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第三十六話 多眼族

 多眼族。数多の瞳を持つ一族。

 生まれた頃は誰もが二つの目しか持っていないが、修練を積むことで額や手のひらなどに目が生まれて開眼する。

 普通に生きていれば三十、四十の目が開き、修練を積めば七十程の目が開く。


 極稀に、過酷な修練を長年積んだ者の中に多眼族の限界である百の目に到達する者がいた。


 それが聖人。トト・マダラ。


 小柄な老人ではあるが、過酷な修練により鍛えられた肉体は鋼の如く。百の目は頭から足の裏まであり、必要のないときは閉ざされている。


 百の目を獲得したマダラだが修行の旅を終えることはなかった。

 マダラは目の数を増やすために修練に励んでいたのではなく、自らを鍛え人々を救うため。故にその旅に終わりはない、はずだった。


 マダラの旅が終わったのはとある辺境の山村に立ち寄った時。

 何故ここに人が住んでいるのか、そう尋ねたくなるほどに過酷な場所。近隣に村はなく、その山村に続く道もない。

 人々に伝わる噂だけでマダラはその山村を探し当てた。


 貧困、病、害獣。様々な問題がその山村にはあった。それらの問題は村人の心を貧しくする。

 例えば、弱者を見つけて虐めるなど。


 マダラは虐められていた少女を救った。その後にじっくりと村を救おうと考えていた。だが一瞬でその考えが吹き飛んだ。

 救った少女が単眼だったのだ。


 多眼族の目は最低でも二つ。しかし目の前の少女の目は一つ。顔の中心にあることから、怪我をして失ったわけでもないと分かる。

 このような異質。閉鎖された社会では虐められてしまうのも無理はない。


 だがマダラは知っていた。単眼の価値を、本質を。


 多眼族の神の目の数はいくつと伝わっているのか。民衆には千とも万とも伝わっている。しかし実際は違う。多眼族の神の目は一つだけ。

 必要がないのだ。神には複数の目が。一つで全てが見えるから。


 しかしそれは秘匿された情報。何故なら神のようになろうと目を潰す者が現れてしまうため。多眼族はそれだけ信仰が厚い一族。


 マダラもそのことを知ったのは目の数が七十を超えた頃。辺境の山村に住む者がそれを知るはずがない。


 マダラは少女を救うとその村に育ちやすい作物の種と育て方を、病の発生原因と対処法を、害獣の狩り方を教えて早々に少女を連れて国に戻った。

 神の瞳を持つ少女を育てるために。


 その少女は後に聖女と呼ばれることになる。




「ふむ。あれじゃな。人間の天城遠矢と悪魔のりりあとやらは」


 多数の人がいるコロシアム。人が入り乱れ、誰がどこにいるのか簡単に見失ってしまう。しかし多眼族であれば問題ない。

 多眼族の目はどの種族にも引けを取らない。その目が必要に応じて開けば、見えないもの、見つけられないものなどない。例え、人ごみの中で地味な姿をしている人と悪魔であろうとも。


「あの人間は非常に強い影響力を持っておる。ほれ、コロシアムの中に対戦相手の情報を売っている店があるじゃろ。あそこは反イケメン同盟の店じゃが、その反イケメン同盟の中心人物が彼じゃ。それに第三回戦は彼の戦術の所為で前半と後半で戦い方が大きく変わった。今最も注目されているペアはおそらく彼らじゃな」


 マダラは知っている情報を全て隣にいる聖女に伝えるが。


「うるせえ、爺。見れば大体分かる。確かに周りに慕われているな。姑息そうな顔もしている。しかし、本当に凄い奴なのか? 肉体は鍛えられてないし、カリスマもなさそうだ。はっきり言って何で輝天祭に参加できているのかも分からないんだが」


