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第48話 黒い魂

「レン様! どうかお考え直しください!」

「無駄だよ。ルシア」

 

 ルシアとレーナの攻撃を捌きながら銃弾をばら撒く。

 狙いは転移魔術の使い手、東方神将ジョシュア。しかし相手は老練の魔術師。当然、一筋縄にはいかない。

 魔術式が記述され、ばら撒いていた銃弾が自動で捌かれるようになった。


 ……魔術の自動化!


 思わず頬が引き攣る。

 まさかそんなことができるとは。思いもしなかった。

 ボクにはない発想だ。

 だから解析には時間を要する。

 

 しかし決してできないわけではない。


 なにせこっちはヴェルナードの知識を受け継いでいるのだから。

 必要なのはサンプルの数。だからいくらムダであろうと引き金を引き続ける。


 そんな中、ボクは変な魔力反応を感知した。

 新たな魔術だ。しかし攻撃魔術や防御魔術の類ではない。

 よく視れば神王国勢を相互に繋ぐ、魔力の糸のようなものが現れている。

 おそらくは支援魔術の類。

 

 自動転移魔術の解析を並行しつつハッキング。魔力の糸をボクにも繋げておく。


『――全員聞け。彼の厄災は不死の可能性がある。封――』

『――へー。通話みたいなこともできるのか。便利だな』


 心の中で呟いた言葉。

 しかしアルストンの言葉が止まる。

 ボクはやらかしを悟った。


 どうやら言葉が伝わってしまったらしい。


 ……しまったな。あぁ。こうすれば入らないのか。


 感覚的な話だ。魔力を閉じるような感覚で思えば伝わらない。

 しかし残念だ。バレなければ情報を抜き放題だったのに。


 ……まあ仕方ないか。


 今重要なのはそこではない。

 ボクの不死がバレたということだ。

 しかしそれには心当たりがある。


『それが預言か。バレたなら、もう隠す必要はないかな』


 レーナの槍が顔面に迫る。しかしボクは避けなかった。

 バレた以上、もう避ける必要はない。そしてボクは死んだ。しかしすぐに蘇る。


 ……アレが預言者か。


 アルストンの隣にいる女。

 あれが、――仮定の預言者が、()()を行った。


 ……ん?


 視界がブレた。

 なぜか、預言者の姿が重なって見える。背後に、まるで聖女のような純白の法衣を纏った女が見えた。


「ぐっ!」


 頭痛がして、顔を顰める。


 ――またキサマか。フィレイン。


 思考にノイズが走った。意識に空隙が生じる。

 一瞬、自分が何を考えているのかがわからなくなった。――動きが止まる。

 

「レン様。不死って……」


 だけどボクの意識はルシアの声によって引き戻された。ルシアも、レーナでさえも、驚き、その手を止めている。

 

「……ああ。ほら、ボクって昔から見た目が変わってないだろう?」

「それは……ヴェルナード様の力を取り込んだからでは?」

「違うよ。ボクの天恵(ギフト)は【不老不死】。老いもしないし、死にもしないんだ」

「それは……」


 ルシアは言葉を失っていた。


 ……なんでボクはこんなことを。


 別に話す必要はなかった。だけど、気付いたら口が動いていた。


 ……流石におかしい。


 ルシアのことを忘れていたり、意識に穴が空いたり。さっきの頭痛もそうだ。力を受け継いでから、訳のわからない事態が頻発している。


 ……もう一度。


 身体全体を魔術で精査する。

 だけど、何も異常は見当たらない。


 ……そういえばヴェルナードは記憶を……。


 胸に手を当て、自身の記憶を探る。

 だけどあるのはここ20年分の記憶のみ。

 前の世界の記憶はやはりない。


 ……あとは……。


 そういえばと、思い出す。

 ヴェルナードは、魂の色を視ていた。


 力を受け継いだ今ならばボクでも視れるはずだ。

 目に魔力を込める。例えるのならば視界のチャンネルを変えるような感覚。

 そしてすぐに見つかった。


 ……なんでこんな色をしてるんだ?


