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言ったかと思うと一条寺あやめ先輩の姿は瞬時に教室の出口付近に飛び、その手はすでに扉を開けようとしている。肩にはバッグがかかっている。いつの間に帰り支度をしたというんだ。僕がそんなことを思っているあいだにも一条寺あやめ先輩はシュタシュタ動いていく。
「あ、あの」
あたふたしながらもなんとか支度をして教室の外に出たとき、廊下に一条寺あやめ先輩の姿はなかった。
「あらあ、急いでどうしましたあ」
おっとりではこの学校一の中鉢れいあ先生に声をかけられる。ほかの先生だったら聞こえなかったフリをしたかもしれないのだけど、中鉢れいあ先生ではそんなことできない。急ぎつつも僕は立ちどまった。
「あ、あの、はい、ちょっと」
「気をつけてくださいねえ」
「はい」
「では、ごきげんよう」
「はい。さようなら」
時間を食ってしまったけど中鉢れいあ先生と会話できるなんて今日はいい日になったなあ… と、しばし自分がいま何をしていたのか忘れてしまいそうになる。あ、ああ、ああ、そうだった。一条寺あやめ先輩だ。気持ちを立て直し、ふたたび一条寺あやめ先輩を追っていく。
やっとのことで、下駄箱で一条寺あやめ先輩の姿を見つけることができた。けど一条寺あやめ先輩はすぐに行ってしまう。秒で履き替え一条寺あやめ先輩を追う。校舎を出て姿を探す。校門を出ようかというところ。は、速すぎる。やたらと広い校庭で野球部が練習をしている。僕はその横を急いで抜けていく。うちの野球部って強いのかな。同じクラスの野球部の奴らを見てると頼りなさそうで強そうにはぜんぜん見えないんだよな。夏の甲子園とか無縁な感じかな。応援行ってみるかな。その前に負けちゃったりとか。どうなんだろう。なんて考えてる余裕はまったくなく、けれど一条寺あやめ先輩の姿は見えず、しかたなく僕は走るしかなくなる。
商店街の入り口あたりでやっと追いつけた。僕の息は切れている。めちゃくちゃ激しく。
「キミ、何も走ることはないんだよ」
なんとも涼しげな一条寺あやめ先輩の声。
「そ、そうしたいんですけど…」
なんとも暑苦しい僕の声。
なんとかかんとか言葉を交わすも一条寺あやめ先輩との距離がまた少しずつ空いていってまともに会話することすら難しい。
「す、す、すいません」
「どうした?」
「い、いったん」
「何かな?」
僕は叫んだ。
「止まってえええ」
言ったのは確かに僕なのだけど急に止まるもんだから一条寺あやめ先輩の背中に顔を埋めることになってしまった。こんな状況にあるのに不謹慎にも一条寺あやめ先輩っていい匂いだなあなんて思ってしまった。
「おなかでも空いたのかな?」
「え?」
そこは商店街のなかほどにあるたいやき屋さんの前だった。一条寺あやめ先輩のやさしい香りは、たいやきのあたたかい匂いにまぎれ、やがて消えてしまった。




