第7話 リリアナと勇者エイブリオン
「リリアナ、大丈夫か?」
「はぁはぁッ、ふうー。ええ。もう大丈夫です。助けてくれてありがとうこざいます」
防御魔法を身にまとってただ村へと走っていたリリアナを助けたのは、同じパーティーの一員である勇者エイブリオンだった。
「災難だったな、リリアナ。立てるか」
勇者エイブリオンはいつもと変わらぬ無表情な顔でリリアナに手を差し伸べてきた。
革の手袋に包まれたその手をしばらくじっと見つめたリリアナは、少し考えた後、その手を取らずに自ら立ち上がり、エイブリオンに向かって深く頭を下げた。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
その丁寧な挨拶にエイブリオンはぎこちなく手を下げながら言った。
「そんなに丁寧に挨拶しなくていい。俺たちは仲間だろ」
「そ、そうですね」
エイブリオンの言葉にリリアナは顔に貼り付けたような微笑みでにっこり笑いながら答えた。
その笑顔はドッペルゲンガーに見せていた笑顔と違い、優しいそうに見えてどこか距離感がある、そんな笑顔だった。
そして実際にリリアナは勇者エイブリオンに対して、未だにまだ距離を感じていた。
決して勇者が嫌いだとかそういうわけではない。
相手は人類を救う救世主。
尊敬の念はあっても、嫌う気持ちなど決してないのだ。
しかし、
『どう接したらいいかわかりません』
そしてそれは勇者エイブリオンだけではなく、他の仲間全員に対してもそうだった。
決して嫌っているわけではない。
しかし、どうやっても他人と接する方法が分からないのだ。
リリアナがこれまで生きてきて出会った人間は、端的に言って二種類しかなかった。
共に神を祀る聖職者と、神の慈悲を求める信者たち。
しかし、共に神を祀る神官たちでさえ、聖女リリアナを前にすると敬うことに必死で、
実のところ、リリアナ自身がこれまで接してきたのは、ただ一種類の人間だけだった。
なので、最初、勇者パーティーと出会った時は戸惑った。
勇者パーティーの皆はリリアナを特別扱いしなかった。神の啓示を求めず、彼女が神の代理人でもあるかのように慈悲を乞うこともなかった。
むしろ神殿でのみ生きてきて世間知らずのリリアナにいろんなことを教えてくれることの方が多かった。
『とてもありがたいのですけど……』
それゆえに、どう接すればいいのかわからなくなった。
自分の興味以外には関心がない魔法使いのイベールさんや、金になるもの以外はどうでもいいと言う傭兵ダンカンとは違い、割と面倒見が良くてよく彼女のことを気遣ってくれる勇者エイブリオンに対しては、なおさらそう感じることが多かった。
リリアナは村へ向かうエイブリオンから三歩ほど離れて、彼の後を付いていった。
そんな中、先に口を開いたのはエイブリオンだった。
「……最近よく村の外に出かけているようだが、何か事情でもあるのか?」
エイブリオンの質問にリリアナは心臓が止まるような感じがした。
『……もしかして私があの子と会っているのを見たのかしら』
そんなことを考えて心臓がざわつくのを感じながらも、リリアナは何事もなかったようにただ穏やかに笑いながら答えた。
「何でもありませんわ。最近、月が綺麗だったので散歩をしていただけです」
「……そうか。確かに綺麗な月だ。でも村の外は危険だから、これからは一人で村から出ないでくれ」
『……勇者様に言ったこともまんざら嘘でもないですし』
この辺りに悪い影響を及ぼしていたボス級の魔物を倒したからか、最近ここら辺の天気が良いのは事実だったし、初めてあの湖畔に行ったのも散歩に出かけて道に迷ったのが原因だったから。
それに、あの子と一緒に見る月が綺麗だと思ったのも本当のことだし。
しかしながら、どうも気が引けるような気がしたリリアナは話題を変えることにした。
「それより、勇者様はなぜこんなところにいらっしゃったのですか?」
「……俺も月が綺麗で、ちょっと散歩をしていただけだ」
エイブリオンはその言葉を最後に、何も言わず、前へと足を運んだ。




