第40話 復讐
三日後、僕はゼスマティア神王国の王城へと侵入を試みていた。
敵はヴェルナードを倒せる四方神将だ。正面から戦いを挑むなんてバカな真似はしない。
万全を期す。絶対に失敗しないために。
……まずは門……だね。
王城には深い掘りに架けられた跳ね橋があった。
東西南北の四方に伸びており、人の通りは結構ある。
一回りして見たところ、一番人通りが少ないのは北門だった。なので侵入経路は北に決定だ。
跳ね橋を越え、門へと辿り着く。
人通りは少ないが、いないわけではない。当然門番はいるし、出入りする人もいる。
そんな人たちの横を僕は素通りした。
誰一人、気付く者はいない。
……通用するな。
今、僕が使っているのは、この三日で作ったオリジナル魔術だ。ヴェルナードから受け継いだ知識と僕の知識をフル活用して作成した。
高度な光学迷彩に始まり、魔力の完全遮断。その他隠蔽魔術の複合。
歩いても音はせず、空気の揺らぎさえも起こさない。
まるで透明人間にでもなった気分だ。
……この分だとハッキングも必要なさそうだな。
足を踏み入れた瞬間にわかった。
流石は王城。セキリュティは完璧だ。
通路には幾重にも監視魔術が仕掛けられている。
ヴェルナードの知識を受け継いだ僕が先を辿ってもすぐにはわからない。
おそらくは監視魔術の類。それ以上を解読しようと思ったら時間が掛かる。
僕ですら舌を巻く出来栄えだ。
だけど僕には関係ない。
対策は完璧だ。如何に優れた魔術でも僕の魔術は破れない。
その証明に監視魔術は沈黙を貫いている。
あとは人とぶつからないように注意すれば問題ない。
……まずは情報収集かな。
王城を歩き回り、人々の話に耳を傾ける。
しばらく歩いていると、なぜヴェルナードが殺されたのかがわかった。
どうやら北に厄災が出現すると預言があったらしい。
それだけだ。
たったそれだけだ。
……狂信者どもめ。
僕たちはただ生活していただけ。
無論、ヴェルナードが厄災なんてことはありえない。
僕たちは外になんて興味がなかった。
だから厄災になる理由がない。
なのにも関わらず殺された。
預言が出たから。
……許せるはずがない。
僕は歩を進める。
上へ上へと。
階が上がるにつれ、セキュリティが厳しくなる。
だけどやはり僕には関係ない。僕とヴェルナードの魔術の方が上だ。
そうして辿り着いたのは謁見の間。
どうやら冷厳山嶺から帰還した騎士がいるらしい。
僕は無関係じゃないと考え、人の出入りに合わせて侵入した。
部屋の中に多くの人々がいた。
その中でも一際目を引くのは玉座に座る人物。この国の王、神王アルストン=ルザーク=ゼスマティアだ。
銀の長髪に僕と同じ朱い瞳の偉丈夫。
見たところかなり強い。座っているだけでも隙がない。
……こいつが。
ヴェルナードを殺せと命令した元凶。
胸に灯った炎が、この男を殺せと激しく燃え盛る。
だけど我慢だ。
今はその時ではない。
「アルス。報告を頼む」
アルストンはその切れ長の目を、跪いている騎士へと向けた。
「ハッ! 北方神将レオニール様の救出に成功しました」
騎士の言葉に謁見の間に漂っていた重苦しい空気が少しだけ和らいだ。
……レオニール。
言葉からしておそらくはあの時、僕が吹き飛ばした騎士。
ヴェルナードを殺した四方神将だろう。
……生きていたのか。
てっきり死んだと思っていた。
なにせ覇黒剣に身体を貫かれていたのだ。
致命傷だったのは確実。だから気にしていなかった。
……でも、好都合だ。
死んでいないというのならば、僕の手で殺せる。
でも殺すのはこの国を滅ぼしてからだ。
アイツだけはただで殺す気はない。僕と同じように絶望を、地獄を見せてからだ。
「では厄災は……黒龍はどうなった?」
「……わかりません。ですが、気配はありませんでした。それとレオニール様が存命なのは黒龍の血を浴びたからだと……」
「黒龍の血……。龍帝と同じ現象か」
「はい。治療院の見解では……」
「……倒していないまでも、深い傷を負わせた可能性は高い……か。……ふむ」
アルストンが口元に手を当てて思考を巡らせる。
「万全を期すべきだな。残る四方神将に通達を――」
「――ここにおりますよ陛下」
跪いている騎士、その目の前の空間が揺らいだ。
そして姿を現したのは白髪金眼の青年。
幅広の三角帽子に丈の長いローブを着用しており、如何にも魔術師といった風貌をしている。
「謁見の間への転移は禁じていると何度も言っているだろう。――ジョシュア翁」
一目見て理解した。こいつが四方神将の一人だ。
巧妙に隠してはいるが、その身に秘める魔力量がとんでもない。一人だけ規格外だ。
それに魔術の腕も超一流。
転移魔術を使いこなしているのがその証明。
王城に張り巡らされた魔術を管理しているのもコイツだ。そして十中八九、見た目通りの年齢ではない。
「ほっほっほ。しかし緊急ならば許すと、以前仰られていたではありませんか。今は緊急かと。違いましたかな?」
「……減らず口を」
「言葉が汚いですぞ。陛下」
「……まあいい」
アルストンが大きなため息を吐いた。
「ジョシュア翁。あとの二人は?」
「二人とも城内におります。呼びますか?」
「頼む」
「かしこまりました」
ジョシュアは恭しく頭を下げると、流れるような動作で魔術式を記述した。
……ありがたい。
城内に居るのならば範囲内だ。
僕はゆっくりと歩を進める。
確かにお前たちは正義を成したのだろう。
なにせ厄災の討伐だ。それは世界にとって善。英雄的な行いだ。
きっと彼らはこの国にとっての勇者なのだろう。
ならば僕の親友は悪なのか。
それは違う。断じて違う。
ヴェルナードは空っぽだった僕に多くのモノをくれた。心優しいドラゴンだ。
彼が悪ならば、世界のほとんどが悪になる。
つまるところ、正義や悪というのは主観でしかない。立場が変われば容易に逆転するほど軽いモノだ。
だから僕は、僕にとっての正義を果たす。
彼らにとってそれが悪でも関係ない。先に押し付けてきたのはお前らだ。
僕は神王の前に立った。
そして隠蔽魔術を――。
――バタンッと大きな音を立てて扉が開いた。
僕は吸い寄せられるように目を向け……。
……ルシ……ア?
成長し、大人になっている。
だけどその眩いばかりの輝きは昔のまま。一切色褪せてはいない。
そこにいたのは紛れもなくルシアだった。
――違和感。
そうだ。なぜ気付かなかった。
ここはゼスマティア神王国。ルシアが大切にしている国だ。
なぜそんな大事なことを忘れていた?
――強烈な違和感。
ありえない。僕がルシアのことを忘れるなんてありえない。
おかしい。どう考えてもおかしい。
吐き気がする。
……くっ。
僕は身を翻し、その場を後にした。
視線を向けられていることにすら気付かずに。
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