第四十二話 雑魚VS多眼族の聖人と聖女 2
危なかった。
スタート地点後方の茂みの中で、遠矢は気づかれないように静かに胸を撫でおろす。
ラジコンが撃墜されなくて良かった、と。
遠矢は目くらまし用の消火器をぶちまけた後、即座に後方の茂みに入ってマダラとリアンの様子を監視していた。
マダラとリアンの目がどれ程良かろうが絶対に隠れられないわけではない。
いくらマダラが全方向に対して目を向けられるとはいえ、レースなのに相手がスタート地点の後方にいるなどとは到底思わない。
視野など所詮意識した方にしか向かないもの。意識の外に隠れていればどれほど目が良かろうと見つかることはない。
その意識を前に向けさせるための道具がラジコンだ。あれを撃墜されていたら今の遠矢にとってはかなりの痛手となっていた。
「くそっ、早すぎるだろう」
ラジコンを一撃で落とせなかったマダラとリアンは、攻撃で落とすのを諦めて早々に走って行ってしまった。
当然その走りは並ではなく、あっという間に視界から消えてしまいそうになる。
ただそう簡単に逃がしてしまっては今後に関わる。遠矢は迷彩柄の布を取っ払い隠しておいたバイクに乗り込む。
ただマダラたちから隠れて追う必要があるため、これから走るのはマダラたちが走っていった平坦な道ではなくそこから少し外れた荒れた道。
一応は下調べの時にあまり荒れていない道を探したが、それでも荒れた道。そこを慣れないバイクで、馬鹿みたいな速度で走るマダラたちに追いついて気付かれないように並走する。
「うおおおぉぉぉ!」
命がけのドライブが始まった。
無茶と言うのは一つ二つなら意外にどうにかなるもので。
慣れないバイクで荒れた道を走り、マダラたちに追いつきながらも気付かれずに並走するまでは遠矢は出来た。
ただ一つ、出来なかったのは。
「あああ!」
ラジコンを守ること。マダラによる複数の目から一斉に放たれたビームによりラジコンは無残に砕け散った。
今はまだレースも半ば。まだ半ば。遠矢の計画では半ばでは最低限の働きしか出来ていない。確実に勝つためにはまだ時間を稼ぐ必要があった。
マダラたちは足を止め、砕け散ったラジコンの破片を手に取る。ラジコンを調べる時間だけでも十分に時間稼ぎになると遠矢はそっとその様子を眺めていた。
ラジコンにおまけで押せた人形が何故かマダラたちの興味をそそり、僅かながら時間を稼げたがそれもすぐに終わり。
マダラが上着を脱いで上半身全ての目を開いた。
直後に遠矢は察した。気付かれた。
「後ろじゃ!」
マダラの言葉と同時にリアンから凶悪なビームが飛んでくるも、寸での所でバイクを発信させることで回避。そのまま逃げようとハンドルを切るも。
「カアッ!」
マダラによる連続のビーム攻撃。一つ一つは針を刺すような鋭い痛みは走るが致命的ではない攻撃。我慢して何とか岩場の陰に逃げるも。
岩を貫通してリアンのビームが遠矢の両足を貫く。
バイクから転げ落ち、岩肌を転がる。そして遅れてバイクが遠矢の上に転がり落ちてきた。
「どうじゃ?」
「手応えはあった。死んじゃいないだろうが、もう動くこともままならんだろう。どうする、爺? 念のために殺すか?」
「いや、先を急ごう。遠矢の姿しかなかった。もしかしたらりりあが先行している可能性がある」
その会話だけが遠矢の耳に届き、少し後に走り去る音が聞こえた。
一人残された遠矢は顔を伏せて泣いていた。
頭が割れるように痛い。血が流れ片目が開けられない。腹と背中が苦しい。バイクが乗っかっていることもあるが、内側から外に向かって突き刺すような痛みが走っている。
足は貫かれた場所が火鉢でも当てられているかのように熱く、それ以外が逆に冷たく感じる。ただ痛みはない。それが逆に遠矢を不安にさせる。倒れて転がっている途中で足がおかしな方向に曲がっているのが見えた、気がした。
遠矢の役目はもう終わった。やれることはない。だから出来れば殺してほしかった。そうすれば痛みに泣き、怯えることもなかった。
後は全てりりあに託してある。だから運悪く殺されなかった遠矢は第四回戦が終わるまで歯を食いしばり、徐々に鮮明になってくる痛みに耐えながらコロシアムの観客に気付かれない様に顔を伏せて泣き続けた。
よろしければ評価、感想などお願いいたします。




