第二十一話 第二回戦ネタ晴らし
前回と同じく、遠矢たちは勝者としてコロシアムに戻るもすぐに自エリアへと逃げ込んだ。
理由は以前とさほど変わりはない。ただ叫びたかった。
「「自由だー!」」
胸を張り、両手両足を伸ばして二人は叫んだ。
遠矢は第二回戦が始まって早々にグルガとラフラースに見つかって手足を縛られ、二人が毒を飲むまで拘束されていた。更に武器を向けられるなどの脅迫も受けるなど、心身共に酷い扱いを受けていた。
しかしそんな遠矢よりも扱いが酷かったのがりりあだ。
「トーヤ! もう二度とあんな作戦は引き受けません!」
「何だ? やることがなくて暇なくらいだろう?」
「はあ!? やることがある、ないの話じゃない! こっちがどれだけ怖い思いをしたか! 今まで数多くの悪戯をしてきたけど、あそこまで隠れるのが怖かったのは初めてでだったよ!」
怒るりりあから少しでも距離を取ろうと笑いながら遠矢は下がるが、逃がしてもらえるわけもなく詰め寄られる。
それもそのはず。りりあは遠矢の作戦の所為で早朝から試合が終わるまでの間ずっと狭い場所に隠れ潜んでおり、その辛さは遠矢を大きく上回る。
「そんなに箱の中は狭かったか?」
「狭いだけで済むかぁ! 外の様子は分からないし、見つかったら終わりだし、常にグルガとラフラースが近くにいるし! どれだけ怖かった、分かってんの!」
遠矢が考えた作戦は非常にシンプル。
隠密に長けたりりあに毒を持たせて相手の荷物に潜入する。そして頃合いを見計らってりりあが荷物から出て食料と水に毒を入れてまた隠れるだけ。
その作戦を成功させるために遠矢は全力を尽くした。
四角柱に布を被せた仕切りは持ち込む道具を隠すためではなく、相手に同じ物を作らせるため。仕切りを作らせずに荷物を運ばせてしまうと荷物の山の形が目に入り覚える可能性があるが、仕切りを作ることで荷物の山の形を見させないようにする。そうすることでりりあが入っている箱を紛れ込ませやすくする。
箱は保存食を買った店から借りることを知っていたので、それに似せた箱を作り二重底や側面から出入りできなど細工を施した。
最大の問題だったのはりりあを相手の荷物に潜入させると、当たり前だがりりあがいなくなってしまうことだ。一回戦同様に自エリアから始まるのであれば問題ないのだが、今回はコロシアムから始まる。どうしても顔合わせが起き、りりあがいないことを不審に思われてしまう。最初は話術で何とか誤魔化そうと遠矢は考えていた。
だが意外な所から救世主が現れた。フタクチの符術だ。
符の中に対象の分身を生み出すものがあり、それを使ってりりあを分身させ遠矢の背後を付いて回るように設定。そして二回戦が始まる瞬間に解除されれば誰から見ても遠矢とりりあは共に行動していたように見える。
そこまで出来てしまえば遠矢の役目はほぼ終わる。残りはりりあの仕事となる。
第二回戦で遠矢が早々に捕まったのは、単純に試合を早く終わらせるため。
グルガとラフラースのどちらかが先に毒を食らった場合、もう片方は毒を警戒して荷物に手を出さない。そうなると餓死するまで待つしかない。りりあは僅かに水と食料を持ち込んでいるので勝てるが、時間をかければその分りりあへの負担が増える。そのために遠矢の持ち物という一見安全に見える毒入りの水と食料を相手に奪わせた。
必要ではないが、後々のことを考えればやった方が良い程度の行い。ただその代償は考えていたよりも大きかった。
「俺だって槍を突き立てられたり、弓を向けられたりと怖い思いをしたんだ。お前のいつ見つかるか分からない恐怖については理解するが、こちらの直接的な恐怖についても理解してくれ」
グルガもラフラースも遠矢から見れば圧倒的強者。殺意を、武器を向けられて怖くないわけがない。それが第二回戦中に表に出なかったのは遠矢が単純に開き直ったからだ。死んでも本当に死ぬわけではないし、りりあがいるので負ける可能性も薄い。それに相手は英雄で、コロシアムにこの光景が映っているのだ。拷問などの酷い行いは絶対にされない。
「うぬぬ。まあ、確かに。グルガやラフラースが怒った声は聞こえていましたし、あれを正面から受けたらそりゃ怖いのは分かりますけど。ならマッサージをしてください。それで許します。もうずっと箱の中に隠れていたので全身が酷くて」
「仕方ないな」
今回の一戦も、前回同様にかなりギリギリだった。もしもグルガとラフラースがポイントに余裕があれば厳しい状況になっていたことは遠矢が一番分かっている。
もしもグルガとラフラースにもう少し考える頭があれば負けていただろう。
第二回戦のルールで最も正しい対応とは、仕切りを置くのではなく時間ギリギリに持ち込む道具を持ってくることだ。忘れる、思っていたよりも入らないなどの若干の危険はあるものの、相手にほぼ情報を与えずに道具を弄られる心配もない安全策。これをされていたらりりあは荷物に紛れ込むことは出来なかった。
戦いが始まってからでは遠矢もりりあも出来ることは限られている。その限られている中でやりあっては、絶対に英雄には勝てない。
戦いが始まる前、前準備、前段階の段階で遠矢たちは勝ちを決めなければならない。残念ながら一発逆転など遠矢たちの実力では絶対に出来ない。
「あ、マッサージをしてやるから終わったら俺も頼むぞ。長時間手足を縛られていた所為か背中が酷いことになっているんでな」
「はー、しょうがないですね。りりあが先。それを守るのなら良いですよ」
地下のホームに帰る途中、ふと遠矢は気付いた。
りりあが隠れていた細工を施した箱、自エリアに戻ってきていないとなるとグルガとラフラースの所に行ったということ。
まずいか、と遠矢は一瞬考えたが別にもうあの箱は必要ないし、グルガもラフラースもあの箱を見つけた程度で恨むような性格をしているとは思えなかった。そもそも、恨むのであれば毒を飲まされたことを恨むはず。
大丈夫、と答えを出し遠矢はホームへと戻った。




