第二十話 雑魚VS獣人&エルフ 2
一部流れを変更いたしました。申し訳ありません。
遠矢を見つけるのは簡単だった。
ラフラースが何度か『風探』で探しているとグルガが人間の臭いに気付き、遠目から確認すれば丘の上でのんびりと寝ている遠矢の姿があった。
見通しの良い丘で、一人で、寝ている。あからさま罠。すぐに遠矢には近づかず丘の周りを念入りに探索し、何もないことを確認して慎重に遠矢に接近。
丘にも罠がある可能性がある。ラフラースは何度か『風探』で周囲に異常がないかを確認して、石橋を叩く程度の慎重さでことに当たろうとしたが、その前にグルガが痺れを切らして一気に接近。
突然のグルガの行動にもラフラースは援護に入れるようにすぐに弓を構えるも、何も起きなかった。
グルガが遠矢の前に立とうとも、遠矢を掴もうと手を伸ばしても、そして遠矢の頭を掴んで起こそうとも何も起きない。
「……どういうことです?」
「おい! どういうことだ!」
「は!? 何? 人が寝ているのを起こして怒鳴るとか止めてくれ! うるさいなあ。尋問か? ここで尋問をするのか? 拷問はしなくて良いぞ。知りたいことは教えてやる」
グルガに首を抑えられ、ラフラースに弓を突きつけられているのに捕まえられた遠矢は地面に倒され拘束されるも緊張した様子を見せない。
まるで殺されても殺されなくても問題ない、とばかりに堂々とした態度に捕まえたグルガもラフラースも顔を見合わせて混乱する。
「い、移動しましょう。ここで話をするのは怖いですからね」
「あ、ああ。何があるか分からんからな」
「じゃあ丁寧に運んでくれ。ツタで手足を縛りやがって」
得体の知れない不気味から逃げるようにグルガは遠矢を肩に乗せて、ラフラースが『風探』を使いながら周囲を警戒しつつ荷物の置いてある洞窟へと戻った。
「うえええ」
肩に乗せるだけと言う不安定な運搬方法にかなりの速度と上下移動の多さのため、内臓をぐちゃぐちゃにかき混ぜられるかのような気持ち悪さを味わった遠矢は、顔を真っ白にして洞窟の床で今にも死にそうな声を上げていた。
「遠矢さん、質問です。何故貴方はあの丘にいたのですか?」
しかしそんな遠矢の具合を気にする様子もなく、ラフラースは容赦なく遠矢に問いかけた。
「ぜえ、ぜえ。だから丁寧に運べと言ったんだ。俺があそこにいた理由? あそこは風通しが良くて寝れそうだったからだよ」
「今は戦闘中だぞ! 何で寝てんだよ!」
荷物の中から飲み物を取り出していたグルガは遠矢の一切の緊張感のない返答に苛立ち、飲み物が入っていた箱の蓋を投げつける。
身体を回転させて避けた遠矢は楽しそうに笑いながら答えた。
「ははは、だって今回は関係ないからな。俺は休みなんだよ」
「……休み、とは?」
自分たちの想定とは大きく違う状況に、グルガもラフラースも苛立ちを感じている。その中でもラフラースは冷静に立ち回るため、感情を押さえつけて遠矢から少しでも情報を聞き出そうとする。
それを知ってか、遠矢はふーむ、などと考える素振りをして相手が怒るギリギリまで引っ張ってから答える。
「あんたら、あれだろ。種族は違うが同じ世界出身だろう?」
「当り前です。輝天祭はその世界の英雄がペアで参加するのですから」
「残念ながらそれは俺とりりあには適用されていない。俺とりりあはそれぞれ別の世界から単独で参加している。運営事務所に問い合わせてもそう答えるだろう。事実だからな」
「単独参加だと。馬鹿かよ。輝天祭は二人一組。単独で来たって参加できねえだろうが」
「全く持ってその通りだ。単独では参加出来ないのに、気が付けば一人で参加させられていてな。まあ今はもう理由は分かっているが。君たちのような英雄二人なら、俺一人とほぼ同価値ということだろう」
ビシリ、と何かが壊れる音と共に遠矢の目の前に槍が突き刺さる。その槍を持つのは殺気を垂れ流し、今にも遠矢の殺しそうな目で見ているグルガ。
