精霊剣士の物語〜sauvenile〜其の拾壱
どうも作者の伊藤睡蓮です
だいぶお久しぶりになってしまいましたが、ようやく投稿できます。今回はいよいよ、春香&美希ペアと悪魔との戦いです。少しずつ動き出していく物語の終わりにあるものは?
毎度毎度長く語ったり、あらすじ書いたりするの苦手なので早速どうぞ!
19,〜春香&美希vsラーナ〜
「美希、もうすぐ結界の前に着くけど、準備はいい?」
「う、うん。もうそんなところまで来てるんだね。やっぱり春はすごいや。」
美希は私にお姫様抱っこの状態で目を瞑って抱かれている。普通の人だとこの速度じゃ目を開けてられないから、私が閉じるように言っておいたからだけど。
学園長たちを助けるためには、あの三角錐型の結界を壊さないといけない。助けないと4つの学園が危ない。けど、確実に敵、悪魔がいる。一瞬でも気を抜かないようにしないと。
「美希ってどんな魔法使えたっけ?」
「えーっと、回復がメインかな。後は若干の攻撃魔法なら覚えてるよ。でも、悪魔に効くかな?私、精霊もいないし。ごめんね、絶対足手まといだよね。」
私は横に首を振った。
「そんな事ないよ。美希が一緒に来てくれるだけでも、安心できるんだ。だから、全力で戦える。加速………初速。…もう目を開けてもいいよ。」徐々にギアを下げ、ゆっくりと地面に足をつける。
目の前には、三つの底辺のうちの1つが見えていた。
「すごい、大きい。」 美希は目を閉じていて見えてなかったけど確かに20階以上あるビルを覆うほどの巨大な結界。こんなのどうやって学園長たちに気付かれずに作ったんだろう?
「あら?お客さんかしら?残念ながら封鎖中よ。」
結界の前、誰かいる。女の人だ……、違う。
この悪魔が結界を作ったんだ。
「あなたがこの結界を作ったんですか?」
問いかけると、悪魔はこう答えた。
「……えぇ、そうよ。まぁ、私だけじゃないけどね。私は双子座ジェミニ様に仕える悪魔、ラーナと申します。」
ラーナと名乗った悪魔は、こちらを見るとにっこりと笑った。
「もしかして、これを壊しに来たの?」
「はい。中にいる学園長たちを解放してもらいます。加速。」猫のストラップに手をかけてそのまま走り出す。ストラップは形を変え、2つの剣となって春香の手に収まる。
「あらあら、速いわね〜。それじゃあこれでどうかしら?双光床。」地面が光り輝く。駐車場に停めてある車が飲み込まれていく。私の動きを制限するつもりみたい。
「天駆羽。空を駆けることが出来る私にはこの魔法は効きません。」空を懸けてラーナの元へと走り寄る。
「そうみたいね。双光爆。」両手から光が爆発しながら向かってくる。
「遅いです。超加速。」
双光爆をくぐり抜け、ラーナのすぐそばまで辿り着いた。
「爆速20%(オーバートップ)。爆速斬。」ギアを1つ下げて加速にして、爆速斬で終わらせる。レオを倒せた一撃をラーナに喰らわせられれば………。
重い一撃は大地を揺らし、土煙を上げた。
振りかざした一撃には手応えがあった。
「いいわね。今の一撃はなかなか良かったんじゃない?」
近くから聞こえる、ラーナの笑いを含めた声。どうして⁉︎
「どうしてか教えてあげようか?」
私の心を呼んだかのように、ラーナは喋る。
徐々に土煙が収まって、ラーナの姿を捉えることが出来るようになってきた。
「こういうこと。」
ラーナの右手は、私の剣を棒切れでも掴んでいるかのように軽々と受け止めていた。
「双硬化。あなたの攻撃は私の絶対的な防御の前では何の意味もないわ。双光束。」
足元から光の塊が私を覆い、だんだんと縮小してくる。なんとか抜け出そうと斬り続けるが、すぐに切口は塞がる。
ついには体ぴったりまで縮小し、光の塊から顔だけが出ている状態で拘束され、身動きが取れなくなった。
「さて、後はあなたを殺すだけね。双光線。」ラーナの指先から放たれた光は私の右肩へ命中した。痛い。右肩に力が入らなくなる。
ラーナはそんな私を見て笑った。
「無様ね。まぁ、これじゃあつまらないし。もう1人の子を、あなたの目の前で殺すことにするわ。」
やばい。
「美希!逃げて!」
