表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叛逆のレギオン  作者: 02
8/20

第7話 白き剣影、勇者の面影

 

 イグナスとの戦いを終え、ゼオンは夜の森を後にした。

 返り討ちにしたCランク冒険者を〈黒き軍勢〉に組み込みながらも、胸の奥には重い余韻が残っていた。


(……やはり、“自由”を脅かすものは容赦できない。たとえ人間であろうともだ)


 そう心に刻みつけた彼は宿にて深い眠りについた。


 翌朝。

 ゼオンは、宿の一室に差し込む柔らかな光で目を覚ました。

 昨夜の疲労はまだ身体に残っていたが、眠りは深く、意識はすっきりと冴えている。


 階下へ降りると、食堂は朝から賑わっていた。

 冒険者たちが次の依頼を語り合い、商人たちは慌ただしく出立の支度をしている。

 厨房から漂ってくる香ばしい匂いが、否応なく腹を刺激した。


「おはようございます。本日の朝食は黒麦パンと野菜スープ、それに卵料理がございますが?」

 給仕が笑顔で声をかけてくる。


「卵料理を頼む。スープも添えてくれ」


 ほどなくして運ばれてきたのは、こんがりと焼き色を付けた黒麦パンと、湯気を立てる野菜スープ、そして半熟に仕上げられたスクランブルエッグだった。


 スープは根菜の甘みがしっかりと出ており、香草が爽やかな後味を添える。

 パンは表面が香ばしく、中はもっちりと柔らかい。

 そして卵はふわりととろけ、塩気と黄身の濃厚さが口に広がった。


「……やはり、食事は素晴らしい」


 ゼオンは小さく笑みを浮かべた。

 ほんの一皿で、気持ちが軽くなる。これからの一日へ向かう力を与えてくれる。


 食事を終え、腰を上げた彼は冒険者ギルドへと向かった。


 ⸻



 その日のギルドは、いつになくざわついていた。

 依頼の掲示板を覗こうとしたゼオンも、広間を満たす熱気に思わず足を止める。


「……なんだ、この騒ぎは」


 人垣の視線が一斉に向けられる先。

 そこに立っていたのは、一人の女性だった。


 銀白の髪が光を受けて揺れ、澄んだ蒼い瞳が場を射抜く。

 鎧は装飾を削ぎ落とした実用本位の造りながら、纏う雰囲気は気高さと威圧感を同居させていた。


 冒険者たちの誰かがポツリと呟く。


「セリス・アルヴェイン……王国最大クランの副団長がなんでこの街に?」


他の冒険者も口々に呟く。

「アルヴェイン家……!」「Sランクが直々に……」


 ⸻


 ゼオンは、思わずその姿に見入っていた。

(……セリア……?)


 胸の奥で、かつての記憶が疼く。

 最後に見たのは、勇者と刃を交え、そして自らが倒れたあの瞬間――。

 それから二百年という時が流れている。


(あり得ん……彼女は二百年前の人間だ。今ここにいるはずがない)


 だが、どうしても目の前の女を見ていると錯覚してしまう。

 髪の色も、瞳の輝きも、纏う雰囲気さえも――あの勇者と酷似していた。


 ゼオンは小さく息を吐き、己の胸に生じたざわめきを抑え込む。

(……違う。だが直感が告げている。こいつは“あの勇者”に繋がる存在だ、と)


 ⸻


 セリスは受付へ歩み寄り、落ち着いた声で言葉を紡ぐ。

「セリス・アルヴェインです。とある依頼により、しばらくこの街にお世話になります。と言っても主に1人で動くので、私のことはどうかお気になさらず」


 その一言で、広間の空気はさらに引き締まる。

 誰もが口を噤み、セリスの一挙手一投足に注目していた。


 ゼオンは黙ってその光景を見つめていた。

 彼女の姿が、ますますセリアの幻影と重なっていく。


(……面白い。二百年を経て、再び勇者の影と交わることになるとはな)


 その予感は、胸の奥で微かな高鳴りを伴っていた。



読んでくださりありがとうございます。


感想をいただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