 うるせえの一言で切って捨てられた。

 マダラは子育てに失敗した、わけではない。


 いくら少女で、神の瞳を持とうともマダラは甘やかすことなく真剣に向き合って少女を育てた。

 ただ少女は長い間虐められていたため、心が荒んでいた。


 周りにいるのは全て敵。抗わなければ殺される。

 少女はマダラを敵と見ていた。見知らぬところに連れて行く敵だと。だから近づく度に攻撃した。


 その度にマダラは叱った。反撃などせず、言葉で駄目なことだと教え続けた。

 真剣な対応は少女の心を開かせ、唯一敵ではない人物と認識された。

 後はその認識を広めるだけ。だがここで問題が起きた。


 国からの、教会からの介入。それはいくら聖人と呼ばれるマダラでも完全に阻止は出来なかった。


 聖人の名のおかげで取り上げられることはなかったが、何人もの世話役が送り込まれた。

 世話役は少女が何かを欲すれば何でも買い与え、修練の途中で幼い身にこれ以上はと割り込んできた。

 全ては少女の信用を得るため。

 しかしそれこそが逆効果。少女の瞳は神の瞳。


 少女は世話役たちの考えをあっさりと見抜いた。誰も少女を見ているのではなく、神の瞳をという名前を見ているのだと。

 その所為で少女は本当に信用できるのはマダラ一人だけと答えを出してしまった。


 ただ少女は賢かった。他の人たちが望む姿をその目で察して、その望み通りに振る舞った。そうすることで信用できるマダラから引き離されないように。


 仮面を被り、相手にとっての理想の人物を演じた少女は早々に聖人に並ぶ称号が与えられた。

 それと同時に育ての父であるマダラからトトの名を貰った。


 聖女、トト・リアンの誕生である。


「リアン、わしの前でだけ言葉を崩すのを止めい。常に言葉遣いに気を付け、どのような相手にも真摯な態度を」


「黙れ、爺。そういう時だけ良い顔をしてやるから安心しろ。あー、やっぱ何でここにいるのか分からねえ。雑魚じゃん。でも全部勝ってんだろ? ……近くで見ても変わらねえと思うけど、挨拶にでも行くか?」


 輝天祭には世話役も民衆もいない。いるのは信用できるマダラだけ。そのためリアンは仮面を被ることなく、常に素の自分を出していた。

 それについてマダラは何度も注意するも、これがリアンなりの甘え方だと理解しているため強く出れない。

 情けない自分にため息を吐きながら、マダラはリアンと共に対戦相手の天城遠矢とりりあの下に向かう。




「お、ハゲ」


 マダラを見た遠矢の最初の一言だった。


「馬鹿! いや、すみません。馬鹿が失礼なことを」


 そしてりりあに殴られた。当然だ。

 ただそのやり取りが面白かったのか、リアンは上品に笑う。


「ふふ。仕方がありません。マダラはハゲですから。おそらく承知しているとは思いますがこちらが多眼族の聖人。トト・マダラです。そして私が聖女のトト・リアンです。第四回戦の最終日ではありますが、よろしくお願いします」


 単に挨拶に来ただけ、と分かりやすく自己紹介をして握手のために手を差し伸べる。

 目的は反応、仕草を見て実力を把握するためだが。


 だが返ってきたのは予想外の言葉。


「え? 何でこの人猫被っちゃってんの?」


 りりあが一瞬でリアンの仮面を剥いだ。


「何だりりあ。リアンは猫を被ってんのか」


「うん。何でかは知らないけど。私は悪魔王の娘だからね。猫を被る時もあるんだから。当然猫を被っている人も分かるよ」


「へえ、意味分からんわ。まあ良いや。わざわざ挨拶に来たのか、俺たちを見に来たのかは知らないけど、あんまり分析されたくないから逃げるわ。りりあはこれから女子会か?」


「うん。ほら、今まで正体を隠していたパラビアも参加したいって言うから。じゃあね、トーヤ」


 そしてそんなリアンの仮面などどうでも良いかのように、遠矢とりりあは早々に話を終えて遠矢は外へ、りりあは女子会を開くためにどこかへ行ってしまった。

取り残されたマダラとリアンだったが。


「あっはっは! ほとんど無視じゃな! しかも猫を被っていることまで見抜かれて! 見定めるつもりが逆に見抜かれるとは。あー、目が良いのは多眼族だけではないのう」


 マダラはリアンが猫を被っていることをあっさりと見抜かれ、その上ほとんど無視されて逃げられたことにえらく上機嫌な様子だった。

 反対にリアンは激怒していた。


「クソがっ! 人が下手に出てりゃ無視しやがって! 何で猫被ってんの? 被んなくていいなら被んねーわ、この馬鹿!」


 怒りのままリアンはマダラを攻撃するが、年老いハゲるまで修練を積んだマダラに届くはずもなく全て防がれてしまう。


「それで、お前の目には天城遠矢とりりあはどう見えたのじゃ?」


「クソ爺め。分かんねえよ。遠目で見た時と印象は変わんねえ。つーか、予想外のことを言われて観察できなかった」


 そう言うとリアンは大股でコロシアムを後にした。

 残ったマダラは女子会の準備をしているりりあの後姿を見る。


 リアンほどの観察眼はないマダラだが、百の目と長年経験は大体のことを見通す。

 そうしてりりあを見た結果、答えはリアンと同じく雑魚。どうして輝天祭に参加できているのか分からないほどの実力しか有していない。


 しかし現実は三勝と全勝組。二勝一敗のマダラとリアンよりも好成績。


 まだまだ分からんことがある、マダラはそれ以上の観察を止めてリアンの後を追った。


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