そして身を包む魔力の練度。控えめにいってバケモノだ。
――アルストンは危険だな。
頭の中がうるさいぐらいに警鐘を鳴らしている。
「――行くぞ。不滅の厄災」
「不滅の厄災か! いいね! それ!」
アルストンの姿が掻き消えた。
ボクはジョシュアに割り振っていた二振りの覇黒剣を引き寄せる。
一振りでは足りない。そう直感が告げていた。
一瞬の内に刻まれる白銀の軌跡。それをボクは三振りの覇黒剣を使って防ぐ。
「はっ! 本当に一国の王か!?」
強いとは思っていた。だけど流石にここまでとは思っていなかった。神王アルストンという男は四方神将の誰よりも強い。
「王が弱くていい理由など、ない」
「……たしかにね」
白銀の刃を弾き、攻勢に転じる。
「――龍ノ息吹」
三振りの覇黒剣を使い、同時に龍ノ息吹を放つ。
しかし、アルストンは臆せず前に出た。奇怪なステップを踏み、極光を避ける。
……はぁ!? なんだ、それ!?
龍ノ息吹を前にして、前進する胆力。絶妙な位置取り。生き残る技量。そのどれもが卓越している。
「儂らを忘れてもらったら困るでのう……!」
空間が歪む。転移魔術だ。
ジョシュアとレーナがボクを取り囲むようにして現れた。
アルストンの剣が、ジョシュアの短杖が、レーナの槍が一斉に振るわれる。
……一回死ぬか? いや、釘付けにされるか。
防戦に回っていたら殺せない。だからボクは虚空に大量の魔術式を記述する。
その瞬間、アルストンが叫んだ。
「……退け!」
直後、魔術式が完成する。
大量の黒剣が虚空から突き出した。しかしアルストンの掛け声もあり、難なく回避される。
「……」
ボクは目を細めた。
黒剣が宙に解けるようにして消えていく。
……早すぎないか?
魔術式を記述した段階でアルストンに気付かれていた。当然、魔術はバレないように暗号化を施してある。
だからアルストンはどんな魔術がくるのかはわかっていなかったはずだ。
……これも経験の成せる業か?
腑に落ちない。
それだけで済ませていい範疇を超えている気がする。
……天恵か? いや全てを天恵に結びつけるのは良くないな。
天恵はなんでもありだ。だからそう結論付けてしまうとそこで思考が止まる。
それは危険だ。
しかし、戦闘経験の浅いボクには、それが運なのか、実力なのかの判断がつかない。
「考えごとかのう?」
「ッ!」
思考に意識を割きすぎた。首が切断され、地に落ちる。
その様をジョシュアの鋭い瞳が射抜いていた。まるで観察するかのように。
「やはり! 陛下! レーナ! 殺し続けてくだされ! おそらく龍新星は魂に直接刻まれた魔術式! 解析を行います!」
「……すごいな。そんなことまでわかるのか。――龍ノ息吹」
蘇生した瞬間、三人に向けて黒き極光を放つ。だがその全てが空間の歪みに呑み込まれた。
……しかしそうなると、死に続けるのはマズイな。
簡単にできるとは思わない。
だけどもし龍新星の起動術式を解析されたら、そのまま封印される可能性がある。
……流石は四方神将といったところかな。
だけど焦りはない。
当然それも対策済みだ。龍新星の起動術式へ到達するには三重の魔術防壁を突破する必要がある。
焦るのは二重目の防壁を破られてからだ。
……まあ限りなく不可能に近いけどね。
無論、施している対策はそれだけではない。
「余裕じゃな……」
「余裕だよ。まだ、ね」
とはいえ、決め手がないのはボクも同じ。
ルシアという存在がいるだけで、ボクの広範囲攻撃は全て封じられている。
……さて、どうしようか。
白銀の刃が迫る。ボクはそれを一歩下がることで回避。
頭上から覇黒剣を落とす。しかしアルストンには難なく避けられた。
……後頭部に目でも付いてるのか?
