第5話 (現在)勇者の気持ち
「よう、勇者さま」
「……ダンカンか」
聖女が閉じ込められた塔から出る道。
その廊下で出くわした傭兵ダンカンを見て、エイブリオンが呟いた。
「また聖女様に会いにいってたのか。」
だらしない姿勢で立っているダンカンを一瞥したエイブリオンは、彼の前を通り進みながら答えた。
「ああ、そうだ。リリーも俺の仲間だからな」
その言葉に、エイブリオンの後ろをだらだらと歩いていたダンカンが呟いた。
「仲間だから、か。そういえば今回もまた王様に文句を言いに行ってたみたいじゃないか」
「……何が言いたい」
「いや、別に。勇者様が私や魔法使いさんが捕まえられても、そこまでしてくれるかちょっと興味が湧いてさ」
どこか煽るような口調。
その言葉に、エイブリオンはためらいなく答えた。
「当然だ。お前とイベールも一緒に魔王を倒した俺の仲間だからな」
迷いないその言葉に一瞬沈黙したダンカンが、しばらくして『はっ!ははははっ!』と何かおかしな話でも聞いたかのように笑い始めた。
その反応にエイブリオンは眉をひそめ、その場に立ち止まった。
「何がそんなにおかしい」
「いや、別に。さすが勇者様は勇者様だと思ってよ。ありがとう、勇者様。でも」
「でも?」
「もし俺がそんな目に会っても、手出しは無用だぜ。自分の身は自分で守るものだからな。そして――」
ダンカンが何をか言おうとするのを、
「ヤメロ」
エイブリオンが力強く止めた。
その後に出てくる言葉が何なのか分かっているかのように、その後に出てくる言葉を聞きたくないかのように。
一瞬の沈黙。
先に手を上げたのはダンカンの方だった。
「分かった、分かったよ。おっかねぇな。黙ってればいいんだろ。黙ってれば」
「……」
「まあ、あんたが知っるなら、これ以上言う気はねえし」と小さく呟いたダンカンは、勇者の暗い顔を見下ろしながら、ふと思い出したように話題を変えた。
「そういや、あんた魔法使いさんがどこにいるか知ってるか?」
「……知らない」
「ふーん、そうかよ。王様に小遣いをもらったから一緒に酒でも飲みにいこうかと思ったんだけどな!ザンネン、ザンネン〜」
全く残念だとは思えない表情でそんなことを言ったダンカンは、「じゃあ代わりにどっかのお嬢さんでも口説いてみようかな~」と大きな声で叫んだ後、
「まあ、なんだ。頑張れよ。勇者様」
と、さっきから顔色が悪いエイブリオンの肩をポンと叩いて、王宮の外側へと足を運んだ。
それからしばらくして、本当にどこかのお嬢さんでも口説いているのか、ダンカンの声と一緒に楽しそうに笑う若い女性の声が王宮の庭の方から聞こえてきた。
「……」
しかしそれを耳にしながらも、勇者はうつむいたままただその場に立っているだけだった。
ただ何かを考えているかのように、何かを耐えているかのように。




