↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/46

第十七話 獣人の英雄とエルフの女傑

 獣人とエルフは非常に仲が悪かった。

 同じ大森林に住み、獲物の奪い合いなど良くあること。飢饉のときなどは互いの食料を奪うために戦争し、長年の恨みつらみが積もって目が合えば殺し合う程度の関係だった。


 その関係が激変したのは大森林の外から異種族廃絶を掲げる宗教国家が、獣人とエルフを絶滅させるために侵攻してきた時。

 個々の力であれば獣人とエルフの方が有利だったが、その有利をあっさりと覆す数の力、そして狂信という命すら平然と投げだす戦い方に徐々に獣人とエルフたちは追い詰められていった。


 数多にあった集落は宗教国家に焼き払われ、心から絶滅と言う危険を察した獣人とエルフはついに手を結び、同盟を組んだ。


 手を結んだことで戦線は一変。エルフは森の中で遠距離狙撃と言う離れ業で相手の数を減らし、相手が狙撃手を倒すために進んでくればそれを獣人たちが待ち伏せて狩った。

 遠距離の専門(エルフ)近距離の専門(獣人)のタッグにより、宗教国家の軍勢の半分を討ち取り、ついに退却にまで追い込んだ。


 それは獣人とエルフの生存戦争のみならず、他の異種族全てが助かった世界的に見ても非常に重要な一戦であった。




 その時に獣人の筆頭戦士として前線に立っていた英雄グルガと、エルフたちをまとめた女傑ラフラースは重い足取りでコロシアムを後にしていた。


「ああ、どうする? ポイントのほとんどを第一回戦で使っちまった。昨日少しだけダンジョンを潜ったからポイントはあるが、全環境対応の魔法具を買うのは無理だぜ」


「勝っていれば楽でしたでしょうに。第二回戦はサバイバルです。環境については不安ですが、長時間の戦闘も十分に考えられます。食料と水は必須でしょうね。出来れば保存性の高いものが欲しいです。ただ私の保存食は香り立つものが多いから相手に位置を知られる可能性があるため持ち込みたくないですね。そちらは?」


「あー、俺のも臭うなあ。だから保存が効いて美味いんだが。……商業エリアで無臭の保存食を探すか」


「そうですね。後は、箱も必要ですか。もうっ、ポイントがまるで足りない。あの猫め、初日にしなくたって良いでしょう。ルールだって変更しなければ何とかなると言うのに」


「確かに、辛い状況だな。俺の所の狼を一匹連れて行って、も意味はねえな。環境によっちゃただの役立たずだ。食い物の心配がある以上、連れて行けねえな」


 あーだ。こーだと話しながらグルガとラフラースは商業エリアに向かい、食料を売っている店に入り保存食を見て回る、が。


「高いな」


 どれもこれも高い。グルガたちが買えないわけではないが、数を揃えるのは難しい。しかもどれもこれも美味そうなのが二人の怒りを買う。


 高い理由はその保存食の技術の高さ。グルガたちは保存食を季節一つ分持つものを考えたが、売られているのはどれもが年単位で保存が効き、更に味も保証されている高級品。


それもそのはず。食料関係の店はほとんど輝天祭参加者が出している店だ。質の悪い安いものを出すよりも、質の高い良いものを出した方がポイントにもなる。

 残念ながらグルガたちは大森林と言う狭い世界から出たことがなく、必要なもの以外は作らない生活を送っており、経済と言うものに鈍かった。


 何とか保存食の中でも比較的に安いものを見つけて、必要な分のポイントを計算。そこからダンジョンにどれだけ潜ればそのポイントを得られるのか考え、まだ何とかなることを確認。

 それから店番から保存性のある箱を借りることでポイントの出費を抑えることにも成功。


 しかしここでラフラースは大きなミスに気付いた。


「忘れていました。猫の言っていた線の囲いの大きさを確認していません。どれだけ持ち込めるのか確認しないと」


 ポイントの問題もあり、早々にコロシアムを出て来てしまったためグルガたちは囲いの広さを知らない。囲いが小さなければ持っていける量も当然少なくなってしまう。

 それに第二回戦発表からそれなりに時間が過ぎ、コロシアムから人も姿を消しているはず。確認に行くのであれば今は丁度良いタイミングだった。


 この後はダンジョンに潜ってポイントを獲得する必要もあり、時間が惜しいため急いでコロシアムに戻れば、グルガたちは理解できないものを見た。


 コロシアムの中央のステージ。数字の一のすぐ横で何かの骨組みを作っている人間がいた。

 骨組み自体は単純な四角柱。大きさは床に描かれた線の囲いよりもやや大きい。

 何のために、と思っていれば人間は最後に骨組みの上から布をかけて作業を終えた。

 それはまるでテント。しかし入り口となる場所もなければ高さだけがある歪なもの。


 それの意味にラフラースはすぐに気付いた。


「何てこと。あれは持ち込むものを見えないようにするための仕切りですか」


 考えてみれば何を、どれだけ持っていくのか隠すのは当然。隠さなければ相手に何を持ち込むのか知られ、容易に対策を立てられてしまう。


「ああん? ああ、重要だな。だが物を置くときにお前も気付くだろう? 大したことじゃないと思うが」


「大したことですよ。おそらく人がいなくなってから真っ先に立てたのでしょう。持ち込む道具を考えるのではなく、その道具を隠すことを最初に考えるとは。戦いが始まる前から優位に立とうと努力している。竜人を倒しただけはありますね。気を付けるべきです、あの人間に」


「……竜人を倒した!? ダンジョンを馬鹿げた速度で潜っていった竜人を。……そりゃ、やばい相手だな」


「私たちと同じ第一回戦最終日組で、私たちが負けた時にはすでに竜人を下していたらしいですよ。その結果にかなり盛り上がっていましたから。ただどう倒したのかまでは聞いていませんけど」


 グルガたちが適正深度でポイントを稼いでいるときに、草を払うかのように魔物を払って潜っていくリザを見たことがある。

 その時に単純な実力では勝てないと悟っていた。そのリザを倒した相手と知り、グルガは毛を逆立てて警戒する。


「対戦表では人間と悪魔のペアですけど、悪魔の姿がないのが気になりますね。別れて行動しているのでしょうか。良し、グルガは先にダンジョンに潜ってポイントを稼いでください。私はあの人間の真似をして仕切りを作ってから向かいます」


「そうだな、俺たちも別れて行動した方が良いな。明日に疲れを残したくねえからいつもより浅い所にいるから、潜る際に事前に連絡をしろよ」


 時間がない上に相手は切れ者。しかしそんな状況が楽しいとばかりにグルガとラフラースの足取りが軽く、動きもキビキビとしてきた。


 これよりも苦しい逆境を覆して、二人は同族を、異種族を、世界を救ったのだ。一度出来たこと、二度目が出来ないはずがない。

 英雄らしく、希望を忘れない二人。だからこそ、見落としていた。


 骨組みをしている遠矢が邪悪な笑みを浮かべていたことに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。