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第三十話 雑魚VS淫魔 3

 パラビアの魅了を受けた猛獣たちは一斉に暴れた。

 極上のメスであるパラビアを手に入れるため、周囲のオスを一掃しようと身体の限界を超えて攻撃する。


 三つ目の熊はその強靭な肉体から繰り出す鋭い腕の一振りで、双頭の虎は二つの口による噛みつきと爪で、多腕のゴリラは腕の数と握力にものを言わせて握り潰す。

 まさに大怪獣大決戦。生身の人間が混ざれば即座にひき肉になるような圧倒的な力の嵐。


 それを遠くからパラビアとりりあ、そして遠矢は眺めていた。


「えぇ、何でぇ? そっちの男も『魅了』したはずだけどぉ?」


「俺には効かない。理由はそれだけだ」


「耐性持ちぃ? それくらいなら突破できる自信があるけどなぁ。まぁ、別にいいけどぉ」


 うふふ、と笑うパラビアを怖がるように遠矢とりりあは身を寄せ合う。

 そうしている間に大怪獣大決戦は決着が着き、血だらけになった三つ目の熊が勝利する。

 三つ目の熊は優勝賞品であるパラビアを手に入れるためにゆっくりと近づくが。


「まだぁ、残ってるよぉ」


 パラビアは熊に甘く囁き遠矢とりりあを指差す。

 三つ目の熊はまだ邪魔をするのかとばかりに苛立った様子で振り返る。


 そこで遠矢は秘策を繰り出した。


「りりあ!」


「え? ふにゃああ!」


 遠矢はすぐそばにいたりりあを抱き寄せた。悲鳴を上げて暴れるりりあを必死に抑え込む。

 りりあは離れようと、遠矢離れないようにしようと互いに必死に力を込めるが傍から見ればその様はいちゃついているようにしか見えず、三つ目の熊はその様子を見て戦意を失う。


 三つ目の熊からすればこれから極上のメスであるパラビアと、怪我の痛みすら忘れるような幸せの絶頂を迎えるのだ。なのに何故小動物の幸せを邪魔しなければならないのか。

 ただパラビアがあれを気になると言っている。だから三つ目の熊はオスとして。


「ゴオオアアア!」


 思いっきり吼えた。それだけで小動物は抱き合いながら逃げていき、隅の方で互いに抱きしめ合って小さくなる。

 これで十分だろうと、と三つ目の熊は再度パラビアと向き合う。


「……えぇ? え!? いや、ちょっと! 違うでしょ!」


 三つ目の熊が遠矢たちを排除に向かわずにまた自分の方へと歩み出している。それにパラビアは驚き、妖艶に立ち振る舞う余裕も消えた。

 その姿をみてほくそ笑む遠矢。そんな遠矢を見てりりあはドン引きする。


 『魅了』は異性であれば、場合によっては同性であっても好意を抱かせて自分にいうことを聞かせることが出来る。それは例え先程まで戦っていた相手であっても。

 非常に強力に見えるが、いくつか問題もある。


 一つは洗脳とは異なり完全に相手を掌握できるわけではない。相手の好意を利用することまでしか出来ず、やり方などは魅了した相手の判断で決まる。

 もう一つは『魅了』そのものの強さ。それが強すぎれば強すぎるほど、相手の好意も強くなり暴走しやすくなる。


 その結果が、性欲が暴走しパラビアに襲い掛からんと近づく三つ目の熊だ。

 本能が暴走し、パラビアがどんなに遠矢とりりあを指差しても三つ目の熊はパラビアから目を離さない。

 そして逃がさないとばかりに三つ目の熊は大きく腕を広げてパラビアに突撃する。


 『魅力』による暴走。ただそれを、淫魔であるパラビアが対策していないはずがない。


「『幻惑』は、効かない!? なら『麻痺』からの『死毒』」


 パラビアは『幻惑』で自分の姿を隠し、遠矢とりりあをパラビアだと勘違いさせようとしたが三つ目の熊に『幻惑』は効かず、仕方なく一時的に動きを止める『麻痺』からの猛毒の魔法『死毒』で三つ目の熊の息の根を止める。

 折角の強力な手駒を失い、形勢がやや不利とパラビアは警戒するように遠矢とりりあを睨む。


 得意である『魅力』は遠矢に通じない。それでも多少の攻撃魔法は使える。まだ勝ちの目は残っている。

 どう動くべきかと悩んでいると、遠矢とりりあが動いた。


 服に付いた土を払い、背中を反らして身体を伸ばす。それはまるで対戦が終わったかのような動き。

 二対一なら負けないと言う挑発的なものかと、パラビアは不快だと眉をひそめ魔法を放とうと腕を伸ばして、気付いた。


 虫だ。毒虫だ。リッテに取り付いていたのと同じ種類の、強力な毒を持った虫。


「や――」


 魔法で殺すより、手で払うよりも早く、毒虫がパラビアの腕を刺した。

 直後に走る激痛。腕を巨大な針が貫通したような痛み。

リッテはそれに耐えて反撃した。しかしそれはリッテが淫魔の中でも戦士型であり、痛みに慣れていたため。

 痛みに慣れていないパラビアでは刺された腕を上げることは出来ない。鋭くも熱い痛みに耐えるようにその場を動かないことしか出来ない。しかしその間に毒は回り、指先が、手が冷たくなり感覚が消えていく。


 そしてゆっくりと遠矢とりりあがパラビアに向かって歩いて来る。


 痛みで満足に頭が回らなくても状況が詰んでいる程度は今のパラビアでも理解できた。


「降参するわぁ」


 第三回戦、決闘。最も不利なはずのルールで遠矢とりりあは勝利をもぎ取った。


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