第36話 全力
絶えず迫り来る黄金。
ヴェルナードは猛攻からレンを守りつつ、思考を巡らせる。
……マズイね。これは。
英雄にレンの存在がバレた。
レンは【不老不死】だ。殺しても死なない。この規模の戦いに巻き込まれたとしてもすぐに蘇る。
しかし問題なのは蘇生の際に発生する魔力反応。
英雄がその異常性に気付かないはずがない。
……今はボクを厄災と勘違いしているけれど……。
あの蘇生は真龍種をもってしても異常の一言。
本人に全く自覚はないが、真龍種でも理解不能な代物だ。かろうじてわかるのは魂に紐付いたナニカということだけ。
おそらくは、摂理や因果を捻じ曲げる類のモノ。
それを神王国がどう見るか。
……たぶん、厄災と認定されてもおかしくない。
ヴェルナードはそう分析している。
……あとは単純に……。
レンと共に築き上げてきたモノを壊したくない。
ヴェルナードは英雄を殺すために本気で戦ってきた。だけどまだ全力は出していない。
黒龍が全力を出せば、全てが灰燼と帰す。
それは、敵味方の区別なく。故に、レンがこの20年で築き上げてきたモノ、全てが失われる。
苦労して建てた家も、貴重な作物が育つ畑も、二人で作った魔導具の数々も、全て。なにもかも。
それがヴェルナードにはなによりも苦痛だった。
……まさか、英雄がこれほどの存在とはね。
覇黒剣を抜いてさえ殺しきれないとは思わなかった。まさに埒外の存在だ。
だから……。
……覚悟を決める必要がある……かな。
もはや守りながら戦うことは不可能。
ならば全力で殺し切る。
殺し切れればレンの存在を秘匿することは可能だ。
……代償には目を瞑ろう。きっと、レンは許してくれる。
たぶんいつもの調子で「また一緒に築いていけばいいさ」なんて言うのだろう。
それに甘えるのは心底イヤだが、手段を選んでいられる時間はとうに過ぎた。
……ごめんね。レン。少しだけ我慢して。なるべく早く終わらせるから。
これからレンには絶えず苦痛を与えることになる。身体は死ななくても精神にどのような影響を及ぼすかは未知数。
だからなるべく早く、決着をつける必要がある。
「……」
ヴェルナードの纏う空気が変わる。
鋭く変化を感じ取った英雄は大きく距離を取った。
「なにを……!」
ヴェルナードは応えない。代わりに力ある言葉を口にする。
「――起動、龍核炉心」
冷厳山嶺から汲み上げた魔力を龍炉に焚べる。魔力が変質し、より黒龍に適した形へと変化していく。
全身から噴き上がるは、漆黒の炎。
天が燃える。
地が燃える。
虚空が燃える。
冷厳山嶺全体が黒炎に包まれた。
その炎はただ在るだけで生きとし生きるモノを焼いていく。
「ぐっ……!」
英雄が膝を折りかけた。しかしすぐに立て直し、気丈にも剣を構える。
……やっぱりこれでも死なないか。
冷厳山嶺は今や空気すら燃えている。
普通の人間ならすぐに燃え尽きている環境。
しかし英雄は倒れない。
とうに限界は越えているはずだというのに。まるで見えない力に生かされているかのようだ。
……ここで、なにがなんでも殺しておかないと。
たとえ、自分の命が燃え尽きようとも――。
するとその時、背後から異質な魔力反応を感知した。
レンが死んだ。――そして、蘇る。
「なんですか!? この魔力は!?」
蘇った瞬間、また死んで蘇る。
やはりというべきか、英雄は気付いた。その異常さに――。
「まさか! 厄災は貴方ではなく……!」
「キミにレンの何がわかる。彼はただの人類種だ」
「これがただの人類種なわけがないでしょう! 貴方はなんて――!」
「――ふざけるなよ人類種」
ヴェルナードは英雄の言葉を遮る。これ以上、戯言を聞いていたくはなかった。
「ボクたちはただ平和に暮らしたかっただけだ。それを壊したのはキミたちだろう? ボクたちにとって厄災はお前たちだ。――ゼスマティア神王国」
「……私はアレを放置できません。やはり預言は正しかった。アレは必ず厄災となります」
「……狂信者どもめ」
ヴェルナードは目を細める。
そうだ。預言が下された以上、もはや相容れない。
……ボクたちはこの生活を守りたいだけなのに。
だが、英雄は自分が正義だと思い込んでいる。
……どうやら間違っていたのはボクの方みたいだ。
ヴェルナードは考えを改めた。
――もはや言葉は不要だ。
先ほど英雄が口にした言葉。
確かにその通りだ。初めから言葉は不要だった。
ならばあとはもう生存をかけて殺し合うしか道はない。
どちらかが滅びるまで。
「そんなに言うならいい。なってあげるよ。このボク、黒龍ヴェルナードが! お前たちにとっての厄災に……!」
「ならば私は貴方とその後ろにいるバケモノを滅するのみ……! この命に替えても……!」
互いに守るべきものを守るために。
どちらかの命が尽きるまで、この戦いは止まらない。
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