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叛逆のレギオン  作者: 02
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第3話 冒険者ギルド


 盗賊達を倒した後、ゼオンは道沿いを進んでいた。

 しばらく歩いた先、視界の先に街の影が浮かび上がる。


「……良かった。野宿は回避できそうだな」


 傾きかけた夕日が城壁を朱色に染めていた。日が沈めば森の中は魔物の巣窟と化す。街を見つけられたのは幸運だった。


 街の門には衛兵が二人立っていた。槍を構え、出入りする者を監視している。

 衛兵に呼び止められ、入城税を支払う。盗賊の懐から奪った金が役に立った。


 門をくぐると、整備された石畳の大通りが広がる。屋台の呼び声、商人の威勢のいい声、子どもの笑い声。

 そこは活気に満ちた街だった。


「ふむ……見事なまでに発展している」


 ゼオンは通りを歩きながら、かすかな懐かしさを覚えた。


 アヴァロニア大陸、エルドラド王国。いずれも前世から存在していた地名だ。

 だが――都市エリュシオン。これは知らない。

「……死んでから発展した街、ということか」

 二百年の時の流れを、実感をもって突きつけられる。


 ⸻


「まずは宿だな」


 街の中心から少し外れた場所に、こぢんまりとした宿を見つけた。看板には『日向の大鷲亭』とある。

 建物はやや古びているが、併設の酒場から漂う香ばしい匂いに足が止まった。


「いらっしゃいませ! お泊まりですか?」

 中に入ると、柔らかい笑みを浮かべた受付の女性が声をかけてきた。


「ああ。それと食事も頼みたい」


「かしこまりました! 酒場の名物、卵料理が絶品ですよ」


 すすめられるまま酒場へ。


 宿の併設酒場は、木の梁にランプが吊るされた落ち着いた雰囲気だった。

 奥の厨房からは、焼けた油の香りや、香草の爽やかな匂いが漂ってくる。客たちの笑い声と食器の触れ合う音が、旅の疲れを癒すように耳を満たした。


 席につくと、女給が勧めてきた名物の卵料理を頼む。

 ほどなくして木皿に盛られたそれが運ばれてきた。


 ――黄金色に焼き上げられたふわりとしたオムレツ。

 表面は香ばしく、中を割れば半熟の黄身がとろりと溢れ出す。

 添えられた香草と塩の香りが、湯気と共に鼻腔をくすぐった。


 ひと口。

 口の中で広がるのは、驚くほど濃厚でありながらも優しい卵の甘み。

 黄身のまろやかさと香草の爽快な風味が絶妙に合わさり、思わず目を細める。


「……これは、良いな」


 ゼオンは素直に唸った。

 魔王であった頃、食事などただの糧に過ぎず、味を楽しむという感覚を持ったことはなかった。

 だが今は違う。自由を求める今世において、この一皿は確かに「生きる歓び」の一つだった。


 さらに焼き立ての黒パンが籠に盛られて運ばれてきた。

 外はパリッと香ばしく、中はもっちりとした食感で、卵料理の濃厚な黄身をすくって食べれば、口の中で幾重にも旨味が広がっていく。

 一緒に出されたスープは、根菜と香草を煮込んだ素朴な味わい。体をじんわりと温めてくれた。


「……悪くない。いや、これは実に贅沢な時間だな」


 ゼオンは杯を傾け、果実酒の甘酸っぱい香りを喉に流し込みながら、二百年ぶりの「人としての食事」を堪能した。


 食事を楽しみつつ耳を澄ませば、冒険者たちのざっくばらんな会話が自然と入ってくる。

 その中から、ゼオンは重要な情報を拾った。


 ――ここは魔王が討たれてから二百年後の世界。


 部屋に戻ったゼオンはベッドに腰を下ろし、窓の外の月を見上げながら考えた。


「やはり、自由には金がいる。そして金を得る手っ取り早い方法は……冒険者か」


 財布に残ったのはわずかな小銭だけ。

 思い立ったように呟く。


「……明日は冒険者ギルドに行くか」


 ⸻


 翌朝。

 冒険者ギルドは街の大通りに面した大きな建物だった。重厚な木造の扉を開けると、中は多くの冒険者たちで賑わっている。

 武具の金属音、依頼掲示板の前で交わされる怒声と笑い声。冒険の匂いが渦巻いていた。


 受付に立つ女性が、にこやかに声をかけてくる。


「こんにちは。ご用件をお伺いします」


「冒険者登録をしたい」


「新規登録ですね。それではこちらの用紙にお名前をお願いします。規約などの説明はご存知ですか?」


 差し出された用紙を受け取りつつ、ゼオンは首を横に振る。


「……一応、聞いておこう」


 女性は慣れた調子で説明を始めた。

 冒険者はSからEまでのランクに格付けされ、依頼は基本的に自分のランクと同じか、一つ上までしか受けられない。

 成果と実力次第で昇格もある――そんな仕組みだ。


「最初はEランクからのスタートになります。無理せず、少しずつ実績を積んでくださいね」


「……ふむ。ありがとうございます。死なない程度に頑張りますよ」


 口元に皮肉な笑みを浮かべながらも、内心では「死ぬことはない」と思っている。

 既に死を経験し、甦った身だ。


「早速だが、何か依頼を受けたい。おすすめは?」


 受付嬢は少し考え、にこりと笑った。


「初心者の方には薬草の採取か、ゴブリン討伐ですね。どちらも常設依頼で、報告さえすれば報酬が支払われます。西の森なら日帰りで十分可能ですよ」


「……なるほど。西の森か」


「はい。エリュシオンから西へ二時間ほど歩いた場所にあります。森の外縁部は薬草が多く、ゴブリンもよく出ます。ただし、奥へ行けばオークの上位種や毒を持つ昆虫系も出るので注意してくださいね」


 ゼオンは小さくうなずいた。

(なるほど、ここで腕試しをさせているわけか……)


 冒険者にとって、西の森でのゴブリン討伐は一種の登竜門。ここで力を示せなければ、生き残るのは難しい。


「……わかった。行ってみるとしよう」


 ⸻


 西の森。

 陽光が樹々の隙間から差し込み、地面にまだら模様を描く。湿った土の匂いと草の香りが鼻をついた。


 一時間後。

 ゼオンの袋には薬草がまとまり、足元には耳を切り取ったゴブリンの死骸が転がっていた。既に十体を討伐している。

 もちろん、証拠を確保した後はすべて配下に加えていた。


「……少し深い場所に入ってみるか」


 森の奥を見やり、ゼオンは口元をわずかに吊り上げた。


 彼の力は、より強い存在を取り込むことでこそ真価を発揮する。

 この身を再び強者に近づけるために――さらなる狩りが始まろうとしていた。


読んでくださりありがとうございます。


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