 ボクの色は無色透明だったはず。

 だけど今は濁っていた。

 いや、濁っているなんてものじゃない。

 深淵を思わせる黒。底知れぬ漆黒。まるで魂に穴が空いているかのようだ。

 わけがわからない。


 だけどボクに起きている異常、その原因はコレだと直感した。

 

 単純にヴェルナードの力を受け継いだからなのか、他にも要因があるのか。いつからこうなっているのかがわからない以上、検証はできない。


 ……ヴェルナードにも聞いとくんだったな。


 ヴェルナードの魂の色が黒だったなら、これが別におかしなことではないと確信が持てた。

 しかしそれはもう、言っても詮無きことだ。


「……ッ!」


 するとその時、ボクの背に手が触れた。

 いつの間にかジョシュアが魔術式を記述している。意識が疎かになっていた。


 ……また転移魔術か!


 だけど二度目だ。同じ手は喰らわない。

 ボクは即座にハッキング、魔術式を崩壊させる。

 だけどジョシュアもそれは想定内だったようだ。すぐに次の手を打ってくる。


 ジョシュアとレーナが入れ替わった。

 既に槍を引き絞った状態だ。穂先がこちらを向いている。

 次の瞬間、ボクの頭が爆ぜた。


「……全く。痛くないわけじゃないんだからな?」

「イヤならば神王国から去れ!」

「ごもっとも……」


 苦笑を浮かべると、レーナの額に青筋が浮かんだ。別にバカにしてるわけではないのに。


「ジョシュア翁! 不死者とやり合ったことはあるか!?」

「ある! だがこやつは特殊じゃ! 預言が失敗している!」

「だからいつも言っているだろう! 簡潔に言え!」

「蘇生限界がないということじゃ!!」

「……ならば封印でいいんだな?」

「その方法はオススメしないよ」


 会話に割り込む。

 ジョシュアとレーナの言う通り、ボクの弱点は封印だ。それはヴェルナードからも厳しく言われていた。

 だからこそ、対策していないわけがない。

 

 空間の隔絶、時間の停止、思考の停止とありとあらゆる封印が行われた場合、龍新星(ドラゴニック・ノヴァ)が起動するようにしてある。

 全て吹き飛ばせばそれで済む。脳筋思考の対策だ。


「効く、からかのう?」


 ジョシュアが鋭い視線を向けてくる。だけど別に説明してやる義理はない。

 

「どうとでも。ただやるというのなら、国の滅亡を覚悟しておいた方がいい」

「……」


 ジョシュアと視線が交差する。

 ボクの言葉がブラフかどうかを考えているのだろう。存分に悩むがいい。


「再開するとしようか」


 ボクは覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)の切先をジョシュアに向ける。

 その前にルシアが割り込んだ。


「もうやめてください! レン様!」

「……くっ!」


 腕が、まるでガチャ目鳥に視られたかのように動かなくなる。これでは覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)を振るえない。


 ……覚悟を決めろ! 復讐を果たすんだろ!


 心の中で叫ぶ。しかしボクの腕が上がることはなかった。だからボクは標的を変える。

 狙いはジョシュアだ。

 

 一瞬で距離を詰め、剣を振るう。振るえる。

 相手がルシアで無ければ戦える。


 ……なんでだ!


 至近距離から放たれるは龍ノ息吹(ドラゴンブレス)

 黒の極光がジョシュアを呑み込んだ。しかし空間が歪み、ジョシュアの気配が消える。

 ボクの背後に出現するジョシュア。

 その手にはいつの間にか短杖(ワンド)が握られていた。


 軽快に振るわれる短杖(ワンド)。次の瞬間、ボクの四肢は断ち切られていた。


「……凄まじい……ね」


 やられたことは単純明快。

 ジョシュアはボクがハッキングする前に魔術を成立させた。しかもおそらくは、空間切断なんていうとんでも魔術を。

 

 ――戦い慣れている。

 

 魔術の腕がいくら優れていても、所詮ボクは(ヴェルナード)の威を借る(ボク)でしかない。経験の差が段違いだ。そもそもの年季が違う。

 

