どうやら転生したらしい。
「どこ、ここ……??」
気が付いたら俺は岩壁に囲まれていた。
ピチャッ…… ピチャッ……
風が冷たい。水音だけが辺りに響いている。
静かだ。28連勤中だからか沁みるな。
まったく、新規出店なのに従業員が俺とパートだけとか、弊社の人手不足は深刻極まっている。陳述書を出したら社長の息子に会社批判とか言われて譴責処分になったぞ。本当は減給にしたかったんだとさ。やれやれ。死ね。
……って、違う違う。なんでこんな所にいるんだ?
辺りを見回しても出口は見えない。どこか洞窟の中にいるみたいだ。頬をつねろうとしたが腕がない。ついでに足もない。あと地面が近い。首だけが地面に吸い付いているような感覚だ。
仕事が嫌過ぎて幻覚でも見てるのか? やれやれ、狂うのは自律神経だけで間に合ってるんだがな。
そういえば俺、さっき帰宅途中に通り魔から女を庇って刺されたんだっけ。なんか血もどくどく出てたし、もしかして死んだ?
しまったな。明日も6時から仕事なのに。死んだらヘルプの連絡出来ないぞ。やれやれ。
まあ、天涯孤独の39歳独身の素人童貞が死んだ所で、誰も悲しまない。使ってない有給と、撮り溜めしていたアニメだけが心残りだ。
てかそんなことより、湖あるじゃん。
俺は水面に映った身体を見る。そしたら何故か水色の球体が映っていた。可愛い……くはない。無機質な水の塊。なんかプルプルしててキモい。
「……なんじゃこりゃー! 俺の身体がスライムになっているじゃないか! ま、まさかこれは今流行りの異世界転生ってやつー!?」
どうやら俺は本当に死んでしまったらしい。しかも生まれ変わり先がスライム。雑魚じゃん。リセマラするか?
じゃあ今はさしずめダンジョンの最下層ってとこか。どうせ封印された魔族とか、ドラゴンとか、フェンリルがいるんだろ? まあ、後でみんな美少女になるから問題ない。俺はなろうに詳しいんだ。やれやれ。
……
しばらく歩いたが、どうやら俺の他には魔物はいないみたいだな。やれやれ。
そして風が吹き込んでくる方へしばらく跳ねていると、奥の方から光が差し込んでいるのが見えた。
どうやら出口のようだ。一階だったか。やれやれ。
だがせっかく洞窟から出てきたが、今度は森の中か。参ったな、これじゃあ洞窟と変わらないぞ。
「きゃーっ!」
むむ、女の声がしたぞ! まさか、魔物に襲われているのか。今行くぞ!
「やだっ! こっち来ないで!」
なんて事だ! 女の子が襲われている。しかし相手は魔物ではなくクマバチだったぞ。やれやれ。
仕方ない、助けるか。
俺は蜂に飛びかかって、そのまま蜂を身体の中に取り込んだ。蜂は俺のプニかわボディの中でしばらく暴れ回っていたが、やがて生を諦め、俺の中で息絶えた。
「スライム!」
おっと、余計に怖がらせてしまったか。だがいたいけな少女だ。少し尻尾を振れば分かってくれるだろう。
ぷるぷる。ボク悪いスライムじゃないぞ。
「うっわ、プルプルしてるー♡ あはは、きっもーい♡」
やれやれ。助けてやったのに酷い言われようだな。
「なになに、ザコ魔物さんがメイになんか用ぉ? あっ、分かったぁ♡ 情けなさすぎて自分からやられに来たんでしょ♡ そうだよねぇ、スライムなんかに生まれちゃったら生きててもしょうがないもんねぇ、かわいそー♡」
ハラスメントはやめろ。
「良いよぉ、私が踏み潰して、次はもっとマシな生き物に生まれ変わらせてあげるね♡」
やれやれ。頼んだ覚えはないんだがな。
ぐにっ。
「あっれー? 沈み込むだけで死なないや。なにこれ、変なのー♡」
ぐにっ、ぐにっ。
「ほらほらぁ、死んじゃえ♡ 死んじゃえ♡」
残念だったな。どうやら俺は無敵らしい。
ん? よく見るとこの子、足の皮が擦りむけている。それにサンダルもボロボロで底に穴まで空いているじゃないか。このままだとばい菌が入って危ないぞ。
……仕方ないな、やれやれ。
れろっ、ちゅぱっ。ちゅっ、ちゅぱっ。
「んひゃっ!? な、なに!? ちょっ、このザコスライム、私の足の裏舐めてるの?! きっもぉ♡ んっ……あはっ、くすぐったぁい! ひゃははっ、やめっ、やめてよぉ……っ!」
人聞きが悪い。俺の身体で傷口を洗って保護してやっただけだ。ついでにサンダルと足の汚れも綺麗にしてやったぞ。やれやれ。
「えっ……? 嘘、足が痛くない……? なにこれ……もしかして、このザコスライムがやったの?」
今さら気付いてももう遅い。もう既にお前の足の指の間に挟まった微生物すら残さず食べ尽くしてやったぞ。食べ方は綺麗な方なんでな。俺の唯一の特技だ。
――レベルアップしました。
システムメッセージか。あるあるだな。
どうやら汚れを食べたことで、魂のランクが上がったようだな。徳を積んだ甲斐があった。
「へー……コイツ、使えそーじゃん。殺すのやーめた、っと。お前、今日から私のペットにしてあげるね♡ じゃあお家に帰ろっか、ぷに太郎♡」
やれやれ。勝手に名前をつけるな。
こちらの気も知らず、メイは俺を両手に抱きかかえ、突然ぎゅっと頬を押し付けた。
「冷たっ♡ 魔物なのに小さい女の子に持ち上げられて、今どんな気持ちー? ぷに太郎はザコだから、生き方も選べないんだよ? メイちゃんに飼われて一生情けないペットとして暮らすの♡ あはっ、惨めー♡」
まったく、好き放題言ってくれる。
あまり馴れ馴れしくするな。あと、子供だからって調子に乗るなよ。俺はそんなに安いスライムじゃないぞ。
だが、ちょうど良い。このまま村まで連れて行ってもらうとしよう。それまで少し寝るか。昨日も3時間しか寝てないからな。かーっ、つれえ。
こうして俺とメイの共同生活が始まったぞ、やれやれ。
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