そうとしか思えない感知能力だ。
とにかくアルストンが硬すぎる。無理矢理隙を作り出して攻めているのにも関わらず、全然通らない。
そしてアルストンに気を取られていると……。
「ハァッ!」
レーナに両足を焼き切られる。
ボクは即座に魔術を起動。心臓を破裂させた。
「まだか!? ジョシュア翁!」
「まだです! 魔術障壁を解除しなければ……!」
「だからムダだって。――龍ノ息吹」
「ぬぅっ!」
解析中のジョシュアを狙い、極光を放つ。するといつも通り、ジョシュアは転移で回避した。
……龍ノ息吹はまず当たらない……か。だけどムダってわけじゃなさそうだね。
視線を向けると、大量の汗を流し、肩で息をするジョシュアがいた。
消耗している。
……脳が追いついてないのかな?
おそらく、転移魔術はほぼ無限に使えるのだろう。だけどジョシュアがやっているのはそれだけではない。
魔術防壁の解析に、ボクとの戦闘。それらをしながらこうも転移魔術を連発をすれば、疲れないはずがない。
いくら天恵があろうとも。
「帰って寝たら? おじいちゃんなんでしょ?」
「なんの……! これしき……!」
「すごいな。なら――」
「――ガラ空きだぞ!」
レーナに後ろから頭を吹っ飛ばされた。会話の途中だというのに。
「せっかく話してるのに……」
「黙れ!」
「ふむ……」
レーナはまだまだ余裕がありそうだ。息一つ乱れていない。
そしてそれはアルストンもだ。
……というか、ありえないだろ。
後ろに目がついているとかの次元じゃない。
二振りの覇黒剣の相手をしながら、その間隙を縫って攻撃を仕掛けてくる。
本当に訳がわからない。戦闘のセンスがずば抜けている。
……それだけじゃない気がするけど。
不自然な強さだ。やはり天恵か。
……。
ボクはチラッとジョシュアを一瞥する。
……消耗させるか?
試しに銃弾を放つ。しかし予想通り、転移させられた。自動転移魔術はまだ動いている。
……解析を続……いや、自動化か。そのアイデア、貰おうか。
ボクは解析の方針を変える。
……まずは解析に集中だ。
攻撃は最低限に。ボクは防御に集中する。
「なにか狙っているな?」
アルストンが目を細めた。
露骨すぎたか。だけど教えてやる義理はない。
「さあね」
三人の猛攻が苛烈さを増した。嫌な予感がした、というヤツだろうか。
……まあ当たりだけど。しかしやっぱり広範囲攻撃を封じられているのはキツイな。
囲まれた瞬間に確定で一回死ぬ。
辺り一面を吹き飛ばせば楽なのだが、やっぱりボクにはできなかった。万に一つもルシアが傷付く可能性のある攻撃は放てない。
だから諦めて解析に集中する。解析が終われば、そしてうまくいけば、それで詰みだ。
……さて、ボクの解析とジョシュアの解析、どっちが先に終わるかな。
覇黒剣と魔術、そして銃を牽制に使い、防御を固めていく。
解析を遅延させるために。
なるべく死なないように。
そしてこちらの解析が進むように。
すると死ぬ数が目に見えて減ってきた。
「くっ!」
ジョシュアが歯噛みする。焦っているのだろう。
だけど、もう少しだ。
「ジョシュア翁!」
「もう少しです! これを抜ければ……!」
しかしもう遅い。
……これで……完了。
するとその時、魔術防壁が砕かれた。
どうやらほぼ同時だったらしい。だけどボクには後二つの魔術防壁がある。
ジョシュアが大きく目を見開いた。
「なっ!?」
「残念。三重だよ。そして……」
二重目の魔術防壁。そこに仕掛けられた魔術が起動する。
「早くしないと復活するよ?」
それは魔術防壁の自動修復機能。
たとえ一つ破られようが、即座に二重目を打ち砕かなければ再生する。
「くっ……!」
焦ったジョシュアが転移魔術を使う。その転移先は……。
「……なに!?」
ボクの目の前だ。
「構築完了。ここら一帯はもう、ボクの支配下だ」
ジョシュアの首を無造作に掴む。
「ぬぅ……!」
「ジョシュア翁!」
ジョシュアが使用した自動化の魔術式。
それを応用して転移魔術に自動介入、転移先の強制変更を行う術式を構築した。
だからもう、転移魔術は使えない。
ジョシュアが何度も魔術式を記述する。しかし転移先は変わらずボクの前だ。
「……キミは厄介だったよ。東方神将ジョシュア」
ボクは覇黒剣を振り上げる。
「だけどこれで、さよならだ――」
振り下ろされる覇黒剣。
しかしジョシュアを斬り裂く寸前で、前方の空間が歪んだ。
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