第十六話 第二回戦発表
誰かから逃げるように遠矢とりりあは足早にコロシアムに入り、もはや指定席になりつつあるコロシアムの壁際に座り込む。
「あー、びっくりした。まさかクローケンがあんな所にいるとは。ねえ、トーヤ」
「びっくり程度で済むか。昨日はかなり挑発して勝ったからな。怒りに任せて殺されるんじゃないかと思ったわ!」
コロシアムの外でリザに謝罪され、遠矢もりりあも受け入れはしたが心の底には未だにリザへの恐怖が残っている。
何せ一回戦の勝ち方が挑発の末に罠に突っ込ませるという、闇討ちされてもおかしくない程度には相手の神経を逆なでするような勝ち方。
遠矢の記憶にあるリザであれば、目が合った瞬間にあの馬鹿でかい大剣で斬りかかって来るはずだったのだが。
「なら良かったじゃん。謝ってきたし、怒ってないってことでしょ」
「そっちの方が厄介だろうが。もうあいつに挑発が通じなくなったと言うことだ。簡単に成長しやがって」
「トーヤさん、早いですねえ。何のお話ですか? 混ぜてくださいよ」
そんな話をしているとディックと妖精のチャッピーがやってきた。二回戦の発表までまだまだ時間があるのに。
「そう言うディックさんも早いじゃないですか。俺たちは単純に怖いものから逃げて来ただけですから」
「ほら、昨日トーヤさんすぐに帰ったじゃないですか。だからきちんと一回戦勝利おめでとうと言っておきたくて。まあ、それはついでで。昨日のトーヤさんの戦いを歌にしても良いですか? 他の対戦とはまるで異なる戦い方。感動しました。こういうのはちゃんと相手に許可を取るようにしているんです。あ、勿論輝天祭で歌うわけではありませんから、ご安心ください。で、どうでしょう?」
「まあ、俺に関係ない所で歌うのであれば文句はない。りりあは……あれ?」
あんな卑怯で姑息の戦いのどこに感動を覚えたのか、遠矢は疑問に思うもディックがそれで良いと言うのであれば口を挟むつもりはなかった。
ただあれは一応、遠矢とりりあのペアで行った戦い。りりあの許可が必要だと思い、りりあの意見を聞こうとしたが、先程まで隣にいたりりあが消え。
「これこれ、結構高いんだよー」
「おぉ! 高純度の魔力食。美味しいぃ!」
いつの間にかチャッピーと合流し、周りの様子など気にせずに自由に話していた。
遠矢は無言でディックにそいつから許可を取れ、と顎で指示するもディックはあの女子会にどう入り込めば良いのか戸惑い、助力を求めるように遠矢に顔を向けてきたが。
「まずは祝着! 祝いの品だ。受け取れい」
新たな乱入者、アラミタマに邪魔されてしまった。
アラミタマは遠矢の目の前に人間大の米俵を豪快に置く。置かれた時の音、そして見た目だけで遠矢は察した。
これは持って帰れない重さの奴だ。
「ええっと、アラミタマ。どうした、これは? お前も一回戦ディックに勝っているだろう。あれか、催促のつもりか」
「まさか! はっきり言って拙者は遠矢ではあのリザ・クローケンには勝てないと思っていた。その予想を見事覆したのだ。ならば祝うのは当然だろう? それにディックがいる前で言うのはあれだが、拙者がディックに勝つのは普通のことだ」
「ええ、アラミタマさんの言う通りです。実力差からして私が負けるのは当然です。ですが遠矢さんは私と同じような状況なのに勝った。心が震えました。私のような非戦闘型の英雄でも勝てるのだと、思い知らされました。トーヤさんは私たちの希望なんです」
「遠矢のおかげで輝天祭は更なる盛り上がりを見せるだろう。それに対する感謝でもある。遠慮なく受け取れ」
アラミタマは平然と大きな米俵をグイっと遠矢の方に押しやるも、遠矢は米俵が傾いて圧し潰されないように支えるのが精一杯。転がして持って帰れるかも怪しかったため、こんな時のためのりりあの魔法と閃き、救援を求めようとしたが。
「りりあちゃん、この間の化粧品ありがとうね。肌が見違えたわ。あ、これお礼。お手製で悪いんだけど」
「おお! 符術の! 良いんですか、貰っちゃって」
女子会に新たなメンバーフタクチが加わって、更に姦しくなっていた。……あの中に入るのは遠矢でも躊躇う。