「春……いやだ、春を置いて逃げるなんて出来ないよ!火炎、火炎、火炎!」
火の玉をラーナに向かって連発する。ラーナは避けることなく真っ直ぐと美希の元に向かって歩いていく。
このままじゃ美希が……、動いて、私の体。
「お願い……動いて、少しだけでも……。」完全に固定されていて、身動き一つできない。
とうとうラーナは美希の所まで辿り着いてしまった。美希は恐怖のあまり、動くことができなくなっていた。そんな美希を何とも思わず、ラーナは首をつかんだまま、上へ持ち上げた。美希の持っていたバッグが地面に落ちた。
「ぐっっ!あっ・・ぁぁぁ!」美希が苦しみ腕を振りほどこうともがくが、ラーナは顔色一つ変えなかった。」
「あなた、さっきの攻撃のつもり?まだあそこで動けない桜色の髪の子の方がマシよ。」
やばい、早くなんとかしないと。早く、美希を助けないと。早く………右か左、どっちかの手が動かせれば。ふと、雲雀学園長との修行での会話を思い出した。
ーーー(春香さん。あなたの力は主にスピードを上げる技よね。)
(はい。だからこうして使いこなせるように修行してるんじゃないんですか?)乱雑に刺さっている鉄パイプ、カラーコーンなどさまざまな障害物が置かれた場所でスピードを活かす特訓をしていた。
(えぇ、まぁそうなんだけどね。こういうのも使えるんじゃないかなーって。)
雲雀学園長はそう言ってアタッシュケースよりも少し大きめの箱を私に向けた。
(これ……なんですか?)
(私が飾に頼んで作ってもらったの。)
飾麻耶さんに……。中身が気になり、手を触れようとすると、雲雀学園長が止めた。
(開ける前に、約束して。これを使うときは、いざという時。それまでは絶対に使わないこと。それから秋翔くんたちにも誰にも内緒ね。)
(どうしてですか?)
(敵を欺くにはまず味方から。って言うでしょ。今の世の中、一度人目のつく所で使えばすぐに広まって、対策される。それを避けるため、かな。)
雲雀学園長は目を閉じた。
(あなたは弱い。)
急にストレートに弱いと言われ、どう反応していいのか迷っていると、
(でも、あなたにはあなたなりの覚悟がある。あなたにはあなたなりの個性がある。誰だって完璧じゃないわよ。完璧じゃないから、頑張るのよ。春香さん、私に"あなたなりの答え"見せて。)
(私の答え。)
確かに私は弱い。先輩たちみたいな力もなければ知識もない。そんな私にも出来ることがあるなら、秋翔先輩の力になりたい。困ってるなら助けてあげたい。守りたい。夏音先輩を救いたい。
雲雀学園長はゆっくりと箱を開けてみせた。
ーーー
こんな所で、終われない。
「あなたちゃんと見てる?この子が死ぬ瞬間。」ラーナがさっきよりも強く美希の首をしめる。
「だめっ!やめて、お願い!」
必死に叫ぶがラーナは聞く耳を持たない。
すると、どこからか声が聞こえた。
「私のチームの子になんてことしてくれてんのよ!その手を離しなさい!」
地面に落ちたバッグが光ってる。バッグからは突如水の槍が飛び出して、ラーナに命中する。ダメージこそあまり与えられなかったものの、ラーナは反射的に防ぐ行動をとり、美希はラーナの手から離れることができた。
「くっ!なんなの、そのバッグ⁉︎」今度は水の球体の中に閉じ込められた。
バッグじゃない。その中身だ。それに今の声は……。
美希はバッグの中から一冊の本を取り出した。……あれって、秋翔先輩が預かってる夏音先輩の本。どうして美希が持ってるの?
「なに?この本?」美希も心当たりがない?
「美希さん、こんにちは。今は紅葉秋翔と一時的に契約してる精霊、アクアって言うんだけど、分かるかな?」
「ほ、本が喋った!って……秋翔先輩の精霊さん?」ようやく美希も状況がわかったみたい。
「美希さん、夏音とはなにも関わりがないのに、どうして手伝おうなんて思ったの?いつかは今みたいに、こんな危険な目に遭うって分かってたはずよ。正直なところ、あなたが夏音を助けられるとは思えない。」
アクアさんは美希にはっきりとそう言った。
「……。」美希は何も言わずに俯いた。
「夏音の代わりかなんだか分からないけど、あなたに夏音の代わりは無理よ。」
アクアさんは一体何を?
