第26話 ディアノス孤児院
ゼスマティア神王国、王都クロミアス。
四方神将が一人、北方神将レオニール・ディアノスはディアノス孤児院で目を覚ました。
ディアノス孤児院は王都の北方地区に存在するごく一般的な孤児院だ。名前の通り、レオニールが育った孤児院でもある。
「……休暇も今日で終わりですね」
レオニールは久しぶりの長期休暇を使い、孤児院を手伝いに来ていた。
だけどそれも今日まで。明日からは通常業務が始まる。
騎士としての仕事はやり甲斐を感じているレオニールだが、大量の書類仕事が待っていると思うと少しばかり憂鬱だった。
「レオにぃ起きてるかなぁ〜」
「ボクはまだ寝てると思う!」
「いやいや起きてるって! レオにぃはいつも早起きだもん!」
「それにいっぱい遊ぶって約束したからね!」
「ねー!」
扉の外から聞こえた元気な声にレオニールの顔からつい笑みがこぼれた。
孤児院で育ったレオニールにとって、子供たちの笑顔は何よりも大切なものだ。
「朝から元気ですね……。起きてますよー!」
レオニールが声をかけると、扉の外が一層騒がしくなる。
「やっぱり起きてた!」
「言った通りでしょ!?」
「さっきは寝てるって言ってたじゃん!」
「そうだっけー?」
「おはよぉ! レオにぃ!」
「おはよー!!!」
扉がバタンと勢いよく開き、子供たちが部屋へと雪崩れ込む。その様子をレオニールは微笑みながら見守っていた。
「こらこら。そんなに走ると転びますよ」
レオニールは緩くウェーブが掛かった金の長髪を纏め、ベッドから出る。するとその足に子供たちが抱きついた。
「レオにぃ! あそぼー!」
「あそぼー!」
子供たちが口々に遊びへと誘う。だけどレオニールには先にやるべきことがあった。
「まずは朝食の準備です。院長先生は――」
その時、廊下からレオニールの言葉を遮るようにして慌ただしい足音が響く。直後、一人の少女が扉から顔を出した。
「――レオニールさま!」
顔を出したのは真っ白な髪を肩口で切り揃えた少女だった。子供たちと比べて年齢は少し高い。
「あれ? アーシア? 今日は城でお勤めでは?」
少女の名はアーシア・ディアノス。
レオニールよりもかなり若い少女だ。
まだ貴族学院を卒業したばかりという若さにも関わらず、次期預言の巫女として名前が一番に挙がる才媛。謂わば天才だ。
昨年卒業した貴族学院では、貴族たちが成績上位者を占める中で唯一平民として首席で卒業している。
平民が貴族学院で首席なのは数十年ぶりという快挙だ。
そんなアーシアの別名は仮定の預言者。
かつて厄災から世界を救った英雄、フィレインと同じ天恵を持っている。
「アーシアねぇ!?」
「アーシアねぇだぁ!」
「アーシアお姉ちゃんだぁ!」
アーシアに気付いた子供たちはレオニールの足からアーシアの足へと移動した。
そんな子供たちをレオニールはひょいっと回収する。
「こらこら。お仕事の邪魔をしてはいけないよ?」
「えー」
「アーシアねぇあそぼー」
「あそぼー」
しかし久しぶりに会ったアーシアと遊びたい子供たちは言うことを聞かない。レオニールの手から離れた子供たちはすぐにアーシアの元に戻ってしまった。
だからアーシアは小さくため息をつくと、先に任務を済ませることとする。
「……レオニールさま。王命です。『直ちに帰還せよ』とのことです」
「王命……ですか。穏やかではありませんね」
レオニールは眉をひそめる。
王命。そんなものが発令されるのは非常に稀だ。
以前発令されたのが十年前と考えると、その珍しさがよくわかる。
……それに。
アーシアはいつも冷静で周りをよく見ている少女だ。今のように慌てて走るなんてことは滅多にない。
だからこそ何か異常事態が起きていることは明白だった。
……これは休暇どころではありませんね。
後ろ髪を引かれながらもレオニールは意識を切り替える。
「何がありましたか?」
「その……ここでは……」
アーシアがレオニールの周囲に視線を向けた。
足に抱きついている者、服を引っ張る者、ジャンプする者と子供たちがいっぱいだ。
とても機密事項を話せる状況ではない。
「……それもそうですね。わかりました。すぐに準備します」
「門の前に馬車を用意しています。私は先に行っていますので、準備が出来たらお越しください」
「わかりました。伝令ありがとうございます。アーシア」
アーシアがお辞儀をして去っていく。なかば子供たちを引きずるようにして。
「えー。レオにぃ行っちゃうのー?」
「約束はー?」
遊ぶ約束をしていた子供たちは不満げだ。幼いながらもレオニールがいなくなってしまうことをわかっている。
「約束を破ってしまってごめんなさい。また今度遊びましょう」
「今がいいー!」
「今度っていつー?」
だけど遊びたい盛りの子供たちは納得しない。
そもそもレオニールもこれで聞いてくれるとは思っていなかった。だから必殺技を使う。
「仕方ありませんね。院長先生に言い付けますよ?」
その瞬間、足に抱きついていた子供たちはバッと手を離した。院長先生の怖さは誰もが知っている。
この言葉は伝家の宝刀なのだ。レオニールの兄、姉たち、つまり経験者たちは困ると使っていた。
「偉いですね。ではまた今度遊びましょう」
「はーい」
「わかったー」
不満げにしながらも子供たちがトボトボと部屋を後にする。
そんな後ろ姿に申し訳なく思いつつも、レオニールは支度を開始した。
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