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叛逆のレギオン  作者: 02
6/20

第5話 自由を脅かす者

 

 薬草屋での騒動は、結局イグナスが「今日は疲れている」と吐き捨てて引いたことで終息した。

 少女は何度も頭を下げて礼を言い、ゼオンは軽く手を振ってその場を去った。


「……やれやれ。面倒な種を拾ったかもしれんな」


 独りごちつつ、宿へと足を運ぶ。


 ⸻


 宿の食堂にて


 宿の食堂は活気に溢れていた。木の卓を囲む冒険者たちの笑い声、酒の匂い、焼きたての料理の香ばしい香りが空腹を刺激する。


 ゼオンの前に運ばれてきたのは、鶏肉の香草焼きだった。

 皮はこんがりと焼かれて香ばしく、中は柔らかくジューシーだ。香草の爽やかな香りが脂の旨味を引き立て、噛むたびに肉汁が広がっていく。


 さらに、石鍋でぐつぐつと煮えたぎる野菜スープ。根菜の甘みと香草の風味が溶け合い、体の芯から温めてくれる。

 パンを浸して口に運べば、芳醇な旨味が舌の上に広がった。


「……なるほど、こうして日を終えるのも悪くないな」


 果実酒をひと口含みながら、ゼオンは静かに思う。

 魔王だった頃にはなかった「生きる実感」。これこそ、彼が追い求める自由の一部なのだと。


 やがて眠気が訪れ、ゼオンは部屋へ戻ると、静かに眠りについた。


 ⸻


 翌日、冒険者ギルドにて


 朝のギルドは多くの冒険者で賑わっていた。

 ゼオンは受付で依頼を受ける。内容は西の森での薬草採取とゴブリン討伐。昨日に続いての定番依頼だ。


「……またお前か」


 低い声が背後から響いた。振り返れば、イグナスが立っていた。

 昨日の疲れは抜けているようで、剣の柄を軽く叩きながら挑発的に笑っている。


「新参が調子に乗るなよ。Eランク風情が」


 ゼオンは淡々と返す。

「……あいにく、俺はお前に構っている暇はない」


「逃げるのか?」


「自由に稼ぐ。それだけだ」


 それ以上取り合わず、ゼオンは依頼票を受け取るとギルドを出た。

 イグナスは奥歯を噛みしめ、その背中を睨みつける。



 西の森にて


 森の奥で薬草を摘み取りながら、ゼオンは配下のゴブリンたちに周囲の警戒を任せていた。

 鳥の鳴き声の途絶えた一瞬――背後から気配が迫る。


「……ようやく見つけたぜ」


 振り返ればイグナス。

 昨日の疲労はすでに抜け落ち、炎を宿した眼差しでゼオンを睨み据えている。


「街じゃ大人しくしてたが、ここなら遠慮はいらねぇ。昨日の借り、きっちり返してやる」


 ゼオンは静かに立ち上がる。

「……昨日も言ったはずだ。他人に構っている暇はない、と」


「はっ、減らず口を。新参が俺を無視して自由に稼ぐ? 笑わせるな。Cランクを馬鹿にするってのは、そういうことだ」


「お前の肩書きなんざ、俺には興味がない。ただ――俺の自由を脅かすなら容赦はしない」


 互いの視線がぶつかり合う。

 イグナスの剣に炎が灯り、熱気が辺りを揺らした。


 ⸻


 ゼオンは短く呟いた。

「……出ろ」


 黒い渦が生じ、そこからゴブリンやウルフ、オーク、さらにはハイオークの姿が現れる。

 その姿は一見すれば普通の魔物と変わらない。ただ肌の色がくすんでいたり、瞳の輝きが異様なだけだ。


 イグナスの目が見開かれる。

「なっ……魔物を呼び出すだと? ……召喚士か?」


「判断は任せる。だが、お前にとっては敵だ。それだけ覚えておけ」


 ゼオンの声は冷徹だった。


 ⸻


 イグナスが先に動いた。

 炎を纏わせた剣閃が一直線に走り、前に出たゴブリンが両断される。

 次の瞬間、風の刃が放たれ、後続のウルフが真っ二つに切り裂かれた。


「……っ、さすがにCランク。雑魚相手なら無駄がないな」

 ゼオンは唇を歪めた。


 イグナスは勢いに任せた剛腕ではなく、着実に、堅実に間合いを詰めてくる。

 ゴブリンを盾にしても一撃で薙ぎ払い、ウルフの俊敏さをも見切って斬り伏せる。

 ゼオンは改めて悟った。――一騎打ちでは勝てない、と。


「くく……どうした! 数を並べても、この程度の魔物じゃ俺は止められねぇ!」


 炎と風を交互に操りながら、イグナスは前進を止めない。

 だが、その冷静な剣筋を受け止めながら、ゼオンの瞳は静かに光を宿していた。


「……ならば試してみるがいい。これが俺の――〈黒き軍勢アビス・レギオン〉だ」


 森の空気が震え、配下たちが一斉に動き出す。

 イグナスとゼオンの自由を巡る戦いは、ついに激突した。


読んでくださりありがとうございます。


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