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第十二話 余裕

 ダンジョンの奥。魔物が跋扈する英雄ですら危険な地帯。魔物の質が違う。

 空間を自由に移動し、変幻自在な攻撃を繰り出す殺戮ピエロ。通った場所は罠だらけ、トラップマスター。どのような探知にも引っ掛からない不可視の存在、死神。


 一匹、一匹の魔物が恐ろしく強く、並の英雄であれば理由がない限り戦闘を避ける相手。

 そんな化け物の群れに突っ込む化け物が一人。


「オラァ! オラオラオラ!」


 家宝であり、意思のある大剣ゼファーを振り魔物たちを蹴散らしていく。

 化け物を超える化け物。英雄の血筋、リザ・クローケン。


「あっはっは! ここまで奥に来るとピリピリして良いねえ!」


「リザ、リザよ。明日は第一回戦だろう。この辺りで切り上げて明日に備えて休まぬか? それに、明日はどのように戦うのか決まっているのか?」


「ああん? ゼファー、つまらないことを言うなよ。ようやく体が温まってきたんだ。それに、相手はあの人間と悪魔だ。少しは期待しても良さそうだったけど、ここにいるのに比べたら弱いだ、ろっ!」


 突然リザは振り返って大剣を振るえば、探知不可の不可視の存在の死神を勘で見つけて切り裂いた。


「リザ、侮ってはならん。お前は確かに強い。祖父よりも、父よりも戦闘センスがある。後は経験を積めば古今無双の勇士となろう。しかしここは輝天祭。更に言えば、お前の言う強い弱いはあまりに小さく浅い尺度で決められている。力が強い、身体が強いなどあまりにも些細なことだと気付かねば、お前も祖父と同じように」


「あー! うるさい、うるさい! 分かったよ、もう帰るよ。後、あれだ。稼いだポイントを全部つぎ込んで要塞にしよう。そうすりゃ負けはないだろ。人間と悪魔にここまでやれば十分だろ、ゼファー」


 ゼファーから発せられる諫言をリザは大声で遮り、リザが考える最大限の警戒をすると約束してダンジョンから出ていく。

 それでも、ゼファーは不十分と思いつつもそれ以上言えばリザの機嫌を損ねると思い、何も言わない。


 ゼファーはリザの祖父、父と共に輝天祭に参加している。だからこそ、知っている。リザの祖父が優勝できたのは運が良かっただけだと。父が負けたのは当然だったと。


 輝天祭を通してゼファーは学んだ。強いとはそれほど怖くはない。弱いこそ恐ろしいものだと。

 ゼファーは輝天祭の規定によりそれをリザに話すことは出来ない。だが話せたとしても話さないだろう。今のリザでは理解できない。


 だからゼファーは密かに願う。


 誰でも良い。リザの考える強さの脆さを、本当の強さを、弱いことの恐ろしさを教えてやってほしいと。




 その頃。第一回戦を明日に控えた遠矢とりりあは。


「何だあのイケメン!? 死んどけ!」


「あー、天翼族の勇者ですね。本当だイケメンだ! くたばれ!」


 コロシアムで呑気に他者の対戦を見ていた。

 遠矢はディックの他に非戦闘型の英雄と仲良くなり、反イケメン同盟を組んでコロシアムの最前線でイケメンを見つけては罵声を飛ばしていた。

 しかしそれは偽装工作。反イケメン同盟の目的は情報収集。


 これから確実に必要となり、需要が出てくるであろう各世界の英雄の情報を集めている。りりあなどは各種族の情報は持って行っても、英雄個人の情報は持っていない。これから対戦相手の情報を持っている、持っていないでは大きな差が出てくる。


 時間が経てば情報の価値は飛躍的に上がる。ダンジョンに潜りたくない非戦闘型の英雄はそんな情報を高値で売ることでポイントを稼げる。

 それにディックのように吟遊詩人として、英雄と英雄の戦いを歌いたいという趣味の部分がある者もいる。


 ただ情報収集をしていることを他の者に気付かれると情報の価値が低くなる。そのため、それを隠すためにイケメンを見つけては冗談半分で罵声を飛ばしている。つまり半分は本気である。


 そんなことを考えて前で行動する遠矢とは反対に、りりあはコロシアムの壁際で。


「これこれ、新しい魔力食。後トーヤにポイントを渡して無理矢理出させた化粧品ってやつ。肌に良いんだって!」


 楽しく女子会を開いていた。

 そこにいるのはフタクチのクロミ、妖精のチャッピー。そして非戦闘型の英雄である人魚姫のラーリヤと舞踊妃と呼ばれたラミアの英雄エクリア。


 元々はりりあとクロミ、チャッピーの三人だけの女子会だったか、輝天祭に似合わぬ高い声の盛り上がりにラーリヤとエクリアが釣られてやってきた。


 そこで行われているのは他愛のない、本当に他愛のない輝天祭に全く関係のない話。どこの食事が美味いのか、そっちの服を着てみたいだとか、最近では化粧品が云々と。

 それ自体には何の意味もない、ただ盛り上がるだけの会話。


 しかし楽し気に声を上げれば人が釣れ、人が増えれば声が増す。

 そうして今日も声に釣られて人がやって来る。


「うふふふ」「あははは」


「そういえば、りりあちゃん。確か、りりあちゃんたちの一回戦は明日よね? ダンジョンに行っている様子もなかったけど、大丈夫なの?」


「え? あー。余裕ですよ、余裕。トーヤが考えてほとんどやってくれましたし。準備万端です。ま、明日に期待ってことで」


 女子会の終わり際、クロミから問われりりあは余裕と答えた。

 それとほぼ同じ頃に遠矢もディックに同じようなことを問われ、余裕と答えていた。


 その意味を全員が理解するのは明日、輝天祭予選第一回戦最終日の頃になる。


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