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第十五話 知らない強さ

 敗北の翌日、リザ・クローケンは目覚めるもスッキリしない朝を迎えた。

 負けたことによるストレスは昨日の内にダンジョンで暴れることで発散した。スッキリしないのは別の理由。

 しかしその理由がリザには分からない。暴れ足りないわけじゃない、負けたことが悔しいわけでもない。もっと別の、今までに感じたことがないリザでは説明できない感覚。


「リザ、おはよう。どうだ、気分は」


「……分かんねえ。気分は悪くねえけど、良くもねえ。んー、すっきりしねえんだ」


「おそらくまだ折り合いがつかんのだろう。時間が解決するとは思うが、ふむ。どうだ、外を歩かんか?」


 いつもと違うリザを見て、ゼファーはどこか嬉しそうに声をかけた。

 リザにとって戦うのは日常であり、輝天祭に参加してからもそれは変わらない。それどころかダンジョンという便利なものがあるため毎日のように通っていた。


「ああ、うん。そうだな。あれだっけ、正午に二回戦の発表があるんだったか?」


「そうだ。今から向かうのは早すぎると思うが、やることなどないだろう?」


 いつもならリザは嬉々としてダンジョンに向かい身体を動かす。しかし今は、戦う気が起きなかった。

 だからゼファーに勧められるがまま、自エリアを出て共有エリアを目的なく歩く。


 常に突っ走って生きてきたリザにとって、何の目的もなくただ歩くなど新鮮であり、初めて剣を握った時のようにどうすれば良いのか分からず戸惑った。

 商業エリアでは少し歩くだけでこの品物はどうだ、この商品はどうだと店を出す者たちが途切れることなくやってくるため、足早にコロシアムの手前まで逃げてきた。

 しかしまだ二回戦の発表には早く、どこかに行こうにも商業エリアの洗礼を受けた所為でそんな気力もない。


 だから近くのベンチに腰掛ける。

 その手持ち無沙汰でベンチに座る姿はとても英雄の血筋を引く竜人には見えず、田舎から都会に出て人の多さに圧倒されたただの女の子にしか見えなかった。


「ふっふっふ、いつも通っている道だろうに。そんなに怖かったのか?」


「怖くなんか! ねえよ。いつもはダンジョンに向かって走っているだけだから周り何て見てなくて。普通に歩いていたらすげえ人がいてびっくりしただけだ」


 背負われたゼファーが面白そうに言うのにリザは一瞬怒鳴るも、それは続かずすぐに消沈してしまう。


「リザ、いつもの道を歩くだけでも世界は見事に変わってしまう。どうだ、世界は広いだろう?」


「何だよ、説教か。年寄りくせえ真似しやがって」


「そう言うな。お前は単純な世界しか見てこなかった。その単純な世界の価値観ならお前は強い。そしてあの人間と悪魔は弱い。しかし実際はどうだ? お前は手玉に取られて何も出来ずに負けた。弱いはずの人間と悪魔に。もう、それくらいは受け入れているのだろう?」


「分かってるさ。人間も悪魔も決して弱くない。良く分かんねえけど、オレに勝ったんだ。俺より強いんだろう」


「不貞腐れるな。お前が弱いわけではない。ただ相手がお前の知らない強さを持っていただけだ。その強さを知るためには、今までの価値観を捨て去らねばならん。いや、お前はもう捨て去っているのだろう。ただ代わりの価値観が見つからず、芯となるものがないからいつもの調子が出ていないだけだ」


 背中からしたり顔、ならぬしたり声で話してくるゼファーに何にも言い返せないが苛立ちだけは募り、感情の赴くままに地面に大剣をガンガンと叩きつける。

 それでもゼファーは楽しそうに笑うため、苛立ちは消えない。

 そんな時に。


「うわっ!」


「ああん!?」


 商業エリアから来た誰かに驚かれたため、リザはいつもの調子で睨みつけて。

 固まってしまう。

 そこにいたのはリザを倒した人間と悪魔、遠矢とりりあだった。


 睨みつけたまま固まってしまったリザと、蛇に睨まれた蛙のように下手に動けば食われるとばかりに微動だにしない遠矢。

 そんな石像と化した二人を助けるかのようにゼファーが救援を求める。


「おーい、そこの人。助けては――」


「うるせえ!」


 が、色々と溜まり過ぎてパンクしそうなリザによって、遠くへと投げ飛ばされてしまった。

 そして勢いのままリザは腕を組んで立ち上がり。


「………………!」


 何も言えない!

 もしも遠矢が分かりやすく強いのであれば再戦の約束をしていた。圧倒的なまでに差があるのであれば教えを乞うた。

 しかし今は違う。遠矢が強いのは分かったが、遠矢の強さが分からない。だから何と言えば良いのかも分からない。

 生まれてずっと戦うことばかり考えてきた。だが、こんな時に何を言えば良いのか考えたことは一度もない。

 さりげなくフォローしてくれていたゼファーも感情の赴くままに投げてしまって手元にない。

 戦闘以外のことで初めて追い詰められたリザは顔が真っ赤になるほど考えを巡らせて。


「遠矢と、りりあだったな。雑魚と言って悪かった」


 頭を下げた。

 追い詰められたリザは一周回って逆に冷静になり、過去の自分の発言を思い出して謝罪した。

 謝罪しなければならない。でなければ、自分が雑魚に負けた雑魚になってしまう。


 極度の怒り状態から一転して冷静になり頭を下げられたことで遠矢とりりあは驚いて困惑するも、その謝罪に悪意などないと分かれば遠矢もりりあも謝罪を受け入れた。


「えっと、大丈夫ですよ。気にしていませんから。ねっ、トーヤ」


「……まあな。それだけか? 人を待たせているんでな」


 リザは二人の足音が消えるまで頭を下げ続け、頭を上げた時には色々と踏ん切りがついてスッキリした顔をしていた。

 それからゼファーを回収し、コロシアムで驚きの第二回戦の発表を受けたがリザは狼狽えることはなかった。

 遠矢との戦いで何でもありの恐ろしい強さを知った。だから多少のことでは動揺しない図太さを手に入れた。


 そして遠矢たちがいつ戦うのか気になり、調べると。


「初日、明日か。あいつらも大変だな」


 遠矢たちは予選第二回戦初日。つまり明日。

 小細工も対策も満足にする余裕もないだろう。

 リザは遠矢たちがどう戦うのか期待しながら自エリアへと戻った。


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