表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/65

第38話 死

 目の前の現実が頭に入ってこない。

 脳が理解することを拒んでいる。

 まるで遠い世界の出来事。

 だけど無情にも悲劇が心に浸透していく。


「……ヴェルナード!!!」


 片翼を失い、黄金の魔力に身体を貫かれたヴェルナード。

 貫いているのは血塗れの人間だ。左腕はなく、全身に火傷を負っている。

 そしてその背中は巨大な黒剣に貫かれていた。


 ――相打ち。


 そんな言葉が浮かぶほどに両者は満身創痍。

 だけどそんなものは関係ない。自分の内側から自分のものとは思えないほどに、ドス黒い激情が湧き上がってくる。


「何してんだテメェ!!!」


 僕は激情のままに叫んだ。

 黄金を()()、握り潰す。そこで人間が僕の存在に気付いた。


「なっ!? 一体どこから――!?」

「――退け!」


 気付いたら人間が目の前にいた。

 いや、僕が移動したんだ。けど今はそんなこと、どうでもいい。

 魔力を掴み、邪魔者を彼方へと吹き飛ばす。


「ヴェルナード!」

「……キミは……レン?」

「……は? 何言って……」

「あぁ……。そうか。レン……。キミ()英雄なんだね」

「だから何を言って――」


 ヴェルナードに手を伸ばし、気付いた。

 腕が、身体が半透明になっている。その事実を認識した途端、腕が解けるようにして消えていく。


 ……まずい。


 身体が解けていく。いや、正確には魂が解けていくと言った方が正しいか。

 おそらくは身体は不要だと願ったせい。魂が剥き出しになり、崩壊が始まっていく。


 だけど今は()()()()()、どうでもいい。


 どうせ、魂が崩壊しても蘇生する。

 僕の【不老不死】は()()()()()()だ。


「まずは傷を見せ――」


 言葉が途中で止まる。

 黄金に貫かれた胴体には大穴が空いていた。

 穴からは憎いほどの青空が見えており、今もなお滝のような血が溢れ出している。人間ならば確実に致命傷だ。


「止血しないと……いや、そうだ」


 僕にはアレがある。

 一国の王でも気軽に入手できないというとんでも回復薬が。あれならば救えるはずだ。

 そうでないと困る。


「神の雫――」

「――レン」


 僕の言葉をヴェルナードが遮った。

 その声音には何故か、諭すような色がある。


「もういい。手遅れ……だよ」

「……ぇ」


 死神の手が心臓に触れる。そんな感覚がした。

 体温が下がり、身体が一気に冷えていく。今は呼吸すら必要ないのに、とてつもなく息苦しい。


「い、いや! そんなはず……だって僕たちには神の雫が……!」

「ダメなんだよ……。前に言ったろ。ボクたち真龍種は自然現象のような存在だって。人類種が使う回復薬の類は一才効かないんだ」

「……そんな」


 いや、だからと言って諦めるのは違う。

 神の雫がダメならば他の方法を探すまで。


 ……考えろ。思考を止めるな。


 かつてないほどに思考を回す。

 回して回して回しまくる。ここで使えない頭なら潰れてしまえ。今ここが、一番重要な時だ。

 しかしいくら思考を回そうと良案が浮かばない。


「それに、もし効いたとしても全て燃えてしまったよ。ごめんね。レン。キミがこの20年、築いてきたモノを……」

「そんなのはいい! また二人で築いていけばいいだろ……!」


 ヴェルナードがいれば僕はそれでいい。それだねでいい。たとえ0になっても何度でもやり直せる。

 他のものなんて些事に過ぎない。


「ふふっ」

「なんで……笑ってんだよ! 自分がどういう状況か――」

「――ありがとうレン。この20年楽しかったよ」


 呟くように口にした言葉。

 それはまるで別れの言葉のようで――。


「ふざけんな! まだ終わりじゃない! 僕たちにはこれからまだまだ――」

「――もう時間がない。だからレンに頼みたいことがあるんだ。聞いてくれるかい?」


 全てを悟ったような表情に心臓が締め付けられる。

 身体はなく、今は魂だけだというのに、涙が溢れて止まらない。


「……本当に……ダメなのか? 何も……。打つ手はないのか?」

「さすがのボクでもこれは治せない。概念ごと斬られてるからね。だから最期に聞いてほしい」

 

 その声音に、もう打つ手はないんだということがわかった。

 力が抜け、地面に膝を突く。

 

「…………わかっ……た」


 最期なら、しっかりと聞き届けたい。

 それが親友である僕の責務だ。

 

「ありがとう。レン。手短に言うね」


 僕は黙って頷いた。


「まず、次に生まれる黒龍を頼んだよ。こんな結末を迎えさせないでくれ」

「……わかった。約束する」

「じゃあ次は……」


 ヴェルナードは言葉を止めると、鋭い爪を胸の中心に突き立てた。


「なにを――」


 直後、爪が身体を抉り、何かを取り出す。

 それは拳大の宝石だった。月夜を彷彿とさせる漆黒の宝石。

 ヴェルナードの龍鱗とよく似た色合いで、とても綺麗だ。


「これを食べてくれ」

「食べ……。何言ってんだよ。こんな時に冗談なんて……」

「冗談じゃないよ。これを食べればボクの力をキミにあげられる。普通は力に耐えきれなくて死ぬけど、レンなら大丈夫」


 理屈はわかる。でもやはり忌避感が強い。

 

「……親友を食べるなんて……僕にはできない」

「魔術も使えるようになるよ」

「そんなのいらないよ。僕はキミがいるだけで……」

「お願いだよレン。受け入れてくれ。きっとこれからレンには力が必要になる。ボクは、キミにだけは生きていてほしいんだ」


 だけどそれがヴェルナードの最期の願いならば。

 

「…………わかった」


 僕は受け入れる。

 

「じゃあ早速……。魂が剥き出しだからちょうどいい。このままいくね。痛いと思うけど我慢して」

「……え?」


 言った瞬間、胸に衝撃が走った。

 ヴェルナードの爪が僕を貫いている。そして次の瞬間、それ以上の激痛が襲ってきた。


「がぁ――!」


 立っていられずに膝を突く。

 身体が、魂が熱い。まるで全身の血液が沸騰したような感覚がする。


「あと⬜︎保⬜︎か。ルシ⬜︎にも――」


 ヴェルナードの言葉がやけに遠く聞こえる。

 もはや何を言っているのかわからない。目の前で火花が散り、意識が朦朧とする。

 しかし最後の最後に聞こえた言葉はハッキリと伝わってきた。


「じゃあねレン。キミと出会えてよかった。楽しかったよ――」


 ……ヴェル……ナード……! 僕の方こそ……!


 叫んだ言葉は音にならず。

 しかしヴェルナードが微笑んだので伝わったのだと確信した。

 そして僕は安堵し――死んだ。

ご覧いただきありがとうございます!


「続き読みたい!」「面白い!」と思ってくれた方は

下にある☆☆☆☆☆を押して、作品の応援をよろしくお願いします!

ブックマークも頂けたら嬉しいです!


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