二人で森を散策するらしい。
窓の外を見る。日の高さから、今はだいたい正午を回ったところだろうか。
食事を終えてようやく一息つくのかと思ったら、食器を片付けたメイはおもむろにゴソゴソ藁の下を漁り始めた。
どうやらそこに貴重なものを隠しているらしい。まあ、既に先ほどの掃除で俺は見てしまったのだが。やれやれ。
彼女はそこから小ぶりの鎌を取り出すと、大きな風呂敷に包んで出かける支度をした。
「ほら、出掛けるよぷに太郎。それとも食べ疲れちゃった?」
俺は彼女の肩に飛び乗った。愚問だな。どこにでも付き合ってやるぞ。やれやれ。
メイは家を出て人気の無いところまで来ると、キョロキョロと辺りを見回して誰もいない事を確認し、柵の隙間からひょいと身体を滑らせた。迷いのない動きだった。
行き先は昨日の森だ。どうやらこいつは日頃から村をこっそり抜け出しては、頻繁にここで食べられる野草や木の実、薬草なんかを採取しているらしい。
いくら魂の格が高いとはいえ、随分と危険なことをするものだ。そりゃあ衛兵も心配するだろう。
だがメイは森に到着すると、ガサガサと枝葉をかき分けて進んでいく。薬草は傷を付けないように鎌で根元から丁寧に刈り取り、野草は素手でぶちぶちと引っこ抜く。
「あ、クワの実あるじゃん! やった!」
木の実を見つけると、好物なのか手慣れた様子で熟した実だけを美味しそうに次々と口の中に放り込む。まったく、逞しいな。
やっぱりまだ腹は減ってるんじゃないか。やれやれ。
そうして二人で昨日よりさらに森の奥深くに進んでいく。しかし、見かけによらずメイは慎重だった。安全と分かっている木の実などはその場で食べることもあったが、少しでも危険性のあるものは決して口にせず、俺に食べさせない。
まあ正直、昨日のレベルアップの際に俺は毒耐性も獲得しているらしかったので問題ないのだが、メイが真似して食べるとよくないので、素直に言う通りにしておいた。
だが道中、俺があまりにもその通りに従うものだから、メイはふいに怪訝な顔をして立ち止まった。
「変なのー。ぷに太郎、まるで私の言葉が分かるみたい。スライムっておバカさんだと思ってたけど、意外と賢いのかな?」
そんなわけないだろう。俺が特別なだけだ、やれやれ。
「もーっと沢山、捕まえて売れば儲かるかな? うちにももう一匹くらいいても良いかも」
まったく、何を馬鹿なこと言ってるんだか。危ないから普通にやめておけ。それにお前みたいな奴に付き合えるのは俺くらいのものだぞ、やれやれ。
俺は抗議するようにメイの肩から降りると、そのまま目の前で威嚇するようにぴょんぴょん飛び跳ねた。
「なにー? もしかして、嫉妬してるの? ウケるー♡ そーだよねー、ぷに太郎は私のこと大好きだもんねー。他の子が来たら困るよねー♡」
やれやれ、こっちの苦労も知らないで好き勝手言ってくれるな。ふぅん、これは少し分からせてやる必要があるようだ。
俺はメイに近付くと、スルスルと足を這いながら身体を薄く伸ばしていった。足の爪先から、ふくらはぎ、ひざ、腰と丹念に凝りをほぐしていく。
「えっ、何? 何なの?」
不意を突かれたメイは、思わずビクッと身体を震わせる。
チュクチュク。チュパチュパ。
ムニムニッ。レロレロ。
「ちょっとぷに太郎! や、やめなさい! んあっ、にゃっ、にゃにこれえっ♡ 足がっ、足がぷに太郎に食べられちゃってるよおっ♡ あんっ♡ こ、こんなのらめッ♡♡」
俺は前世で経験したドクターフィッシュを思い出しながら、それを再現するようにメイの足を隅々まで丹念にほぐしていく。
全身のツボを刺激されて立っていられなくなったのか、思わずヘナヘナとその場で腰砕けになったメイを見て、ようやく勝利を確信した俺は、勝ち誇りながら彼女の上に乗った。
ふぅ……。これで俺の凄さが分かっただろう。見違えるように足も軽くなっていると思うぞやれやれ。やはり俺一人で十分だなやれやれ。
だがメイは謝るどころか、涙目になりながら俺を睨みつけると、そのまま片手で掴んで俺を木に投げつけた。
「も〜信じられない! このエッチスライム! 今度やったら森に捨てていくからね!!!」
どうやらやりすぎてしまったらしい。まったくもってそんなつもりはなかったのだが、また俺は何かやってしまったのだろうか?
……まあ、確かに少し大人気なかったか。危険な行為に手を染めてほしくなかっただけとはいえ、俺もまだまだだな。
俺は木にべちゃりと叩きつけられた後、少し後悔しながらもじもじと身体を揺らした。メイに近づこうかどうしようか迷っていると、体勢を起こした彼女は自分の身体の変化に気づいたようだった。
「あれ、なんか足が軽いや。あ、もしかしてまたアンタが何かしたの? 私の足をマッサージしてくれたってわけ?」
だから最初からそう言っているのだが……。やれやれ、言葉が通じないとは難儀なものだな。
「ほら、もう良いからこっちに来なさい。本当、ザコなんだから……」
そうやって座りながら手を差し伸べられてはしょうがないな。女に恥をかかせるわけにはいかないからな。
俺はまたスルスルと彼女の手から肩に登って、少しだけその頬に身体を預けた。やれやれ。




