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エピローグ

 安さが売りの大衆居酒屋。

 慣れ親しんだ場所で俺達が酒を飲んでいると、あるテレビの光景が目についた。天井付近に設置されているそれを死んだ魚の目で見つめる。


『今年最も驚愕&面白かった映像はこちら!』


 映し出された場所は石川県某所。

 夕暮れの街で、俺に似た誰かが車道の中で『飛んで! 跳ねて! 這いずり回る!』痴態を晒していた。醜いアヒルの子にすら勝るとも劣らない痛々しい状況だ。最終的には俺に似た……俺が赤髪の少女に手で押し返されたところで終わり、会場は笑いに包まれている。


 なぜテレビで放映されて焦らないのか?

 番組にオファーされたからだ。誰が出るか! ばーかばーか! 


「お、お手柄だな」

「うっせえ……」


 番組の最後で司会者が呟く。


『男性、少女共に奇跡的に軽傷で済みました』


 本当に奇跡的だったと思う。

 過程はともかく結果としてはベストだと言っても過言じゃない。その代償はあまりにも大きかったが……。


「あいたたたた」

「ぎっ、ぎっくり腰か」

「急性腰痛症だ!」


 中腰になりながら店員を呼ぶ。

 ハッピーアワー終了間近ということで、ビールを十杯頼んだ。それなりに酔いも回ってきたが俺達なら飲み切れるだろう。注文を終えゆっくり椅子に座っているとケンがどもりながら尋ねてくる。


「実際に怪我は大丈夫なのか」

「残念ながら日常生活を送れる程度の怪我さ。おかげで痛いってのに会社も休めない」


 にしても自分にしては本当に上出来な結果だと呟く。

 するとケンは反応し、前に俺が電話で愚痴いた怪人の話を持ち出す。


「怪人の一件もベストな結果だったんじゃないか?」

「はぁ? 正義のヒーローっぽいのがやられたんだぞ。どう考えてもダメな結果だろ」

太洋(たいよう)が言う怪人こそ、正義のヒーローかもしれない」


 どっちが悪か正義かなんて一目見た瞬間にわかる。

 小生意気な青年だったが、見た目は明らかにヒーローだった。そして相手のゴキブリもどきは明らかに怪人だ。小学生百人にアンケートを取ったら全員が青年側をヒーローだと言うだろう。ただ、こいつが言う可能性もありえなくはない。


 なんにせよ……


「お互いに根拠がないわけだ」

「な、ないな」

「じゃあついでに俺が変身できなかった理由を述べよ」


「お前の使命じゃなかったからだ。お前にはお前の使命がある」


 断言した。気持ちよさすら感じる。

 こいつの言葉にこそ根拠の欠片もないが、昔から使命云々の話に関しては迷いがない。でも変身してみたかったなぁ、いつか変身できる日が来るだろうか。……なんとなく来る気がする。


 俺はトラックの一件を境に、少しだけ考え方が変わった。

 心臓が高鳴っていることを自覚しながら口を開く。


「なぁ、ケンの言う使命ってやつを果たしてみようと思う」

 

 彼は立ち上がり、大きく瞬きをしながらこちらを見る。


「週二日コースってあったりするか? 仕事を辞めるわけにもいかないし、体験コースみたいなのがあるといいんだけど」

「安心してくれ。太洋の要望に応えられるよう週一日三時間コースや週七日コースなどニーズに合わせて活動ができるよう準備してある」

「いや、週七日は俺が死ぬだろ!」


「じょ、冗談だ」


 彼の表情はとても満足気だ。

 随分と昔に『太洋が使命を自覚することが夢だ』と語っていたことを思い出した。


「まずは赤髪の少女について頑張ってみようと思う」

「わ、訳ありみたいだな」


 少女についていくつかの情報を知っている。

 例えば黙秘を貫いていることや、自身の身分を証明するものを一切持っていないこと、事故の数日前から金沢市内を徘徊していたなどなど……。俺が警察から大変厳しい注意をされた時に聞いた情報だ。良い結果で終えたように見える出来事もまだ解決しちゃいない。


「それと……」


 そうた君のご両親も気がかりだった。

 気になって気になって仕方がなかったから、知り合いの伝手を使って父親と飲みに行った。特に何ができたわけでもないが、そうた君の為にもあの暗~い雰囲気を払拭してやりたい。まぁ当の本人はやり遂げた顔をして空に還っていったけどな。


「やるべきことは沢山あるが、今は飲むか!」


 互いに新しいビールを手に取る。

 テーブルには所狭しとビールジョッキが並べられていた。飲めるだろうか、俺達なら飲み切れるだろう。


「俺が音頭を取ってもいいか?」

「珍しいな」


 頷きながら、ふっと笑う。


「こ、今後の太洋の活躍を願って」






「「乾杯っ!」」












以上で完結となります。

今後の予定等については活動報告で別途連絡させて頂きます。


最後までお読み頂きありがとうございました!

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