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ここがこいつの家らしい。

 先ほどの場所から徒歩10分。俺はメイに抱えられたまま森を抜けた。

 彼女の服装から予想はしていたが、やはりここは物語でよく見かける中世風の異世界らしかった。


 連れてこられた場所は村というより集落のようで、魔物除けの簡単な木の柵が家々を囲むように連なっている。


 少し間の空いた柵の脇にはいかつい門番らしき男が一人立っており、メイが声を掛けると男は呆れたように手を振った。


「ただいまー」


「メイ、いつも言ってるだろ。また柵を乗り越えて一人で森に出たのか? 危ないから……って、なんだぁ?

 まさかそれ、スライムじゃないのか?!」


 驚いた男が慌ててクワのような武器を俺に向けた。メイに当たったらどうするんだ。いきなりご挨拶だな、やれやれ。


 しかし、彼女はあっけらかんとした表情で笑った。


「大丈夫大丈夫、スライムなんてザコモンスターだよ? メイがちゃんと躾けるから問題ないって♡」


「いや、そうは言っても……」


 面倒なことだ。仕方ない、一肌脱ぐか。


 俺はメイの腕からヌルッと抜け出して、男の肩に飛び乗った。


「ひゃ、ひぁあっ!!!」


 驚いた男が武器を落として飛び上がる。


 やれやれ、情けない奴だ。仮にも衛兵がそんなことでどうする。

 俺は気にせず体を伸ばして、男の首筋に優しく巻き付く。


 思った通りだ。


 今日は暑いから少し首筋を冷やして、体を冷ましてやるぞ。やれやれ、いつもご苦労様だな。


「あっ♡ き、気持ちいい……」


「でしょ? 見た目はキモいけど、触り心地は良いからメイのペットにしたの。ほら、ぷに太郎おいで♡」


 まったく、俺はペットになった覚えはないんだがな。俺は男の肩で縮こまると、また勢いよくメイの胸元に飛び込む。


「よしよーし。良い子ね♡」


 飼い慣らせたと思っているのか、気を良くしたメイはそう言って俺を優しく撫でた。

 だがよく見ると、メイも顔中汗ばんで、首筋がうっすらと光っている。


 やれやれ、俺を可愛がる前にもっと自分の体を労ったらどうだ。仕方ない、熱中症になられても困るからな。しょうがないな。


 俺はメイの胸元から首筋に滑り込んだ。瞬間、ビクンッ、とメイの身体が大きくのけぞる。首から熱を持ったうなじにかけて、俺は丹念に彼女の体をするすると這っていく。


 ペロッ ペロッ


「あんっ♡ ぷに太郎っ…… ああっ♡ こらあっ……やめっ、てっ……!」


 耳の裏と首筋が終わると、今度は背中から服の隙間に入り込み、火照った体を冷やしながら衣服に染み込んだ汗を吸いだす。


 ビショビショじゃないか。どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。風邪をひいたら大変なところだったぞ、やれやれ。


 首筋の汗はしょっぱいだけだが、服の方は少し酸っぱかった。洗濯は毎日しているのか? 不衛生だなまったく。


 ――レベルアップしました。


 またか。


 どうやらメイは生まれつき魂の格が高いようだ。だから森に入っても魔物に襲われないし、メイの汗や皮脂を取り込むことで俺のレベルも上がるみたいだぞ。


 ……仕方ない。村に着いたら離れるつもりだったが、そういうことならもう少しだけ一緒にいてやるか。


「……どうやら本当に害はないらしいな。分かった。でもメイ、ちゃんと躾はするんだぞ」


「んえっ! はひっ♡ わ、分かっ、たぁ……♡」


 チュルッ


 なんだその情けない声は。本当に分かっているのか、やれやれ。


 *


 門をくぐってまたしばらく歩く。狭い集落だ。住人も五十人に満たないだろう。メイはすれ違った人たちみんなに声を掛け、村人も笑顔で応じていた。とても豊かには見えないが、俺が前世で暮らしていた街よりもどこか温かみを感じて嫌いではなかった。


 メイの家は集落の中でも少し離れたところで、他の家よりも一回りほど小さく、こぢんまりとしていた。大型台風でも来れば跡形もなく吹き飛びそうだ。こんなところで暮らしているのかやれやれ。


「ほらぁ、いつまで引っ付いてるのー? そんなに私のカラダが気に入ったの♡ ざーこ♡」


 はあ……まったく、親の顔が見たいものだ。


 俺はため息を一つついて飛び降りると、ドアを開けて小屋に入る。


 愕然とした。


「ふふっ。プルプル震えてどうしたの? さっきはあんなにぐねぐね動いてたのに、図星突かれて拗ねちゃった

 の?」


 メイはそう言って、俺の体を足先でツンツンと突いた。その顔は出会った時と同じように曇りのない笑顔だった。


 やれやれ。


「あー、疲れたー」


 メイは着替えもせずにベッドへ体を投げ出すと、寝転んだまま靴を脱いで床に放り投げた。藁を敷き詰めてボロ切れを一枚掛けただけの簡素な寝床が乾いた音を立てた。


「あーメイ足疲れちゃったなー。ねえねえ、ざこざこスライムさん。こんな時、可愛いペットはどうすれば良いと思う?」


 生意気だし、素直でもない。だが、人里まで連れてきてもらった恩もある。


 物置き小屋みたいな家と粗末な藁のベッド。使い古されたささくれ立った机と椅子。食器は一組のみ。


 親の顔が見たいと言ったのは訂正するぞ、やれやれ。


 プニッ プニッ


「あはっ来たぁ♡ やーらしー♡ 本当メイの事、好きなんだからぁ♡」


 言ってろ。やれやれ。


 ムニュッ


「あっ、そこ良い……」


 ムニムニ


 ギュッ ギュッ


「んっ……///」


 まったく、ふくらはぎを揉んでやってるだけなのに一々うるさい奴だ。


 だが、今日までこの部屋は少し静かすぎたのかもしれない。俺をペットにしたからには、静けさとは無縁の生活にしてやるぞ。後悔しても遅いぞ。


 やれやれ。

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