第四十四話 小悪魔大砲
遠矢は辺りが真っ暗になったことで自分は死んだのだと勘違いした。しかしすぐに周りの歓声を聞いて勘違いに気付いた。
第四回戦に勝ってコロシアムに来たのだと。
幸いなことに第四回戦は第一回戦同様にコロシアム中央の穴から上がって来る演出のため時間があった。
身体を気遣うように遠矢はゆっくりと立ち上がるも、先程まで死ぬほど苦しめていた痛みはないとすぐに気付いた。
後はいつも通り見栄を張ってコロシアム出るだけ、だが。
「何だ?」
隣でりりあが遠矢を心配した目で見ていた。それに気づかれるとりりあはすぐにそっぽを向く。
「別に。身体は大丈夫なの?」
「大丈夫だ。先程までの痛みが嘘みたいに消えている。お前こそ大丈夫なのか? かなり無茶をしたはずだが?」
「怪我とかしてないから」
第四回戦の作戦はりりあが主体の作戦。しかし相手は目の良い多眼族の英雄。気付かれてしまえばどうしようもない。
だから遠矢はマダラたちの目を欺くために動いた。
りりあの行ったことは第四回戦が始まる前から軽トラに乗って待機し、開始と同時に道から外れた場所に思いっきり移動して車体を隠すこと。その後、事前に探してあった山岳の比較的に高く平らな所から軽トラで運んできた大砲を設置して自らを発射するだけ。
人間大砲は外側だけ大砲で中身はバネで人を飛ばす仕組みだが、りりあは実際の大砲を使っている。
爆風を逃さないように足元には強固な魔力障壁を使い、自身の身体はフタクチから貰った符術で強化。射出された後は飛行の魔法で最高速度を維持しつつ滑空し、下から魔力の反応があれば回避行動を取る。
魔法があるからこそ出来る馬鹿みたいな作戦。事実、一回目と二回目の練習の時にりりあは身体への影響と高速で飛ぶことに慣れていなかったため壁と地面に激突して失敗している。
幸いダンジョン内、または対戦以外での大怪我はすぐに治されるので問題なかったが。
作戦名『小悪魔大砲』の最大の問題は山岳までの運搬にあった。
軽トラの存在がばれれば確実にマダラたちに壊されるし、そうなれば大砲を運ぶのは困難。スタートこそが遠矢たちにとって最大の難関だった。
だから遠矢は反イケメン同盟にスタングレネードを売った。そうすることで警戒したマダラたちに目と耳を塞がせた。
その後の多数の消火器噴射もマダラたちの目を奪うと同時に噴射音で軽トラのエンジン音を隠すため。
ラジコンもマダラたちに前を向けさせることで離れた場所で隠れている軽トラを隠しつつ、ラジコンが壊されることで空への警戒を薄めさせるため。
遠矢の行動全てがりりあの存在を隠すため。そういう意味では遠矢は立派に作戦を果たしていた。
「……トーヤ、本当に大丈夫? 手が震えてるよ」
「うん? ああ。大丈夫だ。さっきまでは動かすことも出来なかったからな」
指摘された遠矢は手をグッと握り、隠すようにポケットに突っ込んだ。
それとほぼ同時に遠矢たちを乗せていた台は上がりきってコロシアム中央に出た。
迎えてくれたのは大歓声。第四回戦最終日であり、第三回戦でルール破りギリギリの道具の補充を最初に行い、対戦情報を売っている反イケメン同盟の中心人物。気になって遠矢たちの対戦を見ていた者が多かった。
もはやちょっとした衝撃になりつつ歓声に気圧されて後ずさりそうになったりりあだが、その背をそっと遠矢は押して先に歩く。
「おめでとう!」「凄かった!」「あの早い乗り物は何だ!」「今度はあれを売ってくれ」
四方八方から飛んでくる祝いの言葉やそうでない言葉を遠矢はうるせえとばかりに手で払い、いつも通りコロシアムを出る。
ただその足取りはいつもよりも早く……。
「めっちゃ怖かったー!」
自エリアに戻り、りりあは思いっ切り叫んだ。
マダラたちに見つかれば終わりの恐怖や数日しか練習できなかった軽トラの運転。何より大砲で自らを発射させるために拉縄を引っ張るのが怖かった。
第三回戦の時は運営の猫がいたため叫べなかったが、今回は誰もいない。押し殺していた感情を思いっきり発散できる機会だったが。
「ああ、そうだな」
遠矢は叫ばずにそう言って早々に地下住居に向かう。
その後ろ姿にいつものふてぶてしさはなく、りりあは少しだけ心配になった。
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