第三十三話 名はない
クリスマスでボッチなのは私だけではないはず……。
「あれで良かったのかニャ?」
何もない真っ白な空間。輝天祭を眺める神々のための空間。
そこで大いなる創造主の眷属である運営の猫が主に問う。
遠矢たちの行動は神々の中でも賛否が分かれている。
輝天祭を台無しにする行いと憤る神もいれば、それが出来るようにしてあると指摘する神もいる。
どんな卑怯な手段を使おうと多少の実力があれば、もしくは負けていれば問題はなかったのだろうが。
「輝天祭は各世界の英雄を集わせて最強を決めるニャ。遠矢は最強と呼べるのかニャ?」
最大の問題は遠矢たちが未だに全勝組にいること。
優勝候補の一人でもあるリザ・クローケンを倒し、隙のない英雄のペアであるグルガとラフラースを倒し、遠矢と同じく騙して勝ってきたリッテとパラビアも倒した。
全く異なるタイプの英雄を倒した。更にこれからのルールは今までに比べれば遠矢にとって楽なルールに変わってしまう。
ありえない、と猫は考えつつも可能性はあると思ってしまう。遠矢が輝天祭で優勝するのでは、と。
そうなれば各世界の英雄を倒した最強の称号が遠矢とりりあに送られる。しかしあれのどこに最強を名乗る資格があると言うのか。
だからこそ、神々は揉めているのだと猫は思っていた。
「我が眷属、お前には知らせていなかったが輝天祭の参加条件は英雄であることではない。本当の参加条件は神に愛されているか。神に愛されているから、偉業を成し英雄と呼ばれる。あの悪魔、りりあだったか。あれも悪魔王よりもりりあの方が気に入ったから彼女が輝天祭に参加させられたのだ」
「……ニャンと。ではあの遠矢も愛されていると」
「あれは違う。あれは無作為に選ばれた可哀想な存在だ。あれがいた世界は、ある神が試しにと作り一切手を出さなかった世界。しかし皮肉なことに手を出していないのに、その神が作り上げてきたどの世界よりも育ったのだ。面白いのはここからだ。その手を出していない世界は他の世界と比べても特殊で、他の神々からも高い評価を得た。しかし他の頑張って作り上げた世界の評価は凡庸の一言。頑張って作り上げた世界への評価は平均止まり、なのに何もしていない世界への評価は天井知らず。だから神はその世界を憎み、八つ当たりのようにその世界から適当な人材を輝天祭に投げ込んで帰った」
「帰ったニャ!? つまり遠矢はただの八つ当たりで参加させられたのかニャ」
「その通り。実に楽しいねえ」
言葉が見つからず、猫は口を開けたまま主を見上げる。
輝天祭の真の参加条件に驚きはしたが、それ以上の驚いた遠矢の輝天祭参加理由。
神に八つ当たりとして参加させられ、化け物ぞろいの中でただの一般人として奮闘すれば、今度は他の神々から睨まれることになる。
不幸、その一言では表せないほど悲惨な話。これにはさすがの猫も同情した。
ただそんな出来事も楽しいことだと言う主に猫はため息を吐いた。
「相変わらず、予測が外れることが好きな様子だニャ」
「ふふふ、仕方がない。神々の中でも別格の存在となり、どんなことでも出来るようになってしまってからは、何もかもがつまらない。行動を起こそうとしてもやる前に過程、結果両方が分かってしまう。なのに天城遠矢は私の考えていた過程を、結果を裏切った。これを楽しまなくて何を楽しめと言う?」
珍しく上機嫌な主に猫は何も言わず、そろそろ帰ろうかと考えていると空間の一部が輝天祭の様子を映し出した。
いつの間にか輝天祭五日目になっており、遠矢と手を組んでいたディックが決闘している。
そして遠矢はと言えば、コロシアムのステージでディックが全ての道具を取り出すのを待っていた。遠矢の隣には見慣れた箱。
第二回戦で使っていた細工された箱だ。そして中身は、一回戦で使った爆薬と第三回戦で使った毒虫。……ディックを助けるための道具、というよりもただの在庫処分。
先程まであったはずの遠矢への同情心が瞬時に失せた。
「ああ、眷属よ。第四回戦のルールを知らせておこう。対戦表は送ってある。今まで通り発表と同時に開示するように」
「またミーがやるニャ? 仕方ニャい。……そろそろ眷属ではニャく、名前が欲しいのニャ」
「名前? ああ、うん。名前を付けるという習慣が理解しにくい。考えておく」
一体この言葉を何度聞いたことか。神々は名前を付けない。どんなに似た物でも識別が付くし、忘れることもない。伝えたいことがあればイメージを送るなり、記憶を送るなりすれば良い。
だから神々は名を持たず、名に関して特に無頓着な大いなる創造主の眷属である猫は今回も名を貰うことはなかった。
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