第3話 (現在)聖女と勇者
「リリー、どうしてそんなことを言った」
どことなく不機嫌そうな勇者エイブリオンが聖女リリアナに言った。
「……」
しかし、陽光が降り注ぐ窓辺に膝ついて祈りを捧げていた聖女リリアナは、エイブリオンの問いに答えず。ただただ祈りを続けるばかり。
誰も自分を呼んでないかのように。
何の質問も聞いてないかのように。
そんな彼女の細く白い手足には、太くて重い足枷が嵌められていた。
それを冷たい眼差しで睨みつけたエイブリオンは、歯を食いしばみながら言った。
「答えないつもりか」
王との謁見が終わった後、勇者パーティーの凱旋を祝う重要な席で失言した罪で、聖女は手足を拘束され、王宮の一角にある塔に閉じ込められた。
彼女の望み通り、罪人として扱われることになったのだ。
その身の力だけで15歳という幼い年齢で聖女となった聖教の最年少の聖女であり、勇者パーティーの一員でもある彼女を罰するとは、本来ならあり得ないことだ。
しかし聖女自身が口にした言葉であるゆえ、王も聖女を拘束せざるを得なかった。
聖女自身が、自分自身の口で自分はドッペルゲンガーだと言った。
ドッペルゲンガーとは何か。他人を模倣し、模倣した者を殺してその立場を乗っ取る魔物である。
偽りで真実を奪うとは、まさに邪悪な魔物と言わざるを得ないものだ。
なのでもし聖女の言葉が真実なら、今すぐにでも神の名のもと、彼女を断罪しなければならない。
しかし、そんな彼らの断罪の手を止めるものがいくつかあった。
一つ。人間に変身したドッペルゲンガーを見分ける手段を、現人類は持ち合わせてない。
一つ。彼女は自分が聖女ではなく怪物だと主張しているが、なぜか聖力を使いこなすている。
一つ。もしこれが長い戦で疲弊した聖女の妄言ならば、彼女を殺した時、その後始末は王であっても手に負えないこととなる。聖教と戦争を繰り広げることになるのはもちろん、同時に民衆の怒りによる暴動も受け入れねばならないだろう。
そこまで計算した賢明な王は考えた。
『聖女を塔に閉じ込めよう。』
聖女を塔に閉じ込めれば、聖女を殺す必要がなくなる。すると同然聖教や怒り狂った民衆と戦うこともなくなると言うことだ。
何より、聖女を塔に閉じ込めばその正体が何であれ、前代未聞とされる聖女の力を有効活用できるようになる。
実に賢王らしい、一石二鳥の策であった。
しかしそれは王の、国のための考え。
仲間であるエイブリオンはその答えが納得できなかった。
『間違いない、俺と共に戦った仲間は今、目の前にいる彼女だ』
まさに目の前にいる彼女こそ、他の誰でもない聖女リリアナ本人なのだ。
そんな彼女がこんな扱いをされるなんて。
エイブリオンはその事実自体が受け入れられなかった。
胸の内側からなんとも言えない感情が渦巻いた。
その渦巻く感情を一つに集め、エイブリオンは叫んだ。
「答えろ!聖女リリアナ!!」
しかし、勇者エイブリオンが何と言おうと、目の前の彼女の答えは変わらなかった。
「……申し訳ありませんが、私はただの邪悪なモンスターでございます。勇者様、どうか、どうか……私をその名で呼ばないでください」




