第十三話 雑魚VS竜人
輝天祭予選第一回戦最終日。
そろそろ正午になる頃、リザは自らが建てた要塞の前にいた。
その要塞はリザが手持ちのポイントを注ぎ込んで作った渾身の出来。
あまり大きくしても扱いきれないため、石壁を異常に厚くして耐久性を高くし、飛竜を叩き落すために開発された高速で高精度のバリスタを複数設置し攻城兵器として採用。バリスタの一つには縄が結ばれており、相手の砦に乗り込むことも視野に入れている。
更に対巨竜用に開発された、巨大な槍を打ち込む兵器は並の砦なら一撃で破壊する威力を持つ。
自慢の要塞。それを背にリザは腕を組み、仁王立ちで時間が過ぎるのを待つ。
仁王立ちに意味はない。ただ相手の出方を伺うためにリザは要塞の前にいた。
もしも相手が強力な砦を建設したのであれば、リザが建てた要塞と削り合いの末に隙を見て相手を討ちに向かい、それ以外であれば単身で攻め込んで相手を討つ。
単純でリザの力を最も発揮できる方法。その点に関してはゼファーも同意していた。
「あいつらダンジョンに来てないっていうし、大したものは作れてないだろうな。ゼファー、やっぱそんなに注意しないといけない相手じゃねえよ」
「そうかもしれない。ただ油断はするな。初戦から負けなど幸先が悪いぞ」
「はっはっは! なら派手に大勝利して幸先良くやろうか」
リザは自身の勝利を疑わぬまま正午を迎え、予想だにしない光景を目の当たりにした。
「何にもねえ!」
目の前に広がるのはどこまでも広がる平原。リザの自エリアではない。リザの自エリアは故郷と同じ山岳であり、切れ目から向こうの平原が遠矢の自エリアである。
なのに何もない。砦もない、遠矢もいない。戦うべきものが何もない。
「ゼファー、どういうことだこれは! 何かの間違いか!」
「……そうか。もう、なのか。リザよ、輝天祭に間違いはない。この先に敵はいる。だが何も考えずに進めば、お前は負ける」
「人間と悪魔如きにか!」
「すでに人間と悪魔如きに手玉に取られているではないか。それともこの状況でなお自分が有利と言うつもりか」
反論の出来ぬ指摘にリザは怒りを募らせ、感情の赴くままに炎を吐いて平原と空を焼き払う。
しかし悲しいかな、炎が届く範囲はあまりに狭く、焼き払えたのは目の前だけ。空になど届くはずもない。
「上等だ! この程度何でもねえ! 見つけ出して殺す!」
そう言ってリザは大剣を構えて思いっきり地面に叩きつける。
遠矢がいる可能性のある場所は三つ。この平原にいない以上、空か、不可視となっているか、地中のどれか。
空はリザの視力をもってしても何も見えず、不可視であれば剣を振るっていればいずれは当たる。地中であればこうして地面を爆発させる勢いで大剣を叩きつければいずれは入り口を見つけられる。
最も困るのは空で不可視となっている場合。それの対策としてリザは大剣を振り落とした後に思いっきり振り上げて空に土を撒いた。いくら不可視でも実在しないわけではない、槌が当たればそれで分かる。
しかし見つからない。平原は広く、リザの全力の一撃で掘り返せる範囲は狭い。更に何度も全力で大剣を振るえば次第に疲労も溜まり、段々と掘り返せなくなってくる。
そんなリザを救うように草原の真ん中に罠と思える何かが置かれていた。
「はあ、はあ。ゼファー。……あれは何だ?」
「……見たことがある。座布団と言う敷物だ。その上にあるのは、知らぬ」
ぽつんと置かれた座布団と、その上に置かれた何か。更に良く見ればその何かの使い方が書かれた紙が置かれていた。
罠を警戒しつつ慎重にその紙を取りリザが見れば、紙には絵でボタンを押すように書かれていた。
「どうする、ゼファー」
「リザの思うように。ただここで情報を得ねばじり貧となるぞ」
そう言われては仕方がないとリザはボタンを押してすぐに離す。
すると。
「反応があったな。ってことはそこにいるのか。あー、話しかけても無駄だ。それは無線だ。ボタンを押している間だけそちらの声がこちらに届き、そちらがボタンを押していなければこちらの声がそちらに届く。そう考えてくれ」
何か、無線から遠矢の声が発せられた。
リザは無線を興味深げに観察し、座布団の上に腰を下ろした。
「なので少し会話がし辛い。だから会話の終わりに以上と言ってくれ。そうして話す権利を相手に回して会話をしよう。以上」
「話すことなんかない。以上」
「はっはっは! なら何で無線を壊さない? 俺たちの居場所が分からず少しでも情報が欲しい、そうだろう? 相手にもならない雑魚相手に手こずっている気分はどうだ? 以上」
「見つけ出し次第ブッ殺してやるから安心しろ。オレの方が強いからな!」
「……以上と言ってくれないと困るなぁ。まあ、良い。君が強いのは事実だ。俺が百人いて戦ってもリザ、君には勝てないだろう。だけど、戦わなければ良い話だよねぇ? 君の強さは戦わなければ発揮されない。戦わなければ君は強くない。強くないなら俺と同じ雑魚だ」
「オレは雑魚じゃねえ!」
「あー、もしかして叫んでる? さっき言ったけどこっちが話している限りそちらの声は聞こえないんだって。そんな愚かしい君に俺からの忠告だ。ちゃんと食料は用意してあるか? 保存食だぞ? 対戦中はポイントによる購入は不可能だからな。まさか砦に全ポイントをつぎ込んでいないだろうな? 俺はその砦を見ていないし、何の役にも立たないだろうけど! あ、以上」
「今すぐ見つけ出して殺すから関係ねえ!」
「……持ってきてないのか。こっちは準備万端。年単位で引き籠っていたんだ。そっちが餓死するまで耐えるなんて簡単なこと。あっは――」
バキッ、遠矢の笑い声に耐えられずリザは無線を握り潰した。
雑魚に雑魚呼ばわりされ、ついには嘲笑われ、リザは正気を失うほどにキレた。
鱗は赤く染まり、その目は竜のように細く開かれ周囲を威圧する。
怒りで正気を失っても判断力が失われるわけではなく、逆に些細なことにすら気付けるようになった。
例えば、座布団から非常に細長い紐が出て地面の下へと伸びていることなど。
無線の先に遠矢がいる。ならこの紐の先に、遠矢が隠れ潜んでいる。
そう考えた時にはすでにリザは大剣を振り上げていた。しかしそのまま振り下ろしたりはしない。一気に遠矢の下へ行くために、跳躍して地面に向かって刺すように構える。
「死ねえええ!」
その中でゼファーは敗北を悟った。
罠を仕掛け準備万端な相手に、正気を失って勝てるはずがない。
しかしそれでも良い、と納得していた。
これでリザが強さを僅かにでも知ることが出来るのであれば、これには意味があると。
大剣が地面に突き刺さった直後、ゼファーは自らの切っ先に何かがが当たったのを感じると共に異常な熱量と衝撃により身体である大剣が砕け、リザは衝撃により砕けた大剣に全身を貫かれて何が起こったのか理解できぬまま死に、敗北した。




