第6話 脆き矜持、黒き軍勢へ
炎の刃が唸りを上げ、風が森を切り裂いた。
イグナスの剣は火と風を交互に纏い、配下のゴブリンやウルフを次々と斬り伏せていく。
「はっ……! こんな雑魚どもで俺を止められるかよ!」
堅実で無駄のない動きだった。
ゼオンは冷静に観察しながらも、内心で認めざるを得ない。
(……やはり、正面からの一騎打ちでは勝ち目は薄いな)
だが、それでこそゼオンの戦術が活きる。
「群れを侮るなよ。俺の力は――数にこそある」
ゼオンの合図と共に、オークとハイオークが前に躍り出る。
巨体が地を揺らし、イグナスに迫った。
「チッ……!」
イグナスは剣に炎を宿し、オークの首筋を断ち切る。だが、その隙を突いてハイオークの棍棒が唸りを上げた。
轟音。大木が折れるかのような一撃を、イグナスは風の障壁で受け止める。
「ぐっ……重ぇ……っ!」
受け流したものの、地面に大きく後退させられる。
息が荒くなり、疲労が濃く表れ始めていた。
ゼオンはその様子を見て薄く笑んだ。
「どうした。昨日は“Cランクだ”と胸を張っていたはずだが」
「ハッ……これくらいで俺が折れると思うなよ!」
イグナスは再び踏み込み、渾身の炎剣でハイオークの肩口を斬り裂いた。
しかし、配下は再生する。どれだけ切り刻んでも、黒い靄を纏ってすぐに立ち上がる。
「……何だ、こいつらは……!? 倒したはずが……」
驚愕が滲む声に、ゼオンは静かに答えた。
「俺の軍勢に“死”はない。いくら斬っても無駄だ」
「クソッ……ふざけやがって!」
イグナスは叫び、なおも斬り込み続ける。
だが体力は限界に近づいていた。剣筋は鋭さを保ちながらも、わずかな隙が生まれていく。
ついに、ハイオークの棍棒が側面から叩きつけられた。
イグナスは剣で受けたが、そのまま地面を転がり、大木に背を打ち付ける。
「がはっ……!」
血が滲み、膝が地面に沈む。
それでも彼は、なおも虚勢を張った。
「……はっ、やるじゃねぇか……だが俺は、Cランクの冒険者だ……!
こんなところで……雑魚に負けてたまるかよ!」
ゼオンは歩み寄り、冷ややかな眼差しを向ける。
「強がりも結構だが――ここで終わりだ」
ナイフの切っ先がイグナスの喉元に迫る。
その瞬間、イグナスは最後まで虚勢を張った。
「……ククッ……殺すなら殺せ……! 俺はお前なんかに屈しねぇ……!」
ゼオンは小さく息を吐いた。
「屈するかどうかは、お前が決めることじゃない」
右手を翳し、呪文を紡ぐ。
「――〈黒き軍勢〉にくだれ」
黒い渦がイグナスを飲み込み、彼の体は霧散するように消えていった。
やがて、漆黒の気配がゼオンの背後に立ち上がり――そこに現れたのは、先ほどまでのイグナスの姿。
だが瞳には生気がなく、黒き光が宿っている。
「……っ、クソ……まだ、俺は……!」
かすかに残った意志が、呻きのように漏れる。
ゼオンは振り返らずに歩き出した。
「駒に格は要らん。ただ役立て。それが――お前の“自由”だ」
こうして、脳筋の魔法剣士イグナスは〈黒き軍勢〉の一員となった。
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