仕事はきちんとするらしい。
やれやれ。呪いときたか。文字通り『因果』な事だな。
「ちょ、ちょっとセレス! ぷに太郎が呪われてるってどういう事よ!」
「まあまあ落ち着きたまえ。言ったろ便宜上だと。簡単に言うと、この場所と彼……彼女……? はて? 君はどっちなんだろうね?」
「どうでも良いから!」
どうでも良いぞ。
「要はこの場と彼の結び付きが強いという事さ。多分、この場所で何か大きな事件があった。彼はその様子をどこかから見ていて、今それを思い出しているんじゃないかな? だから、メイの家で君を見たときは何も起こらなかった。さぁスライム君。どうかな僕の推理は?」
少し見ただけでそんなことまで分かるのか。魔眼とやらの力か、こいつ自身の推理力なのか。まあ答える義理はないな。
「ほら、ぷに太郎も困ってるよ。これ以上変なこと言うと、怒るよ! 本当に大変だったんだから!」
そうだぞ。第一スライムに自供を求めたところで、俺はしゃべれないぞ。やれやれ。
「……まあ確かに、今見るべきはこちらだろうね。時間が経っているのに呪いが消えていない。この痕跡を辿れば、ここで起こった事件の犯人に辿り着くはずだよ。もっとも生きていれば、の話だけどね」
そう言ってナイフをポケットにしまったセレスは、まるで探偵のように何かを追って歩き出した。メイも渋々ながら後に続く。だが、俺は何となく行き先が読めていた。
まったく……気が進まないが仕方ない。
俺は深くため息を吐いてから、二人の後を追った。
⭐︎
セレスの背中について行くこと十数分。
地面に残る『呪い』とやらを辿って歩いていた彼女の足が急に止まる。
セレスは草むらにしゃがみ込むと、ゆっくりと木の影から向こうを覗き込む。少し小高くなっている丘の斜面に、土を掘ってつくられた小さな横穴がある。
「どうやら付いたみたいだよ。ゴブリンの『巣穴』だ」
やはりか。
あのゴブリンは死体を運んで消えた。まさか俺とメイの為に移動させてくれたんじゃ無いのだとしたら、自分の棲家に持ち帰ることは想像がついた。食べるのか、両親の墓前に供えるのかは分からないが、俺は意識的にあまり考えないようにしていた。
「どうやら、これでハッキリしたみたいだね。男はすでに死んでいる。そして、落ちたナイフのあった場所が男の殺害現場、それからゴブリンが男を引きずってここまで運んできたんだろう。スライム君は恐らく、メイを守りながらそれを見ていた。ゴブリンが男とやり合ったのは幸運だった。でなければ君はあの話のまま、その男に連れ去られていただろうね」
メイは腕を抱えて身震いした。こいつが優秀なのは認めるが、マジで無神経だぞ。
「セレス……? これからどうするの、私怖いよ。もう帰りたい」
メイがブルっと身震いした。俺がメイの膝にくっつくと、両手で俺の頭をキュッと握りしめた。手が冷たい。
俺は少しだけ触手を伸ばすと、セレスのローブを引っ張った。真相が分かって良かったな。だいたい大当たりだ。さあ、満足したならもう帰るぞ。やれやれ。
「ふむ……二人はもう帰りたいみたいだね。ありがとう、君達は非常に役に立ったよ。僕一人なら今日一日でここに辿り着くのは難しかっただろう。じゃあ、先に帰ってていいよ。お疲れ様」
「セレスは帰らないの?」
俺を握ったまま、メイが見上げる。
「帰りたいのは山々だが、あいにく僕の上司は推論だけでは納得してくれなくてね。取り敢えずあそこに乗り込んで、男の死体か骨、残っていたら遺品でも持って帰るさ」
セレスは、まるで散歩に行ってくるような口ぶりだった。
そして、俺にとっては最悪な言葉を続ける。
「後、村長さんからゴブリンの駆除もついでにお願いされていてね。何、大した仕事じゃない。あいつらの耳でも手土産にすれば喜ぶだろう。それじゃ、熊に気をつけて帰るんだよ」
「そうなんだ。じゃあ気を付けて帰ってきてね。私はへーき。だってぷに太郎がいるもん、ねっ」
やれやれ。困ったことになった。
メイもいる手前、どうしたものか。
「ぷに太郎? どうしたの?」
「どうかしたのかい? ……って、ちょっと! どうしたんだいスライム君!?」
取り敢えず全力でセレスのローブを引っ張ってみるか、やれやれ。
「こらっ、ぷに太郎やめなさい! セレスが困ってるでしょ!」
「ふふ、参ったなぁ。そんなに僕と離れるのが嫌なのかい? うーん、困ったな」
くっ……ダメか。まったく伝わらねぇ。
そうだ、ナイフだ。あれを使えば……。
今度はセレスのポケットに触手を伸ばしてナイフを取ろうとする。こいつを使って何とかジェスチャーで伝えられないか……って、ぎゃあああっっ!!
セレスのポケットに手を突っ込んだ途端に電流が流れた。俺はビクンと大きく震えてからその場にへたり込んだ。
「ぷに太郎!」
メイが小さく悲鳴を上げる。
「今のは僕のせいじゃないからね! スライム君が勝手にポケットに触手を突っ込んだから、術式が発動したんだ! 「盗み防止電撃」の術式がね」
やれやれ……何でもありか……
「……もしかしてぷに太郎、ゴブリンをやっつけて欲しくないの?」
流石はご主人様だ。まったく、やはり俺の相棒はお前だけだな。俺は体を上下に揺らす。
「そうなのかい? でも、そんなこと言われてもねぇ……」
「セレス、お願い。ぷに太郎がしたくない事なら、私も反対」
セレスは困ったように首を振った。やれやれ、ようやく納得してくれた。
そうであればどんなに良かったことか。
「ダメだ。仕事として請け負った以上は僕にも責任がある。悪いが、ゴブリンは駆除させてもらうよ」
やれやれ。社会人は辛いな。




