第四十六話 意地と勢い
一人自エリアに戻った遠矢は昼食の準備をする。
いつもであれば次の対戦の準備をするか、反イケメン同盟の誰かと食事をするのだが今はそれも出来ない。
戦うのが怖い。外に出るのが怖い。死ぬのが怖い。
未だに対戦相手とルールの確認も出来ず、戦うことを考えるのすら怖い状況。
たった一度の死ぬ寸前の体験が遠矢の全てを縛っていた。
「何とか、しないとなあ」
それが駄目な状況だと言うことは遠矢自身も理解している。しかしどうにかしようと考えてどうにか出来ることでもない。
何かをしようにもその一歩が怖い。いつものような捨て身の覚悟も出来ない。
「トーヤ、やっぱり来なかったんですね」
そんな時にりりあが自エリアに戻ってきた。遠矢はすぐに落ち込んでいた姿を隠していつものように振る舞う。
「いや、行ったんだがな。人が多くて合流できないと諦めた。そうだ、リッテとパラビアに出会ったぞ。何か悩んでいる様子だったから店を出すように助言した。さて、どうなるだろうな?」
落ち込んでいる姿など見せられない。弱っている姿など見せられない。それは見栄であり、遠矢が社会に出て誤って学んでしまった身を守る方法。
その様子を見てりりあは遠矢の体面に座り。
「トーヤ、怖いんでしょ。良いんだよ、もう。輝天祭を頑張らなくても」
そんな孤独な処世術をりりあはあっさりと打ち壊す。
「な、何を……」
「分かるよ。だって昨日は寝ながら泣いてたし、寝言で死にたくないって繰り返してたし。様子を見に行けば震えているし。分からないわけないじゃん」
地下住居が狭いことによる弊害。遠矢は初めて狭い住居にしたことを後悔し、隠し通す諦めた。
いくら平静を装っても寝ているときに出てしまっては隠しようがない。この場で言い逃れをしても今日寝てしまえばすぐにばれる。
「トーヤ、もう良いんじゃない? ポイントは沢山あるんでしょ? 反イケメン同盟で店を出して収入も安定しているみたいだしさ。優勝なんか諦めてさ、輝天祭が終わるまで静かに過ごそうよ。私もさ、いい加減疲れきたし」
元気に振る舞いながら輝天祭の棄権を促してくるりりあを遠矢は静かに見つめる。
そこにあるのは善意。遠矢がしばらく受けたことのない心地よいもの。目を閉じればそれに身を任せてしまうほど温かみがあった。
だが、それでも。
「何を言っている。俺は一切問題ない。怖いだ、震えているだ? 余裕に決まっているだろう。次の対戦もすでにどうやって勝つのか決めてある!」
人としての意地がある。誇りがある。十近く年の離れた小悪魔の言葉に身を任せて全てを投げ出すほど弱り切ってはいない。
大見得を切った勢いのまま遠矢は主の腕輪で対戦相手とルールを確認する。
対戦相手は吸血鬼とそのしもべ。そしてルールは宝探し。
吸血鬼とそのしもべを相手に宝探し。場所は対戦者毎に異なり事前の発表はなし。
吸血鬼は遠矢も知っている。そのしもべについては情報がないため分からない。そして宝探しは場所次第。
やりようによっては勝てるのでは、と遠矢は希望を見出すが。
「吸血鬼。身体能力、特殊能力共に優れた種族だね。その分色々と制限や弱点があるけどね。優れた点だけで見れば竜人以上かも。そのしもべはトーヤの知人に教えてもらいましたけど、ただの人間っぽいですね。多分血液パックでしょう」
「吸血鬼は宝探しの場所によっては容易に無効化されるのでは?」
「何言ってるの? 輝天祭に参加している吸血鬼だよ。普通の吸血鬼と違って弱点なんてあるわけないじゃん? 陽の光も十字架も流れる水も全部無意味。調べてすぐに分かったけど、全勝組で今まで負けそうになったこともない正真正銘の優勝候補だよ」
りりあの話を聞いて希望の目はあっさりと摘み取られた。
恐怖の克服も出来ないまま、勢いで見る相手としてあまりにも強大な相手。
対戦日時は第五回戦最終日。
相手は吸血鬼。パンドラ・ド・パラマイヤ。しもべ。ルド。
遠矢はしばらく眠れない夜を過ごすことになった。
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