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第四十五話 勝利の代償

 第五回戦のルールと組み合わせの発表。

 輝天祭の参加者のほとんどがコロシアムに集まり、憎たらしい運営の猫の話を聞きに行っている中。


「トーヤ、そろそろ正午だよ。行かないの?」


「ああ、うん。りりあ、先に行ってくれ。後で行くから」


 いつもであれば真っ先にコロシアムに行き、壁際の場所に陣取っている遠矢は正午が近づきつつある今もベッドから出ようとしない。

 朝食すら食べず、りりあは何度も心配して声をかけたが遠矢は空返事を繰り返した。

 さすがにこれ以上は待てないとりりあは先に自エリアを出る。


「必ず来るんだよ」


「ああ」


 りりあが去ってからしばらくして、遠矢はのそのそとベッドから出る。

 そして誰もいないことを確認して大きくため息を吐いた。


 遠矢がベッドから出なかったのは単純にりりあに今の自分を見られたくなかったから。

 第四回戦を終えて必死に抑えて来たものが溢れつつある。手が震え、足が震え、身体が震えている。


 寒いのではない。恐怖で身体が震えている。

 一回戦から三回戦まで遠矢は恐怖と戦いつつ勝利してきた。そうして恐怖を抑え込んできた。

 しかし第四回戦。そこで遠矢は輝天祭で初めての死ぬ寸前の怪我を負った。死を明確に意識した。


 生まれて初めて自分の目の前に死があった。りりあがゴールするのがもう少し遅ければ死んでいた。死に比べれば大怪我も、相手の殺意も怖くはなかった。


 死ぬことが怖い。戦うことが怖い。

 天城遠矢はただの一般人なのだ。




 正午が過ぎ、さすがにまずいと遠矢は自エリアを出ようとした。しかし出る直前で足が止まった。

 外にいるのは数多の英雄。自分を殺せる相手。それにリザやリアンは挑発的なことをしたので自分を恨んでいてもおかしくない。

 殺されない、と分かっていても死が怖い。だがそれでも、と遠矢は意を決して自エリアを出る。


 商業エリアはいつもと変わっていなかった。変わっているはずがない。変わったのは遠矢の心情だけ。

 大丈夫だ、と遠矢は自分に言い聞かせてコロシアムに向かう。


 コロシアムのある中央まで行けば、コロシアムが異様に盛り上がっていることが分かった。運営の猫が何かをしたのか、それともルールが今までと大きく異なるのか。それとも単純に今までもこれだけ盛り上がっていたのか。

遠矢には分からなかったが、その盛り上がりに見合う人数が中にいることを察し、りりあと合流は難しいと考えて近くのベンチに腰を落ち着けた。


 主の腕輪の機能を使えば第五回戦のルールと相手が分かる。しかし見てしまえばそれは戦いの合図。その瞬間から遠矢は第五回戦について考え続けないとならない。

 見るのが怖い。戦うのが怖い。そんな心境ではとても一人で見る気にはなれなかった。


「あらぁ? あの時の坊やよねぇ?」


「確か、トーヤ。そう、トーヤだったはずだ」


 誰かに呼ばれ、遠矢は顔を上げればそこには第三回戦で戦った淫魔のリッテとパラビアがいた。


「ああ。お前たちか。服が変わったようだな」


 リッテはあの全身鎧からショートパンツのみの格好になり、パラビアもローブではなくブラとパンツのみの非常に淫魔らしい格好に変わっていた。


「お前たちのおかげで正体がバレたからな。鎧やローブを着る必要がなくなったんだ。おかげで四回戦も負けて二勝二敗だ」


「ふふぅ。でもぉ、こっちの格好の方が好きだしぃ、自分らしくやれるから楽ねぇ。負けちゃうんだけどぉ」


 正体をバラされて負けた腹いせのつもりなのか、リッテは苛立ったように言うもパラビアが甘い声で現状に満足していることも伝えてしまう。

 そんな話を聞かされ、遠矢はつい鼻で笑ってしまう。


「お前たちなら勝てる方法などいくらでもあるだろうに」


 リッテもパラビアも正確には英雄ではないがそれに準ずる力を持っている。神に愛されてここにいる。決して弱いわけではない。

 遠矢と違い、一般人ではない。


「ほう? どうやるんだ?」


「それくらい自分で考えろ。ただ、そうだな。助言はくれてやる。店を出せ。身体を売れ。客と親密になれ。そうすれば情報が、客しか持っていない道具が手に入る。もしも客が対戦相手になれば色々とやりやすくもなるはずだ」


「なるほどねぇ。でもぉ、ここじゃ『魅了』は通じないのよねぇ」


「魔法を使わないと相手を『魅了』出来ないのかお前は? 自分の魅力でどうにかしろ」


 そんなことすら出来ないのか、と言外に言われリッテもパラビアも無視できなかった。

 淫魔は自分の魅力に絶対の自信があり、相手を魅了して堕とす生物。遠矢の言い方は魔法が使えなければ相手を魅了も出来ないブスと言われたようなもの。


「良いわぁ。貴方の助言を聞き入れるわぁ。魔法なんか効かなくても、そこら辺の男なんてイチコロだものぉ」


「その助言、感謝するが後悔させてやる。俺たちはまだ二敗。これから全勝して本選に出場して見せるからな」


 そう言ってリッテとパラビアは商業エリアに向かう。どこか良い立地の空いている店を探しに行ったのだろう。

 それを見送って、遠矢は溜息を吐く。


 リッテもパラビアも今まで遠矢が戦った相手の中で弱い部類だ。なのに手の震えが止まらなかった。自分を容易く殺せる相手だと知っているため、怖くて仕方がなかった。


 虚勢を張って何とか耐えたが、これ以上は心が持たないと遠矢は自エリアに戻ることにした。


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