第二十九話 雑魚VS淫魔 2
淫魔の世界は貧しい。
いや、貧しいは正確ではない。食うに困ることはないし、職もあれば病が流行っていることもない。
特に問題のない普通の世界。
ただ近くに悪魔の世界があった。
悪魔の世界には各世界を行き来できる世界門があり、淫魔の世界に世界門はない。淫魔は輝天祭で優勝したことがないために。
各世界と流通のある世界とない世界、比べればその発展の違いは一目瞭然。悪魔の世界は大都会、淫魔の世界は田舎のような差がある。
だから大半の淫魔は悪魔の世界に憧れ、世界門の向こうに夢を見て不法に侵入しようとする。
悪いことだろう。良くないことだろう。それでも淫魔の世界の狭さを知ってしまっては、外を見てしまいたくなる。
ただ近頃は悪魔も勝手に世界門を使われないように異常なまでに世界門を警備し、世界門を使えないことで淫魔たちが憤り淫魔の世界が少しずつ荒れ始めていた。
それを阻止したのが騎士好きだった淫魔。彼はその魅力で、時として拳で暴れる淫魔たちを静めて、話し合いで悪魔たちから正式に世界門の使用を認めてもらおうとした。
一人二人の声は無力でも、たくさんの声が集まれば力となる。騎士好きの淫魔はそう言って仲間を集め、悪魔たちとの話し合いの席を設けるまでになった。
しかし騎士好きの淫魔はそこで仲間の淫魔たちを裏切った。
悪魔たちが話し合いで解決できそうだと警備を緩めた隙を狙い、騎士好きの淫魔は世界門を使ったのだ。
それに激怒した悪魔たちは話し合いを拒絶。騎士好きの淫魔を捕まえに行った。
そしてそれを知っているのは、騎士好きの淫魔の親友で唯一同行していた一人の淫魔。
淫魔は茫然自失となる。このままでは折角静めた淫魔の暴動が再度起きる。それも今まで以上の規模で。今回のことを知らせるわけにはいかない。しかし、リーダーである騎士好きの淫魔がいなければならない。
だから彼は自ら騎士の鎧を身にまとい、騎士好きの淫魔の代わりとなって淫魔の世界に帰還。悪魔との話し合いはまだまだ長くなりそうだと仲間たちに気長に待ってくれるように頼んだ。
そうして何とか大火を防いだが、未だに火種は残っている。
解決策はなかった。輝天祭が開催されるまでは。
輝天祭で優勝すれば世界門が手に入る。そのためなら、いくらでも卑怯なことをする覚悟だった。
輝天祭に参加している淫魔。聖騎士バル・リッテは英雄に非ず。
英雄になり損ねた淫魔の振りをした、偽物の英雄である。
剣が肉を切った感触は華奢なリッテの腕にも届いた。
やった、と一瞬思うもすぐに疑問が浮かぶ。
剣が高い位置で止まっている。まるで挟まってしまったかのように動かない。
リッテの華奢な腕でも筋力強化に身体能力上昇と淫魔では使える者が珍しい強化の魔法をかけているので、人の身体程度なら両断できる。
なのに剣が肉を切るも、それ以上振り下ろせない。
何が起きたのか理解できず、リッテは怯えるように顔を上げればそこにいたのは。
三つ目の熊。双頭の虎。多腕のゴリラ。
見たことのない、ただ見ただけで分かる猛獣がそこにはいた。
そして三つ目の熊の肩に僅かに切り込んだリッテの剣。
「馬鹿な……」
直後、リッテは三つ目の熊の反撃である腕の払いで吹き飛ばされた。ただ吹き飛ばされた先は双頭の虎がいる場所。
確実に死ぬ。ただパラビアがいればこの戦いは勝てる。諦めと安堵のおかげか、死の間際でもリッテは冷静に思考を巡らせることが出来た。
何故、遠矢はあの猛獣を召喚できたのか。遠矢は最初に入れ物以外の全てを召喚している。あの時点で遠矢の持ち物は空のはず。なのにまるで補充されたかのように猛獣を召喚してきた。
それに召喚された猛獣はリッテが咄嗟に魅了を使っても通じないよう全てオス。まるで今の展開を読んでいたかのように。
補充、そして展開を読む? まさか!
リッテが遠矢の策に気付いた直後、双頭の虎に噛みつかれ、身体が上半身と下半身の二つに裂かれて敗北。
残ったのは女の淫魔。ヴィ・パラビアのみ。だが。
「『魅了』よぉ。それじゃ、争ってねぇ」
パラビアは遠矢が召喚した猛獣全てを魅了し、猛獣同士で争わせた。
これで遠矢の手駒は再度なくなった。勝ちを確信したパラビアは妖艶に微笑み。
遠矢は邪悪に笑った。




