第十四話 苦しんだ末の余裕の勝利
勝った。遠矢がそう認識したのは持っていたはずの湯飲みが無くなり、目の前の灰色の壁が黒に変わった瞬間だった。
隣にいるりりあは上を向き、ここがどこかを確認して信じられないように遠矢に顔を向ける。
「本当に、勝った?」
「ああ、勝ちだ。ただ、まだ終わってない。ハッタリの時間だ」
竜人、リザ・クローケンは化け物だ。竜人という戦闘能力に優れた種族であり、英雄の血筋により選ばれた側の人。
遠矢とりりあが頑張った程度では絶対に勝てない相手。しかし結果は、遠矢とりりあの勝利。
しかしまだ、遠矢とりりあの戦いは終わっていない。
二人の目的は一回戦勝利でも本選出場でもなく、輝天祭優勝なのだから。
「当り前のように、自然体で。真っ直ぐと帰る」
「いつも通り、普通に。遠矢のすぐ隣を歩いて帰る」
二人は自らに暗示でもかけるかのように同じことを呟き続け、コロシアムの中央に上がった瞬間に顔を上げる。
「トーヤさん! 一回戦勝利おめでとうございます!」
「拙者、良く分からなかったがあのリザ・クローケンに勝てたのはお見事!」
「りりあちゃん! おめでとう」
ディックが、アラミタマが、知り合いの輝天祭参加者が祝ってくれている。他にも、予選第一回戦最終日のためかコロシアムに他の輝天祭参加者が多くいた。
上を見れば、未だに多くの画面があり戦っている様子が映っている。
最終日の最初の突破者。だから知らない参加者も拍手くらいは送ってくれているのだと遠矢は考え、それに応えるように歩きながら片腕を上げる。
多くの者が遠矢とりりあに賞賛の言葉を浴びせるが、二人は足を止めずにコロシアムを後にして自エリアへと戻った。
そして。
「あー! こええええ! 死ぬかと思った!」
「もうヤダあああ! 殺されるかと思った!」
地面を転げ回り、今まで溜めていた恐怖を吐き出した。
リザ・クローケンと戦って、挑発して、殺気を向けられて怖くないはずがない。水分の摂取を控えていなければ確実に漏らしていた。
例えるならばリザは恐竜で遠矢たちはネズミ。睨まれただけで心臓が止まるだろう。
しかしそんな姿をコロシアムで晒せるはずもなく、想定通りに戦って当たり前のように勝ったとばかりに喜ぶことも、安堵する様子も見せずに自エリアまで必死に耐えて戻ってきた。
「もう二度と会いたくない! 絶対に恨まれてる!」
「その時は全部遠矢の責任にしてはりりあは逃げる!」
「ふざけんな! てめえも同罪だ、バーカ」
「今回の作戦を考えたのは全部遠矢だからりりあは無罪ですぅー!」
恐怖を吐き出した後は少し先のことを考えて八つ当たりをして、最後に大きく息を吐き出して一息つく。
「勝てて良かった」
余裕だ何だと他人には言っていたが、そんなはずはなくギリギリだった。
リザ・クローケンは理不尽の権化だ。遠矢がいくら知恵を絞り、努力しようとも一つのミスで全てを覆してくる実力があった。
だから遠矢は地下のホームに地響きが届くたびに地響き以上に震えたし、無線で挑発するときは声が震えぬよう、裏返らないように必死だった。最後にリザがブチ切れた時に放たれた殺気に至っては距離があり、直接向けられたわけも出ないのに胸がきゅっと萎んだかのように苦しくなった。
しかしその甲斐あって見事勝った。完全なまでに作戦通りに。
遠矢も最初は本当に地下深くのホームを作り、兵糧攻めをするつもりだった。しかしそれではあまりにも時間がかかるし、何より相手が入り口を見つけてしまう可能性もあった。どれだけ地下深くに作ろうと、出入りする場所は作らねばならずどれだけ偽装しようと地面を叩いていればいつかは見つかる。
だから罠を仕掛けて倒す方法に変えた。問題は罠の威力。理不尽の権化を確実に殺せる威力の罠でなければ意味がない。確実に殺すためには質も量も重要となる。
そんな贅沢な望みを叶えるため、遠矢は曲面状に高性能爆薬を敷き詰め、その上に石や鉄片などを硬いものを配置。そして中心となる場所の上にこれ見よがしに座布団と無線機を置いて相手を誘導。挑発を繰り返した末に、座布団から伸びている紐が地面の下へと続いていることを気付かせる。怒り狂ったリザは地面を攻撃して、爆発。石や鉄片に全身を打ち抜かれる算段。
実際どうなったのか、遠矢は知らない。しかし勝ったのは事実。その事実こそが重要。
「後で回収しないと」
対戦で壊れた物、失われたものは元に戻っている。だから平原のどこにも穴は空いていないし、平原に座布団と無線機が置かれている。
いつか使えるかもしれないので回収はする。しかし今は緊張と、恐怖と、それらからの解放を受けたことで遠矢もりりあも身体が休みを求めていた。
「寝るか」
「そうですねえ。ふあぁ~」
今にも倒れそうな身体を必死に動かし、二人は必死に地下のホームへ梯子を使って降りていき、ベッドに倒れこむと同時に泥のように眠った。