「面白いこと言うじゃねえか。ええ? お前のどこに俺とラフラース二人分の価値があるってんだ? お前、俺たちの価値が分かってねえだけだろう?」
今にもグルガが槍を持ち上げて遠矢の頭を貫いてもおかしくない状況で、遠矢はグルガの目を見て笑う。
「第一回戦は相手が攻撃を主として城砦に対して、グルガとラフラースは森を生成して多数の狼を使役して戦う。森の中から出てくる狼は城砦の罠をその身を犠牲にすることで無力化し、ついに狼は城砦内部にまで侵攻する。しかし運悪く城砦は森を焼き払える火器を所有しており、森と共に多数の狼も焼け死ぬ。グルガとラフラースは火事を切り抜けるも城砦を攻略できず敗北。当然ポイントはなく、食料を探しに店に入るも高く、ポイントを得るためにダンジョンに潜る。買った品物の値段と、ダンジョンに潜っていた時間。そしてポイントは欲しいが明日に備えて疲れを残さないために適性の場所よりも一つ、二つ簡単な所で戦っていたと考えれば。ほら、お前たちの実力が透けて見えてきた。お前たちはリザやアラミタマのような単身戦闘型の英雄ではなく、集団戦闘を得意とした指揮戦闘型の英雄だろう? 所詮戦うことしか能がないのは変わらないが、価値は見えてくるだろう?」
気付けばグルガは槍を引き抜き遠矢の頭を刺そうとしていた。ただ直前で正気に戻り、遠矢の頭のすぐ横に槍を突き刺すだけで済んだ。
それなのに遠矢は話を続け、槍がすぐ横に刺さった今も顔色一つ変えることなく。
「どこか間違いはあるかな? それとも質問か?」
グルガの目を見て話しかけてくる。
「……ッ!」
その目から逃げるようにグルガは大きく後ろに下がった。
怖い思いをしたことはいくらでもある。逃げたいと思ったことはいくらでもあった。
しかし今グルガを襲うのは全く質の異なる何か。
子供の頃に何も見通せない夜が怖かったように、底の見えない湖が怖かったように。
明確には説明できない不気味を含んだ怖さ。本能が遠矢から離れろと告げていた。
文字通り手も足も出ない遠矢に、グルガは怯えた。それを誤魔化すように手に持っていた水を飲み遠矢に背を向ける。
「遠矢さん。貴方の言い分は十分に分かりました。確かに私たちの実力は貴方の考えている通りなのかもしれません。ですが、貴方の価値を私は知りません」
「今度はそっちか。別に俺の価値を示す必要はないと思うが。俺が単独で参加したと言ったわけでもないし。まあ良いか。……第二回戦、ルールが変わったが、何故だと思う? 猫の言う通りルールが変わるのは当たり前で単純で見ていて面白くないが理由だと思うか? 違うんだ。あのルールのままでは、俺が、俺たちが容易に優勝できてしまうから運営はルールを変更したんだ」
「嘘ですね」
遠矢の言葉をラフラースは即座に否定した。当然だ。あまりに荒唐無稽。あのルールなら絶対に勝てる? だから大急ぎで運営が対応した? とても信じられない。いったいどれだけの英雄が輝天祭に参加しているのか、その英雄全てに対応できる方法があると。誰も信じないような無理のある嘘だ。
だからこそ、心の隅でもしかしたら、と思ってしまう。
「まあ、そう思うだろう。当然だ。しかしお前は俺たちの、いや俺の第一回戦を見たか? 見てないだろう? ならば教えよう。俺はリザ・クローケンを相手に罠一つで、何もさせず、そして居場所を知らせずに勝っている。……分かりやすく言おうか? 俺は、お前たちと違い、観客に情報を渡さずに勝っている。誰も、俺が何をしたのか知らない」
「……それが何です。何度も戦えばいずれは手の内を晒さなければならなくなります。そうなれば負けることも」
「ない。断言しよう。あのルールなら俺は、俺たちは絶対負けない。ねえ、グルガさん?」
グルガ? ここでグルガの名が出た理由が分からず、ラフラースはグルガの姿を探してみれば。