「"代わりは"、ね。」
美希はそう言われて、アクアさんが宿る、一冊の魔導書を見た。
「代わりなんて考えない方がいいわよ。あなたは何のためにここに来たのよ。春香を守るためじゃないの?春香の支えになってあげたいんじゃないの?あなたは足が震えて逃げられなかったんじゃない。春香を助けようとしてたから逃げなかった。勇気のある女の子、私は嫌いじゃないわ。」
美希の目からは涙が溢れていた。
「精霊さん……私、弱いから。何もできない。」
「私があなたの力になってあげる。私と契約して、今井美希さん。」
美希は驚いた表情でアクアさんを見る。
「え?なんで……私なんかが。」
「はい、そういうネガテイブ発言連続はやめて。お互いが納得する契約を交わさないといけないから……私はあなたにネガテイブ発言連投禁止って条件でなってあげる。」
魔導書はくるくると宙を舞っていた。
「美希!美希は弱くなんかないよ!アクアさんの言う通り、勇気のある女の子だよ!みんなは、美希を信じてる。真冬先輩も秋翔先輩も、あの時、美希に逃げろなんて言わなかった。信頼してくれていたから。」
「わた…し……は。」美希……。
水の球体に閉じ込められていたラーナが球体の中から飛び出してきた。
「どうやらもう1匹精霊がいたみたいね。けど、主がいないからろくな力もなかったけど、気持ちよかったわ。」
ラーナは笑って、再び美希の元へと近寄る。
「さて、今度こそ本当に終わりにしましょう。」
「アクアさん!"夏音先輩は春にとって、先輩たちにとって、そしてアクアさんにとっても、大切な人。だから、助けたいの"。私1人じゃ無理でも、みんなと一緒ならできる気がする。うん、出来る!」
「わたしから反対されても尚夏音を助けようとする。気に入った、ちょー気に入った。大好きよ、美希!」美希の体にアクアさんの魔力が宿る。
「水装。」美希の周りを水が踊るように動く。徐々に美希のもとに集まり、水で作られた青いローブを身に纏った。
「あら、ちょっとおしゃれになった?魔力も多少は上がったみたいだけど。」
「春を傷つけたあなたを許さない。水槍Ⅴ。」集められた水は槍を形造る。
放たれた5つの水槍はラーナへと飛んでいく。
「それがどうしたっての!」体で受け止めるラーナ。やっぱり、効いてない。
「水壁。水槍Ⅴ。複合魔法、水槍壁。」
美希の前方に水の壁が現れ、そこから槍がとめどなく発射される。
「効かないって言ってんでしょうが。双光爆!」
水の壁がいとも簡単に崩される。美希は地面を転がって倒れた。
「所詮精霊の力があっても状況は何一つ……」
「変わりますよ、美希とアクアさんのおかげで。」ラーナの顔面を思いっきり蹴り飛ばした。ラーナは何十メートルか転がり、すぐに起き上がった。
「あんたは私が拘束してたはず……。まさか⁉︎」ラーナはさっきまで私を拘束していたところを見る。そこには、私のいたところ以外は穴だらけになっていて、抜け出せるような穴ができていた。
美希はゆっくりと立ち上がって、ラーナに舌を出して挑発した。
「そうか、そうか。お前らまとめて殺す!」
私の剣は弾かれる。美希の魔力もほとんどない。"どうしようもない時"。
「アイさん!」
そう呼びかけると、持っていた剣から猫の精霊!アイさんが飛び出してきた。
「……あれ、やるんだね?」
黙って頷く。アイさんもそれに答えるように頷いた。
剣を右の腰の鞘に収めた。そして、左につけておいた風の精霊石を掴む。忠精都市で夏音先輩からもらったもの。
「アイさん、いくよ!」風の精霊石にアイさんは入り込むと、精霊石は姿を変えていった。
「夏音先輩からもらった精霊石に、雲雀学園長からもらった"2つの弓"。負ける気がしないよ!」
弓をラーナの方に向ける。
「あははっ!どこまでも笑わせてくれるねぇ。矢はどこにあるっていうんだい?」
ラーナは私に向かって真正面に突っ込んでくる。
「"ここにあるじゃないですか"。たくさん。」
2つの弓を前に構える。それぞれの弓に風が集まって、矢を形成した。引く必要はない。私の意思でいつでも放てる。
放たれた矢はラーナに直撃した。今度はラーナも後ろによろめき、撃たれた部分を手でおさえていた。
「もう、終わりにします。最高速。」ラーナの周りをぐるぐると走り回る。ラーナも手を構えているが、私の速さに追いつけていない。
「私に攻撃しても、今のような攻撃じゃ、どのみち決定打にはならない!つまり、あなたの魔力が尽きれば、それで終わり。私は、ジェミニ様のためにも負けられないのよ。」