その躊躇いが致命傷となり、人魚姫や舞踊妃、反イケメン同盟の者たちも集まり始め、正午になるまで騒がしい時を過ごすこととなった。
「あー、集まっているかニャ。集まっていなくてもそいつが後悔するだけだからミーはどうでも良いんだけどニャ。さあて、第一回戦お疲れ様ニャ。半分が負け犬になって半分が勝ち猫になったニャ。は? 勝ち猫なんて聞いたことがニャい? 馬鹿だニャ、犬が負けたなら猫の勝ちに決まっているニャ。さて、それでは第二回戦の」
以前と同じように猫はコロシアムの中央の穴から大きな球に乗って現れ、気だるそうに話していたが、途中から悪そうな顔になりわざと一拍置いた。そして。
「戦い方を発表するニャ。サバイバルニャ」
コロシアムに衝撃が走った。
一気に騒々しくなるコロシアム。その様子を見て猫はただ楽しそうに笑う。
「ニャッハッハ。そんなルールが変わるなんて当たり前だろうニャ。砦と砦の殴り合いをずっと見ていて楽しいわけニャいだろう。もしかしてポイントを全部砦に突っ込んだのかニャ? 馬鹿ニャねえ」
猫は慌てふためく者たちを嘲笑わっていると、どこかから飛び道具が猫を狙ったが、舌の丸い球が光線を放ち飛び道具を消し飛ばした。
「さて、笑うのもこれくらいにして説明に戻るニャ。二回戦は一回戦と大きく変わってサバイバルニャ。環境は森林、雪原、砂漠と様々で、どこになるかは運ニャ。そんな自然環境の中で対戦相手を見つけ出して倒した方の勝ちニャ。となると色んな道具を持ち込んでどの環境にも対応できるようにしておきたいニャ? 残念ながら持ち込める者にも制限が入るニャ」
ゴゴッ、と重たい地響きと共にコロシアムの中央、穴だった場所を塞ぐようにステージが出現した。
「あー、後ろの奴は見えないかニャ? 後で見に来いニャ。さて、ステージには数字が割り振られていて、数字の両隣に線で四角く囲っている場所があるニャ。その線の中に第二回戦に持ち込む道具を置くニャ。囲いの大きさが様々に見えるかもしれニャいが、対戦者の身体の大きさを基準にしているからニャ。あと、今回は自エリアからではなくこのコロシアムに集まってから第二回戦に飛んでもらうニャ。遅刻は負けだから気を付けるニャ。対戦相手も今公表したニャ。対戦相手と共に数字も表示されているはずニャが、それが道具の持ち込む場所ニャ。間違えても知らないニャ。後は分からニャいことはいつも通り北の運営事務所に聞けばいいニャ。でもミーを指名するニャ。指名する場合は対価を要求するから覚悟するニャ」
ではニャー、と言って猫は球に乗って空高くに消えていった。
周りが騒ぐ中、遠矢はりりあを呼び寄せて対戦相手の確認を行う。
対戦相手は獣人の英雄グルガとエルフの英雄ラフラース。獣人、そしてエルフ。名前だけなら遠矢も聞いたことはあった。
ただ問題は対戦日時。
「初日! しかも数字の一! トーヤ、どうします!? 最初の最初ですよ!」
「別に数字自体に意味はない。初日なのは厄介だが。……狙われたかな? ディック、ディック! 俺の対戦相手がグルガとラフラース。獣人とエルフの英雄なんだが、一回戦ではどんな戦い方をしていた?」
遠矢は今から二十四時間後にはこの英雄と戦わなければならない。リザとは違い恨みはないが、優勝すると決めた以上負けるわけにはいかない。そのためにもほんの少しでも情報が必要となる。
「はい? え、初日? 大変ですねえ。ああ、この二人はトーヤさんと同じく一回戦は最終日でしたね。負けてしまいましたけど、中々に参考になる戦い方でしたよ」
「第一回戦最終日組で、負けたのか? ……りりあ、尾行とかは得意か?」
「そりゃ、これでも悪戯のプロですから。気配を消すことに関しては自信がありますよ。尾行は得意で、隠れるだけなら大得意です。獣人の鼻は鋭いと聞きますが、それすら誤魔化せる自信はあります」
「ならグルガとラフラースを見つけて尾行してくれ。おそらく相手もこの発表を見て少しでも道具を揃えようとコロシアムを出ようとしているはず。自エリアに戻らない限りは可能な限り尾行して、どこで何を買ったのか良く見ておいてくれ。ディック、話の続きを聞きたい」
遠矢とりりあの慌ただしい準備期間が始まった。




