第25話 予知夢の預言者
「んぅ……」
ルシアはベッドの中で目を覚ました。
部屋の中は暗く、まだまだ夜は深い。だけどやけに目が冴えてしまった。
その理由は明らか。
「……懐かしい夢を、見ましたね」
見たのは十年前、レンと別れた時の夢だ。
命の恩人であり、ルシアが最も尊敬する人物。あの長いようで短かった時間はルシアの中で今もなお輝きを放っていた。
……近いうちになんて言いましたが十年も掛かってしまいましたね。
なんてルシアは苦笑を滲ませる。
だけどそれも今日まで。夜が明ければルシアは四方神将に任命される。
……ようやくです。
ようやく、あの日の誓いを果たせる。
そう思うと嬉しくて眠気なんて吹き飛んでしまった。
……夜が明けるのが待ち遠しいですね。
だけど任命式がある以上、眠らなければならない。
「……ふぅ」
そんな矛盾した気持ちを抱えつつ、ルシアは目を瞑った。
「……?」
しかしすぐに部屋の外が騒がしいことに気付いた。
次いでばたばたと足音が聞こえてくる。
「……」
ルシアは警戒しつつも身体を起こし、剣を手に取った。
「ルシア様!」
ノックもせずに扉を開けたのはレナン・ニッカール。預言の巫女付きの従者だ。
あまり口数が多いわけではないが、無愛想というわけでもない。心優しい人物だ。
だからルシアも昔から姉のように慕っている。
「レナン? 何事ですか?」
だからこそ不思議だった。
レナンがこれほど大声を上げたのは初めてだ。
それもノックを忘れるなんて普段のレナンからは考えられない。
ルシアは嫌な予感を抱いた。
「預言の巫女様が……!」
「――ッ!」
ルシアは大きく目を見開き、飛び起きた。
「寝室ですか?」
「はい!」
「先に行きます!」
魔術式を記述し、黄金の輝きを纏う。
そしてルシアは全速力で部屋を後にした。
「お祖母様!」
「……来たかい……ルシア」
力無く呟かれた言葉に、ルシアは小さく安堵した。
……よかった。間に合いましたね。
医者から祖母の状態は聞いている。
老衰だ。だからこそ打てる手はない。ルシアは急いでベッドに駆け寄った。
「ごめん……なさいね。……もう目が……見えなくて」
「――ッ。私はここにいますよ。お祖母様」
涙の滲む目を拭い、ルシアは預言の巫女の手を包み込んだ。
よく頭を撫でてくれた手だ。今はもうしわくちゃだけど、その温もりは今でも変わらない。
「……あまり、時間がありません。……だから……手短に」
「はい」
「神王国の未来は……いえ、世界の……未来は貴女に……かかっています。……どうか……選択を間違えない……ように……」
「……ぇ。まさか預言を……」
ルシアは悟った。
祖母は最期の最期で預言を視たのだと。
だけど抽象的すぎてなにもわからなかった。
……世界の未来……?
だけどなにか大きな運命が動き出したことだけは悟った。だからこそ狼狽えている場合ではない。
大好きな祖母を不安な気持ちで逝かせたくはなかった。
「わかりました。後のことは全て私に任せてください」
ルシアは胸を張り、愛する祖母の手を強く強く握る。
「安心しま……した。あぁ。いけません。一番……大切なことを……伝えないと……」
預言の巫女がルシアの手を握り返す。それは小さな力だったが、ルシアにはきちんと伝わった。
「ルシア。……四方神将……就任、おめでとう。貴女は私の……誇り……です」
ルシアの頬を涙が伝う。
「貴女の……晴れ舞台を……見れないことだけが……心残り……です」
「いいえ! 見られますよお祖母様! なにせお祖母様は予知夢の預言者なのです。ですから見れます! 絶対に……!」
「たしかに……そう……ですね。なら私は……休むことに……します。おやすみ。ルシア」
「はい! ゆっくりおやすみください! お祖母様っ!」
預言の巫女は一度安堵の息をつくと、ゆっくりと目を瞑った。
龍王暦2656年。予知夢の預言者は愛する孫娘に見守られ、穏やかな眠りについた。
そうして停滞していた歯車は動き出す。大きな渦となって――。
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