「……」


 ジョシュアは答えない。代わりに大声を上げた。


「時停封印を行う!」

「……ッ!」


 ルシアが息を呑んだ。


「ダ――」

「――ルシア嬢! 優先順位を間違えるでないぞ!」


 逡巡したルシアに檄が飛ぶ。だけど遅い。

 封印というのはどんなに簡単なモノでもそれなりに時間が掛かる。ボクを封印するのならば、足止めは必須だろう。

 となると、まず動きを止められるのは予想がつく。

 だからこの状態は想定済みだ。

 

 ボクはあらかじめ胸に記述してあった魔術式に魔力を流し込む。

 直後、心臓を血の刃が貫いた。


「がはっ!」


 口から血を吐き、死亡する。


「……龍ノ息吹(ドラゴンブレス)


 蘇った瞬間、ジョシュアに向けて黒の極光を放つ。


「厄介な……!」


 しかし呑み込むまえに転移で避けられた。


 ……厄介なのはどっちだよ。だけど!


 二振りの覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)を操り、転移し続けるジョシュアを釘付けにする。


「レン様!」


 悲痛な叫び。今にも泣き出しそうなルシアが果敢に攻めてくる。しかしその剣に冴えはない。

 まるで殺意が乗っていない。

 

「……止めてもムダだよ。ルシア」


 だけどボクの腕も上がらない。

 お互いがお互いを傷付けないようにしている。


 ……ダメだな。


 ボクは悟った。

 どうあってもボクはルシアを攻撃できない。

 それはヴェルナード亡き今、ルシアはボクにとって世界で一番大切な人だから。

 そんな人を傷付けられるわけがない。


 ……あぁ。認めるよ。


 ボクはルシアを殺せない。

 だから方針を変える。ルシアを殺さずに、神王国を滅ぼす。

 それが最善だ。


 たとえルシアに嫌われ――。


「――ッ!」


 まただ。また頭痛がした。

 意識に空隙が生じる。


「レン様!」


 だけどボクを引き戻すのはいつだってルシアの声だ。

 

「いい加減にしろルシア! どちらの味方だ!?」


 レーナが吼える。だけどルシアはブレない。


「両方です! 私は民を守護する盾! そしてレン様は私の大切な人です!」

「ちっ! 全く!」


 舌打ちをするレーナ。しかしこれにはボクも同意だ。

 滅ぼそうとしている側と守ろうとしている側。

 その両陣営に属することはできない。


「レーナの言う通りだよルシア。ボクは譲らない。神王国を滅ぼすまで止まることはないよ」

「名前を……! 呼ぶな……!」


 怒髪天を衝く勢いで怒られた。

 炎を纏った槍が心臓を穿つ。即死だ。


「レーナ! 殺すでない! 四肢を斬れ!」

「わかっている!」


 直後、空間の歪みを感知。そちらに覇黒剣(ミゼル=ヴェルクーガ)を振るい、黒を放つ。


「こっちじゃ」


 しかしブラフだった。全く別のところから出現したジョシュアが短杖(ワンド)を振るう。

 だが先ほどのような空間切断ではない。風が吹き荒れ、胸を浅く斬り裂かれただけだ。


「レーナ! 今じゃ!」


 目にも止まらぬ速度で槍が振るわれ、四肢が切断された。ボクは胸の魔術式に魔力を流す。だが上手くいかなかった。


「はっ! やるね!」


 魔術式が壊れている。

 ジョシュアの魔術は自害防止用。一度視ただけで対応してきた。流石だ。


 しかし焦りはない。ボクは背中に記述した魔術式で心臓を破裂させた。そしてまた、蘇る。

 

「何度やろうとムダだよ」

「しかしそれほど抗うということは、やはり封印が効くということではないのか?」


 ジョシュアが目を細める。対するボクはただ首を振った。

 

「違うよ。ボクはただ、ルシアを殺したくないだけだ」


 封印されれば無制限の龍新星(ドラグニック・ノヴァ)が放たれる。おそらくその破壊力はこの国を破壊するだけじゃ止まらない。


「レン殿の言う通りだ。ジョシュア翁」


 聞こえてきたのはまさかの同意。

 そこに現れたのは神王アルストンだった。

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