「私も、みんなのために、負けられないから。風矢乱舞。」ラーナの周りに無数の風の矢を放つ、全方向からの矢。躱す時間は与えない。
矢は当たったが、どれもこれも跳ね返り、地面へと落ちたりしている。
「この技は確かに敵を一掃する技でもあるけど、あなたには向いてない。威力が少ないから。」
「なら、意味が無かったわね。」
ラーナは私の魔力切れを狙うため、両手に光を纏っていた。
「いえ、周りをよく見てください。」
ラーナは気づいていなかった。いつのまにか風の矢で作られた檻の中に自分がいるなんて。
「檻?だからなんだって…….⁉︎」
左手に持つ弓を、精霊石に変えた。代わりに、腰につけていた剣の1つを手に取る。
「矢は風だけじゃないです。超加速、加速、初速。………真・爆速斬。」
あの檻の中では逃げ道がない。つまり、私の足がどんなに遅くても、関係ない。
放たれた剣は一直線にラーナに向かって飛んでいく。
「ジェミニ様、ジェミニ様、お助けを!」
ラーナに直撃した剣はそのまま結界の方へと進み、術式が描かれている部分にも当たった。凄まじい閃光があたりを包む。
結界が徐々に崩れていく。勝った。
「美希、勝った!私たち勝ったんだよ!」
後ろにいる美希のそばに走って抱きついた。
「ちょっと、春!怪我してるんだから動かないで。今回復するから。ってあれ?急に足に力入んなくなっちゃった。」
美希も嬉しそうに笑った。初めての悪魔との戦いで疲れたきった美希は、もう立っているのがやっとだったみたいで、私に寄りかかっていた。
「美希、かっこよかったよ。」
「春こそ。」
「へぇ〜、ラーナを倒したんだー、すごいよ。」
え?
抱き合っている私たちの横に、誰かが立っていた。
やばい。悪魔だ。もう1匹いたなんて。
咄嗟に美希を庇って悪魔の間に入る。
背中を蹴り飛ばされ、美希と一緒に地面に倒れた。
「まったく、ラーナったら結界を壊されるなんてだらしないよ。まぁ、結界が壊れた地点に転移する仕組みにしておいたのは正解だったわね。"パルム"。ラーナを治してやってよ。」
「えぇ。分かったわ。双光輝。この子たちを倒してさっさと撤退しましょう。充分時間は稼げたんだしね、"メルク"。」
ラーナがゆっくりと立ち上がった。
「2人とも、……感謝するわ。」
悪魔、それも3体。ようやく1体倒したばかりなのに。
ゆっくりと立ち上がって、ラーナ、パルムとメルクが並んで立っているのが、霞んで見えた。
やばい、これじゃ当たらない。双剣へと持ち替え、構える。しかし、さっきまで少し遠くにいた2人は、一瞬にして目の前に移動していた。
速い。
「超加速、天神目Ⅲ!」
移動する直前で右腕を掴まれた。
「ほら、ラーナ。」
呼ばれたラーナは、私のお腹の辺りに蹴りを入れられる。
「がっっ!うっ……ぐぅ。」痛い、全身に痛みが走り、もう立ち上がる力すらなくなっていた。
「ほら、あんたの仲間でしょ。」メルクはいらないゴミのように何かをとなりに投げ捨てた。
「み……き……⁉︎」ボロボロになった美希が横に倒れていた。
「2人とも!しっかりして!」
アイさんの声がする。立ち上がりたいけど、もう力が入らない。美希だけでも、ここから。
そう考えた瞬間、空から何かが悪魔めがけて落ちてきた。
3体の悪魔は直前に察知して、避けていた。
一体何が落ちてきたの?
「まったく……無茶しちゃって。あとで吹雪に怒られても知らないわよ?2人とも。」
この声は。その声を聞いただけで、涙が溢れてきた。
「ちょっとまって、計画だと学園長は全員それぞれの学園に戻るはずよね。」
「まぁ、計画は計画。ズレだって承知の上でここにいるわ。」3体の悪魔は一瞬動揺していたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「ひ……ばり……学園、長。」
私がそう呼ぶと、雲雀学園長は私に歩み寄ってきて、耳元でこうささやいた。
「待っててね、すぐに安全な場所に連れてくから。」
すごく、安心させられた。
「あなたたち。やられる覚悟はできた?言っておくけど、手は抜かないから。」
次回 圧倒的な力
改めまして作者の伊藤睡蓮です
春香達の前に現れた心強い助っ人。次回はようやく雲雀真純の本気が見れるかも?
次回の投稿のお話をさせていただきますと、来月の中旬あたりに投稿できるかと思います。ぜひ見てください。
Twitterでも告知しているのでぜひご覧ください
それでは!