「グルガ!」
荷物のすぐ近くでグルガが倒れていた。すぐに助けようと近寄ろうとするも、その前にグルガの身体が光の粒となり消えていった。
ラフラースはそれを見たことがあった。あれは死体が消えるときに出るもの。
つまりグルガはいつの間にか殺されていた。
「何をした!」
「俺は何もしていない。それは君が一番良く知っているはず。仲良く話していたじゃないか? なら答えは? そう、りりあだ」
その瞬間ラフラースは即座に『風探』で周囲の地形と人影を探すも、反応があったのは自分と目の前の遠矢のみ。りりあはいない。
追い詰められている。目の前には手足が縛られた遠矢がいて、りりあの姿はない。自分の手には武器があり、いつでも遠矢を殺すことは出来る。
なのに追い詰められている。
「りりあも俺と同じ単独参加者。つまり俺と同価値だ。さて良いことを教えよう。りりあは転移魔法が使える。悪魔の世界の毒は充実してようでな。飲み物の中に毒を転移させるなど容易だ。では先程の答え合わせだが。どうして俺が、俺たちが第一回戦のルールのままなら勝ててしまうのか。分かったかな?」
分かるに決まっている。分からないはずがない。転移魔法が使えるのであれば、どれほど強固な要塞だろうと何の意味も持たない。一瞬で潜入することも、相手がいる場所に毒を送り込むことも出来る。確かに、第一回戦のルールのままなら遠矢たちは非常に強い。しかしそれでも他の輝天祭参加者に絶対に勝てるとは言えない。……もしかしてまだ何かが……。
「……違う! そんなことは関係ない! 第一回戦は終わり、ルールが変わった! 仮に貴方の言う通り、第一回戦のルールが貴方にとって有利だったとしても、運営が急いで変えたのであればこのルールは貴方が絶対に勝てるルールではなくなっているということ! ここで貴方を殺し、りりあを探し出せば私の勝ちです」
「食料もないのに? ああ、荷物全てに毒がないか確認する? いくつか無事な可能性も大いにある。問題はこの森の広さだ。どれだけ広いのか分からないが、やはり食料と水は欲しいよな。りりあの近くには食料も水も大量にあるだろうから、持久戦となれば不利。大変だね、頑張って」
まるで他人事のように話す遠矢を無視して、ラフラースは考える。どうすれば勝てるのか。
遠矢はいつでも殺せるので無視し、食料についても遠矢の言葉を信じるわけではないが毒の有無を確認する方法がないので諦めるしかない。その時点で一気に時間が限られてしまう。
水は探せばあるかもしれないが、果実や木の実などの森の恵みは遠矢を探しているときに一切見つけられなかったためないと考える。
それに『風探』で探そうにも矢も無限にあるわけではない。矢を全て使い切ってしまえば戦う手段が一気に乏しくなるうえ、もしも見つけられなければ広大な森でかくれんぼと最悪の事態になってしまう。
一瞬遠矢を人質に取りりりあを誘い出す方法も考えたが、英雄の取る手段ではないし、何より話を聞いた限りではペアではなくただの協力者。いざとなれば両者相手を切り捨てる程度は出来る。
考えれば考えるほどに詰みに近いのだと自覚させられ、陰鬱な気持ちが全身を満たす。どこかに何か、希望はないかと求めてしまう。
だからこそ、見つけてしまう。
「貰います」
「あ」
遠矢が持っていた僅かな食料と水を。
価値で見ればそれほどの価値はない。精々餓死を少し遅らせることが出来るだけ。しかしそれが今は何よりも嬉しかった。
少しだけ食料と水を飲み、りりあを探しに出ようと一歩前に出て、ラフラースは倒れた。
何故、などとは思わなかった。すぐそばに寝そべっている遠矢がこれ以上にない程に極悪の笑みを浮かべていたのだから。
最初から奪われることを前提で、食料と水を持っていた。
それを知った時にはすでに遅く、ラフラースは光の粒となって消え、第二回戦は遠矢とりりあの勝ちとなった。




