第6章~悪霊憑きの海賊イーライ・ハーン(F6ζ9ゾーン領域)~
イーライ・ハーンは<ギャンダー提督亭>で目を覚ますと、そこからゲームをスタートさせた。「あらよっと!」と体を起こし、周囲の様子を確認する。腰かけているのは古びた木製のベッド。けれど、シーツ類などはとても清潔だ。壁には棚があって、手燭台や蝋燭、ほくち箱、ジャックナイフなどが並んでいる。もう一方の壁には世界地図らしきものが絵画のように飾ってあり、開いた窓の前にはベッドと同じ木材で出来ているのだろう古机がある。そして、そこから青空の下、かもめの鳴く声が聴こえてきた。
「へえ……潮風の香りまで再現できるなんて、大したもんだな」
どうやらこの宿屋は高い崖っぷちギリギリのところに建っているらしく、その窓からはここから落ちたら間違いなく死ぬだろうと思われる黒岩の崖、それにその下で岩石を洗う青い海と波の白いしぶきとが見えた。寄せては返す波の勢いは凄まじく、これでもし嵐にでもなったとしたらどうなるのか……とイーライに不安を抱かせるほどのものだったといってよい。
「ふうん、なるほど。海賊らしく初期装備のほうはバッチリって感じだな」
自分の足の黒い靴、そこから絹の白いソックスに続いて、濃紺のズボン、それに同色のビロードの上着、中にはチョッキと白いブラウスを着用している。他に、頭にはナポレオンが被っていたような二角帽を被っていた。
「へえ……なんだか格好いいや」
イーライは帽子をくるくるっと片手で回すと、また再び自分の頭の上にのせておいた。棚の上のジャックナイフを何気なく眺めまわして手に取ると、『ジャックナイフを手に入れた!』と不意に表示が出て、イーライは少しばかり「おっ!!」と驚いた。
「そっかそっか。なるほどなるほど……そういうことかあ」
特段、カバンのようなものを持っていなくても、手燭も蝋燭もほくち箱も――アイテムとしてコマンド表示させれば使用できるといったことらしい。イーライは(こんなものかな)と思い、部屋を出ていきかけたが、ふと気になって世界地図のほうへ戻ることにした。するとやはり、『世界地図を手に入れた!』と表示が出、さらによく調べてみると――額縁の裏に隠されていた『宝の地図を手に入れた!』と表示が出る。
「へええ………」
イーライはもう一度ベッドの縁に腰かけると、世界地図及び宝の地図のほうを確認してみることにした。世界地図のほうはご丁寧にも今彼のいる現在地が赤い点滅する点によって記されている。小さな
「ふう~ん。世界地図なんて言っても、これは全体図っていうわけじゃないんだな。あくまでも全世界のほんの一部なんじゃないか?だって、右側にある一番大きな大陸の北方も中央のその先も――まだずっと続いてるんだろうし、その左側の海岸からこちら側は、この主大陸よりずっと小さないくつもの大陸と、あるいはそれを囲む島々から出来てるんだからな……」
しかも、その中でも自分がほんの小さな島の端っこにいるらしいとわかり、イーライは思わず大笑いした。その上、宝の地図を手にしてはいるものの、このおそらくは今いる自分の場所よりさらに小さな島だろう場所がこの中の一体どこなのか――彼には皆目見当もつかない。
「まあ、ゲームの王道パターンとしては」と、イーライはひとり呟く。「ここから順に情報収集して、この宝が埋まっている場所の記された小さな島がどこなのか、場所を特定する必要があるってところか。なんだか『宝島』みたいな話だけど、これから一体どうなるのかな」
そして、イーライが今度こそ部屋から出ようとした時のことだった。窓辺に先ほどからずっと鳴いていたカモメが一羽とまったのだ。
「どうしたんだい?何かあげられるエサでもあるといいんだけど……」
すると、カモメがじっと机を見つめたような気がして、イーライはハッとした。木製の古机にはふたつ、引き出しが付いているのだ。イーライがひとつ目の引き出しを開けると、そこには『遠くまで見ることの出来る望遠鏡』が、ふたつ目の引き出しには『堅いパン』の入っていることがわかった。
「ありがとう、カモメさん。お礼にこのパン屑をあげようね」
イーライはパンをいくつか千切ると、カモメの足許に置いてやった。するとカモメは黄色い嘴でそれをついばんでいる。
『こちらこそありがとう。また会える機会があったら会おう、イーライ!!』
カモメが突然口を聞いたので驚いたが、イーライはカモメが窓から去っていくのを見守ってのち、部屋を出て階下へ下りていった。幸先のいい旅のはじまりだと感じていた。ゲームをはじめたばかりのこの時だけは……。
>>続く。




